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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

12章 帝国と二人の戦鬼将軍

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262 戦鬼将軍の威光

 バザック氏が魔法で破壊したクラウドの研究所。その最奥には魔法の影響を全く受けていない扉がそのまま残っていた。

「ここか。それにしても全く影響を受けていないのか」

「そのようです。余程重要な場所なのでしょう。壊されないように結界のようなものが発動したのでしょう」

「ルシエル様、開けます……あれ? 鍵穴はないのに開きません」

 エスティアは率先して扉を開けようとしてくれたのだが、開かないようだ。

「何か仕掛けでもあるのかな? それなら【ディスペル】これでどう?」

「もう一度試してみます。あ、開きました」

 すると今度は手を触れただけで、簡単に開いたみたいだ。


 魔法陣か何かの仕掛けがあったんだろうな。ネルダールにいた時も、こういう魔法技術を勉強することが無かったから、いずれはこういうのも覚えてみたいな。

 そんなことを考えていると、エスティアが扉の中へと進んでいってしまった。

 中に罠や敵がいる可能性もあるというのに、全く躊躇しないエスティアの行動力に焦る。しかし考えても仕方ないので、ライオネルと共にエスティアの後を追って部屋の中へと足を踏み入れた。


 部屋へ入った直後、エスティアが倒れていた人物へと駆け寄り、抱き抱えて直ぐにこちらを見て切羽詰まった声を上げた。

「ルシエル様! 直ぐに奴隷紋の解除をお願いします」

 そういえば昔エスティアと一緒にいたのなら、奴隷でおかしくなかった。

 苦しんでいるということはクラウドの奴隷だったのだろうか? 一度ライオネルへと視線を移して確認を取った後、エスティアが抱えた人物へとディスペルを発動させた。

 すると何やらバリバリバリバキィ-ンと、何かに亀裂の入るような音の後に金属が砕けたような高い音が聞こえた。

 ただ問題はなさそうなので、エスティアに確認を取る。

「まだ生きているのか?」

「はい。見つけた時には喉を押さえて呼吸が出来ないようでしたけど、今は呼吸出来ています」

 奴隷紋を刻まれた奴隷は、主人が死ぬとか解放か追従する形で死を迎えさせられる。

 そのことは分かっていたけど、どうやら直ぐに死ぬことは出来ないみたいだな。


 知り合いが生きていて喜んでいるエスティアには悪いが、俺は念のためきれいにするためではなく、魔族化しているかどうかを判断するために浄化魔法を発動させた。 

「あ、ルシエル様ありがとうございます」

 エスティアのお礼に少しだけ罪悪感を懐きながらも、エスティアの抱えた人物に目立った反応がなかったので、どうやら魔族ではなさそうだと一息ついた。


「その人がエスティアの言っていた殺されたはずの転生者なのか?」

「はい。あれから数年経って少し変化はありますけど、アリスお姉ちゃんで間違いないです」

「……分かった。本当はすぐにでも話を聞きたいところだけど、これ以上はさすがにケフィン達と合流しないと不味い。隠者の棺に収容してこの部屋を軽く漁ったら破壊して合流しよう」

「ありがとうございます」

「それでは私は先にこちら側を探します」

「ああ、頼む」

 こうしてアリスと名乗っている転生者を隠者の棺にエスティアが収容させた。


 改めて研究所の最奥の部屋を見てみると、薬品庫とでも言いたくなる程、大量の薬品がところ狭しと置かれていた。

 そしてテーブルの上には科学の実験で使うような試験管や顕微鏡まであった。

「……もしかしなくても、ここでこれらの物を使って魔族化の適合率を上げる実験などをしていたのか?」

 これらの物を片っ端から魔法袋へと収納して、永久に封印することにした。

 いずれスローライフを過ごす時に、こんなものが世に出回ればのんびり過ごすことなど出来なくなってしまう。

 それだけは絶対に嫌だ。

 そう決意して、あらかた回収したところで、ライオネルにこの部屋を燃やしてもらうことを頼んだ。


 ライオネルが炎の大剣で火を放ち、燃え上がっていくことを確認したところで、二人に声を掛ける。

「これで当初の目的は達成した。クラウドはライオネルが討ち取ったし、魔族化の研究をしていたここも潰した。あとは帝国内のことだけど……」

「ルシエル様、よろしければここは私に全て任せていただけますか?」

「分かった」

「……何をするか聞いたりはしないのですか?」

「ああ。俺は帝国のことをよく知らない。それなら良く知っているライオネルに任せた方がいい方向に進む気がするんだ」

「ありがとうございます。それではケティ達と直ぐに合流しましょう」

「ああ。そうしよう」

 研究所内にくまなく火を放ち、俺達はクラウドと戦った場所へと戻ってきた。

 すると、どうやら上が騒ぎになっているようなので、直ぐに地上へと移動することにした。

「上に行ける階段を作る【土龍よ 我が道を作れ】」


 幻想杖に魔力を込め、現象をイメージして土龍へ語り掛けながら杖の先端で地面を突くと、地面が隆起してあっという間に階段が出来上がってしまった。

「あまり魔力が必要じゃなくて助かったな」

「ルシエル様、先に行きます」

 ライオネルはそう告げて階段を一気に駆け上がっていった。

 うまく出来たので、もう少し反応が欲しいところではあったが……まぁ仕方ないか。

「魔力の方は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。さぁ行こうか」

「私が前に出ますので、フォローをお願いします」

 エスティアの言葉に頷いて階段を上がり目に映ったのは、傷ついているケフィン達とそれを守るようにかろうじて立っていた半壊した巨大ゴーレムだった。


 帝国兵の力を侮ったわけではないが、三人が傷ついていることに驚きながらも、直ぐに三人にエリアハイヒールを発動しながら、帝国兵に目を向けると呆然とした顔をして固まっていた。

 状況を確認しようケフィン達に近寄ったところで、ライオネルの声が聞こえてきた。

「もう一度問う。誰に刃を向けている? よもやこの私にか? もしもそうならばいつでも相手をしてやろう。さて、まずはこの場を指揮している者は前に出よ」

 すると押し出されるような形で、二人の帝国兵が前に出てきた。二人の顔は既に真っ青になっている。 

 こうしてみると帝国で戦鬼将軍だった頃、ライオネルが畏怖の存在だった良く分かるな。

 それにしてもここに集まった兵士達をざっと見渡しても、一切怖さというものが感じられない。

 ライオネルに委縮しているからなのか、それとも……。


「朝から私に剣を構えるとは、皆やる気に満ち溢れているではないか。久しくしていなかったが、今から演習でもしてみるか?」

 笑うような声で兵達に声を掛けると、兵士達の目から生気が失われていく。

「い、いえいえいえ。ライオネル様は一線から退かれると宣言したばかりですし、今後は防衛に力を入れていただければ今後も我が帝国は盤石となりましょう」

「そうです。それにここ数年体調を崩されていたのですから、無理はいけませんとも」

 帝国兵は強靭な肉体と精神力を持ち、何も恐れず前に進む鬼人の如き集団だと聞いていたけど……どうやらここにいる兵達はそれに当てはまらないようだ。

 弁が立つことから元々貴族出身なのだろか? それとも金を積んで騎士になった元商人のクチだろうか?

「ほう。そこまで気をつかってくれるのか」

「も、勿論です。将軍は帝国の最強の矛であり盾なのですから」

「武の頂点であるライオネル様と演習をするなど恐れ多いですし……」

 集まった兵士達も同意するように一斉に頷いた。

 ライオネルは笑って頷き、兵士達にも安堵の表情が広がっていく。


「そうか。それではいくら怪しいとはいえ、私の友人と従者を傷つけたのだから、彼等にも力を貸してもらって、ここにいる者達全員と演習をやろうではないか」

 その瞬間、その場の空気が凍り付いたように、静けさが場を支配した。

 それから数秒後、この空気を破ったのは意外にも隊長格の二人だった。


「お、お待ちください。そちらの怪し……方々に攻撃を仕掛けたのは我々ではありません。そこらに転がっている異形と戦われていて、私達はつい先ほど駆け付けただけなのです」

 なるほどな。それなら三人が怪我を負っていたのも合点がいく。

 それにしてもやはり場内にも魔族が入り込んでいたか……。

 そうなるとまだ魔族が潜伏している可能性も否定出来ないな。


「……そうか。それならば何故お前達は戦っていないのだ? いくら早朝とはいえ、城で異変があった場合、直ぐに現場へ向かうことになっているだろう」

「そ、それはまず皇帝陛下の安全を優先したからです」

「ふむ……それならばこの件は陛下もご存じか。ならば報告せねばなるまい。諸君、誠に残念だが演習はまた後日にしよう。陛下は寝所に居られのか?」

 ライオネルがそう告げてから兵士達は、喜色が抑えきれない顔をしながらも実にキビキビした対応をしていく。


「はい。まだお休みになられているようでした」

「将軍が陛下にお顔を見せれば、陛下もご安心されるでしょう」

「うむ、ではそうするか。諸君等は職務に戻り、帝国兵として恥じない行動をするように」

「「「ハッ」」」

「「それでは失礼します」」

 隊長格二人が挨拶を終えると、兵士達は一斉に会釈をしてこの場を逃げるように離れていった。


「これで安心して城の中を歩けます」

 ライオネルは振り返りながら笑った。

 いつも以上に余裕であるその姿を見て、今の俺はライオネルからどう映って見えるんだろか? そんなことが頭に浮かんだ。

 出来ればこれぐらいの余裕があるように見えていれば嬉しいんだけどな……。

 そう思いながらライオネルに頷き、ケフィン達の具合を確認することにした。

「ケフィン、ケティ、ポーラ。皆大丈夫か?」

「はい。こちらへ上がった直後に魔族達の奇襲を受けてしまい、また魔族が強かったこともあり苦戦を強いられましたが、少しすると全ての魔族が苦しみだしたので、その隙に全ての魔族を倒しました」

「かなり強かったニャ。煌びやかな鎧を着ていたから、たぶん元々は近衛兵だと思うニャ」

「魔力限界。お腹空いた……」 

 ……奇襲されていたのか……。バザック氏が魔法を放っていたから聞こえなかったんだな。

 それにしてもケフィンとケティの二人が手強く感じってことは、これから先も気は抜けないな。

「ポーラ魔石は?」

「……もうない」

 このバリケードのようなゴーレムで全てを使い切ったんだろうな。

「皆、無理をさせてすまない。だがこれで当初の目的は達した。後は離脱するだけだけど、ここからはライオネルに指揮を移す」

 そう宣言すると三人の視線が俺からライオネルへと集中した。


 そして……。

「ここからは一気に皇帝の寝所まで赴き、皇帝を捕縛することにする」

 ライオネルは力強く宣言した。

お読みいただきありがとうございます。


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