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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

12章 帝国と二人の戦鬼将軍

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260 敵討ち

 バザック氏は偽バザック氏がエビーザで話ていたことと同じ内容を語りながら、各属性の魔法の槍を空中に増やしていく。


「私を助けたのは、まだ新米で部下になったばかりの弟子達でした。弟子達はイルマシア帝国からの追手が魔族領近くには及ばないと判断して、南西の地へと逃げてきたらしく、そこで自給自足をしている村へと辿り着き、その村で私の回復を待っていました」


 半年もの期間を看病してくれていたとは、バザック氏は人望もあったようだな。

 それにしても魔族領か……今はレインスター卿の魔法で封印してあるから、高位の魔族が出て来ることはないだろうけど、少し強めの魔物だっているはずだ。

 魔族領に近いなら瘴気だって濃いだろうし、人が住むには適していない場所なんじゃないだろうか?


「バザックさん達は、ずっとその村で過ごされていたんですか?」

「ええ。私が目覚めるまで、弟子達が魔法を使って村を拡張したり、畑を耕したり、時には魔獣を倒していたらしく、信頼関係は既に出来ていましたから。それに……」

「それに?」

「既に我々には帰る場所が無く、忠義を尽くす相手もいませんでしたから、それならば私達を匿ってくれた村人達の力になろうと思ったのです」

 その言葉を聞いて、かなり義理と人情に厚い人なんだと感じた。


 バザック氏程の実力者なら、冒険者ギルドへ登録して活動すれば、直ぐに生活の基盤ぐらいは整えられたはずだからだ。

 しかしバザック氏とその弟子達は自給自足の村に留まり、世話になった村人達に恩義を返すことを決断するなんて、口で言う程簡単なことではないし、普通はそこまで割り切れないと思う。


「……帝国への復讐は考えなかったのですか?」

「目が覚めてから数日程は考えたこともありましたが、既に守る国もなく、帝国を嫌っていても、私達を救ってくれた村人達の命を、危険に晒すことは出来ないと皆で話し合って決めました」

 ずっと帝国領にいたのなら、ライオネルの活躍も知ってはいるんだろうな。


 さてと、クラウドのこともあるし、バザック氏もいつまで魔法を行使出来るか分からないから、本題へ入ることにする。

「ずっとその村にいたのなら何故、奴隷になっていたんですか?」

「数年の時が過ぎ去った頃、私が村長になることが決まった矢先に、小規模な魔獣の集団暴走(スタンピード)が起こったのです」

「魔獣の集団暴走(スタンピード)ですか?」

「ええ。魔物を暴走させたのはそこまで強くない魔族でした。ただその魔族がいると魔物が強力になるので、先行して何とか潰しました。そこで私の魔力は枯渇しましたが、何とか魔獣を退けることが出来ました」

 偽バザック氏も確か魔力が枯渇して、アルベルト殿下とメルフィナさん達に助けられたと語っていた。

 もしかすると敵前逃亡したところを魔物に襲われ、たまたま殿下達に助けられたんじゃないだろうか?

 かなり悪運が強いから、やはりスキルとして【悪運】を持っていそうだしな……。


「そこへ帝国兵達が魔物の残党を倒しに来たんですね?」

「……ほぼ全てが終わった後に来たみたいですが、私はその時に帝国兵とは会っていません。魔力を枯渇していたこともあり、全ては弟子が対応していましたから」

 その弟子がバザック氏を演じていたライザックで確定だろうな。

 彼がバザック氏の弟子なのであれば、変身魔法を覚えていても不思議ではないしな。

 だけど彼は間違った選択をしたと思う。


 何故なら、あの人は魔法に関してバザック氏に劣っている。それは間違いないだろう。

 それでも頭の回転は早いし、情報分析する能力にも長けていて、さらに口が達者だから、参謀役として迎えられるだけの能力は有していたのは間違いない。

 それならばバザック氏の代わりになる必要などなかったのだから。


 しかし魔獣の集団暴走(スタンピード)が奴隷になってしまった事とどう関係しているんだろうか? 俺がそう考えたことを察したのか、バザック氏が本当に奴隷にされた理由を話し始めた。

「魔獣の集団暴走(スタンピード)が終わってから数年、私達の村は帝国から注目されるようになり、帝国軍が何度も従属させようと迫ってきましたが、村の防衛を盾に断り続けました」

 俺はライオネルに顔を向けると、ライオネルは首を横に振るった。


 まぁライオネルはその頃、いつも最前線にいたらしいし、そういう裏工作も出来ただろうけど、命令がない限りは、絶対にしないだろうからな。

 「帝国が戦争に勝利していた頃はそれでも断れました。しかしルーブルク王国との戦いで、戦鬼将軍が負傷したことで、帝国は形振り構っていられなくなったのか、私達を従属ではなく、隷属させることにしたのです」

 従属ではなく隷属なんて、普通ではまずありえないことだ。

 帝国が如何に軍事国家であろうと、それは認められていないはずだ。


 ライオネルを見れば既に表情が無くなっていたが、視線はクラウドへと固定されていた。

 そのクラウドはライオネルから何かを感じ取ったのか、先程よりも必死で聖域結界から出ようと足掻き出す。

「隷属……奴隷にするなら、戦争奴隷か、犯罪奴隷か、借金奴隷だけですよね? まさか国が関わっていて違法奴隷にはしないでしょうし……」

「……ある日、盗賊が村を襲って来た事件が起こりました。普段は盗賊も寄り付かない場所ですが、現れた以上、全ての盗賊を殺しました。しかし実際に村を襲ったのは盗賊ではなく、帝国の特殊部隊でした」

 あ、展開が読めてしまった。ライオネルからは、歯を噛み締める音が聞こえる。

 「国家反逆罪という形で村を数百の兵が包囲しました。そして隷属しない場合は火を放つと宣言され、私や弟子達が戦場へ赴く見返りに、村人達には恩赦を出してもらう条件を出し、それが通ったので奴隷となりました」

 バザック氏はプルプルと震えていた。

 きっとバザック氏と彼の弟子だけなら、戦える力はあったかもしれない。だが、戦えない村人達を守るために抵抗はしなかったのだろう。

 いや、きっと今のように魔法を放つ準備をして、条件を呑ませのかもしれない。

 出来ればそうであってほしいと思うのは、俺のエゴだろうか?


「……もしかしてその軍を指揮していたのは?」

「戦場で先頭に立ち、味方を鼓舞しながら私を斬り捨てた気概のある男とは違い、味方に隠れて指示を出しながら、劣勢になると部下を見捨てて逃げるような、浅ましい戦鬼将軍と呼ばれる男だった……」

 ライオネルを貶す為だけにそんなことまでしているとはな……。

 ……その時にライオネルじゃないと、周りにいた者達も気がつかなかったのか? 

 ……それともそれを陰でも言える環境ではなかったんだろうか……。

 ライオネルを見ると、大剣も大盾もプルプルと震えていた。

 たぶん悔しいことは悔しいんだろうけど、それはバザック氏の言葉を聞いたからだけではなく、自分が率いていた軍をクラウドが指揮しただけでもなく、たぶん策略に嵌まったとはいえ、帝国を離れてしまった自分への責任を感じてのことだろう。


 そしてバザック氏が更なる言葉を発した時、俺の中にあったクラウドへの慈悲がスッパリと消えた。

「帝都へ連れて来られた後、条件を呑まされたのが頭にきたのか、その時に喉を潰されました。そしてその時に、小規模な魔物の集団暴走(スタンピード)を引き起こしたのが、自分だと高笑いされた時からいつか殺してやりたいと願ってきたのです」

 本当に救いようがなかった。

 同じ転生者でありながら、何故そこまで悪に染まりきることが出来たのだろう?  


 そこでフッと話の流れとは関係ないことが頭に浮かんだ。  

「……今もルーブルク王国との戦争は終わっていませんし、小競り合いが続いていますよね? バザックさんの力があれば、戦争でも優位に進むことが出来たのでは?」

「……そこの男は戦場を恐がり、私を護衛として側に置いた。そして何度か敵に接近を許すことがあり、今度は戦場が恐くなったのか、最前線どころか前線から逃げ出し、この帝都へと籠って魔族化の研究に力を入れ出したのだ」

 戦場に立つ勇気がないなら、何故ライオネルに化けることを選んだんだろ? 皇帝や宰相、有力貴族に成り代われば、ことはもっとうまく進んでいたと思うんだけど?


「その魔族化について聞いても?」 

「その前に、もうあれをこの世から滅していいだろうか?」

 バザック氏はクラウドへと杖を構えた。

 ライオネルに視線を送ると、ライオネルが静かに口を開いた。

「ルシエル様、もう一度聖域結界を発動させてください。そして深淵が魔法で攻撃してもまだ生きていれば、私が止めをさします」

 再びバザック氏を見ると、バザック氏は頷き、先程よりも魔力が込められた魔法の槍がクラウドへと一斉発射された。

 魔法の槍がクラウドに当たると爆音が鳴り、爆風が吹き荒れて砂塵が舞う。

 クラウドは後方に飛ばされ聖域結界にその背中を付けると、クラウドの絶叫が響き渡る。


 しかしバザック氏は攻撃を止めることはせず、先程の続きを語り出した。

「私達がいた村の者達は既に全員死んでいる」

「……約束は?」

「そんなものをあの男は守ろうとはしなかった。それどころか村人に魔石を埋め込んで、魔族化を試み、各地から年齢、種族別に集めた奴隷達を実験材料にして時には魔族を、時には合成獣(キメラ)を生み出そうとしていた」

「ゲスだ。そして救いようがない程に狂っている……」

「そして最後まで私の身を案じてくれていた弟子達は、隷属させられたまま魔族にされ、魔族へ成れなかった者達は精神を破壊され、魔力供給する廃人になってしまっていた」

「…………」

 俺はバザック氏に掛ける言葉が出せなかった。

「賢者殿のおかげで、そんな弟子達を縛っていた施設を破壊してやることが出来た。これで思い残すことはない」

 そしてバザック氏の魔力が一気に大きくなったその時だった。


 バザック氏の後ろへエスティアが飛び込み、首筋に強烈な一撃を浴びせて、その意識を刈り取った。

「直ぐに回復させないと、この者は死ぬぞルシエル!」

 その瞬間理解した。

 いくら師匠やライオネルクラスでも、人の魔力には限界があるのだ。

 そしてその限界を超える限界突破スキルをバザック氏が取得していたことを。


 急いでエクストラヒールと発動しながら、魔法袋から残り僅かになっていた魔力ポーションをバザック氏に飲ませる。


「ここは任せる」

 エスティア……に憑依した闇の精霊は、そう言い残してバザック氏が崩壊させた魔族研究室へと入っていく。

 自由だと思いながら、ライオネルを見れば、クラウドの首を切り落としたところだった。


 何だかとてもあっけなく、また転生者の命を刈り取ってしまったことに虚しさを覚える。

 一応念のために浄化魔法を掛けると、生首が叫んだ気がしたけど、バザック氏を回復させることにまずは全力を注ぐことにした。


お読みいただきありがとうございます。

色々考えたのですが、どう考えてもクラウドが強敵になるイメージが出来なかったので、狡猾なゲスとなりました。

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