料理をするときは右手と左手で、役割分担せよ!

包丁やフライパンなどの調理道具をどのように選んだらよいか迷ったことはないでしょうか? おいしい料理を作るのに欠かせない道具の選び方と使い方、意外と知らないキッチンの使い方を解説します。快適な調理環境は、料理のたのしさにもつながります。

調理法から食材別のキホンまで、駆け足で見てきました。とはいえ、料理にはガスやIHなどの熱源、流しの他に調理器具も必要です。

最低限、必要なもの

 包丁   
 まな板と布巾
 鍋とフライパン
 計量カップ、計量スプーンとはかり
 スプーンとお玉、トング、菜箸
 ボウル、ザル、ストレーナー
 温度計とタイマー
 タオル


【包丁】値段の差は切れ味の持続性

包丁は安価なものから高価なものまで様々な種類があります。よく切れる包丁を使うと、切るときに力がいらないので、手が滑って自らを切ってしまうリスクが減ります。また、食品の切り口がきれいになり、細胞が壊れないので、料理がおいしくなります。

ポイントは金属の種類、他に粘りと硬度です。金属の種類は鋼などの錆びる鋼材と錆びにくいステンレス製にわかれます。技術革新が進んだ現在ではこの二つの切れ味にほとんど差はありませんが、鋼の包丁は研ぎやすいのがメリットです。しかし、錆びるデメリットがそれを上回るので、家庭ではステンレス製がいいでしょう

安価な包丁はプレス加工といって金属板から包丁の形に打ち抜いてつくります。そのため、硬度や粘りが足りず、切れ味がすぐに落ちるのが弱点。高価な包丁は鍛造という方法で金属を包丁の形に叩き伸ばしてつくります。叩く工程で金属に硬さや粘りが生まれるので、切れ味が落ちにくいのが利点です。

包丁は価格の差と切れ味にはあまり相関関係がなく、違うのは切れ味の持続性。つまり、よく研げば安い包丁も切れますし、高価な包丁も研がなければ切れなくなってしまう、ということ。包丁は研ぐことが重要なので、切れなくなったら包丁店で研いでもらうか、自分で研ぐ必要があります。


【まな板】大きめのもの1枚と、魚や肉用の1枚を用意する

包丁と同じくらい重要なのがまな板。大きめのまな板が1枚と、魚や肉を切るように薄手の小さなプラスチックのまな板があると便利です

まな板の下には濡れ布巾か、マットを敷いて、固定します。大きめのまな板は主に野菜を切るのに使います。野菜を切るときに毎回、まな板を流しに持っていって洗うのは大変なので、使うたびに拭くのが基本。まな板とよく絞った布巾(あるいは小さめのタオル)はワンセットです。

肉や魚の場合は細菌の関係で都度、洗う必要があるので、大きなまな板の上に薄いまな板を置いて切るのが効率的です。いずれにせよまな板がびしょびしょという状態は避けたいもの。常に濡れ布巾で拭き、湿った程度の状態を心がけましょう。

料理をするのは同じくらい片付けるということでもあります。よくネットでサクサクと料理をつくる動画が上がっていますが、実際にはあんな風に調理することは不可能。どれだけ洗い物を減らせるか、ということも料理においては大事です。


【鍋とフライパン】大小の片手鍋とテフロン加工のフライパンを

鍋とフライパンの材質が調理プロセスにどのように影響するか、という点は熱の拡散の速さ(熱伝導率)と熱を保持する容量という二つの変数があり、書ききれないので、ここでは最初に手にとるべきものだけを触れることにします。

はじめに必要なのは18㎝の片手鍋です。アルミ製やステンレス製があり、好みでかまいませんが、熱源がIHの場合はアルミ製の鍋は使えないので注意が必要。

例えば片手鍋の代表である行平鍋は底が丸く、液体がうまく対流するので煮炊きの分野では万能です。18㎝だと味噌汁であれば4〜5杯ほどが目安ですが、それより少ない量でももちろんつくることができます。

もう一つ余裕があるなら21㎝の片手鍋を持っていると、そうめんやそば、パスタを茹でるときに活躍してくれますし、野菜の煮物を一度につくりたいときにも便利です。

最初に選ぶフライパンは26㎝のフッ素樹脂加工のものがオススメです。くっつかないフッ素樹脂加工のフライパンは卵やホットケーキを焼く場合に最適ですし、肉や魚料理をつくる際にも油脂の使用量を減らすことができます。なにより洗うのが簡単なのが長所です。ただし、テフロン加工は高温での調理はできないので、火加減は中火を守ります。

フライパンに対して適切な量の食材で調理することも重要です。小さいフライパンにたくさんの食材を入れて加熱すると、重なった部分が上手に加熱できません。その場合は二度に分けて加熱するなど、工夫が必要です。逆に大きすぎるフライパンも考えもの。卵を焼く場合には白身が広がってしまいますし、肉などを焼く際には側面が冷やされるので火の通りが遅くなります。適切な大ききのフライパンを選ぶことも料理上手への第一歩、というわけです。


【計量カップ、計量スプーンとはかり】計量は料理上達への近道

料理上手を自負する人ほど「料理をするときにいちいち計らないよ。目分量でやっています」と言いますが、例えばフランス料理の巨匠、ジョエル・ロブション氏のキッチンでは〈野菜を茹でる時は水1ℓに対して塩12gを加える〉という具合に、あらゆる数字が厳格に決められ、プロの料理人たちは粛々と計量しながら料理を進めていました。

プロ中のプロでさえ計量しながらおいしい料理をつくっているのに、どうして我々が計らずに料理できるのでしょうか? 面倒くさがらずに計りながら料理を進めるのが料理上達への近道です。扱う食材はいつも重さや性質が違いますが、調味料などを計ることでその差もわかるようになります。

計量スプーンは日本独特の道具で、小さじ1で5㏄、大さじ1で15㏄の水をはかることができます。醤油なら小さじ1が6㏄、大さじ1が18㏄で、塩なら小さじ1が6g、大さじ1が18gです。計量カップや計量スプーンは手軽ですが、体積ではかるものなので、例えば食塩とあら塩では重さが異なることに注意が必要です。

より正確に計量するならはかりを使うのが一番。アナログ計りが主流だった時代は小麦粉一つはかるのも大変でしたが、デジタルが普及した今では簡単になりました。


【スプーン、お玉、トング、菜箸】料理は必ず味見しよう

スプーンはかき混ぜたり、肉や魚を裏返したりするのに使いますが、なにより大事な役割は「味見」です。

味見をして、調味料を足し、もう一度かき混ぜ、また味見をする。そんな風に使うスプーンは料理を象徴する道具といえます。料理に使う場合のスプーンは金属製ではなく、木製を使うと先端が熱くならないので気持ちよく使うことができるでしょう

味噌汁やスープを注ぐためのお玉も欠かせない道具。一杯75㏄程度のものが使いやすいでしょう。ある程度の厚みがあるもののほうが、液体の切れがよく使いやすいようです。

トングか菜箸もあると便利です。とくにトングはパスタ料理などで力を発揮します。


【ボウル、ザル、ストレーナー】プラスチック製は避ける

皿や丼で代用できる場合もありますが、ボウルもあったほうが便利です。大きさはこぶりな16㎝のものと、大きめの23㎝があればいいでしょう。16㎝のボウルはドレッシングやソースづくりに使ったり、加熱した食材を一時的に入れておいたり、と用途は様々。23㎝のほうは生クリームやメレンゲの泡立てをはじめホットケーキ生地をつくったり、サラダを和えたりできますし、葉物野菜を洗うときにも便利です。

プラスチック製のボウルもありますが、できれば耐熱ガラスかステンレス製を選びましょう。プラスチック製は熱に弱いばかりか、親油性が高いため、洗うのが大変です。

ザルやストレーナーは食材の水気を切るときやお米を研ぐとき、出汁をこすときに使います。金属製で持ち手が長く、鍋やボウルに引っ掛けられるものを選びましょう。プラスチック製は熱に弱いので、やはり避けます。


【温度計、タイマー】火の通り具合を確認する

温度計とタイマーは文明の利器。温度計はプローブ式と呼ばれる金属を突き刺すデジタル方式のものを選んでください。料理書にはよく「(肉や魚に)火が通ったら」と書かれていますが、それは温度計を刺すことで確かめることができます。またケーキの生地に火が入ったかどうか確かめるのも温度計で測ると確実です。


【タオル】多めに用意しておく

タオルは手を拭いたり、キッチンカウンターや食器を拭くだけではなく、まな板やボウルの下に敷いて滑り止めにしたり、ボウルに入れてサラダの水気を切るのにも使えます。

枚数があって困ることはないので、たくさん用意しておきましょう。薄手のタオルが洗いやすく、扱いやすいようです。用途ごとに色を変えるのもいいアイディア。


【手】左右の手で役割分担

リストには挙げていませんが、最後に付け加えるなら最高のキッチン道具は「手」です。なにかを混ぜるときなどにも、手が一番という場合が多々ありますし、フードプロセッサーなど様々な道具を使うよりも手で切ったほうが早い、ということもあります。

料理をするときは右手と左手で、それぞれ役割分担することが重要です。右利きの人であれば、右手は箸やトングを持つ手なので、素材を触るときには左手を使うようにします。包丁を持つ手も右手。役割分担をきちんとすれば包丁の柄はけっして汚れないはずです。他にはシンクの蛇口に触る手は常に右手です。素材を触った手で蛇口に触れないようにしましょう。


キッチンの使い方

キッチンは洗い場、作業台、コンロの三つで構成されています。まずは洗い場で野菜を洗うなどの水を使う作業を済ませてしまい、それから作業台で切る工程にうつり、コンロを使って調理しつつ、洗い物を済ませます。

こうした全体の段取りをコントロールすることも大事です。時間のかかるものから調理を開始し、できたてを食べてもらう必要のある料理は最後に調理しましょう。

コンロを使う5〜10分前には換気扇のスイッチを入れておきましょう。換気扇は空気の対流をつくって、細かな油の粒子や煙などを含んだ空気を外に排出する仕組みなので、台所全体の空気の流れをつくるのにはそれなりの時間がかかります。つい、調理の直前に換気扇のスイッチを入れてしまいがちですが、まず空気の流れをつくっておいてから、火を使うようにすれば、必要以上に部屋が汚れません。


料理をするうえで大事なのは清潔と整理整頓を心がけることです。散らかった台所からはおいしい料理はけっして生まれません。頭の中も整理されている必要があります。料理をつくる前にレシピを必ず2、3回は読み、作業の意味と流れを理解しておきましょう。それからやっとレシピの変更なり、アレンジなりができるからです。

頭の中が整理できないほど、疲れている時は複雑な料理をつくらないか、意識的に料理をしない、という選択も大事です。他の人がつくった料理を食べることも料理上手になる道の一つですから。


料理は音楽と似ています。音楽は楽譜どおりに演奏しても、同じように奏でることは不可能です。料理も同様にレシピどおりつくっても、毎回どこか違いますし、100人がつくったら100通りの味ができます。

ときには失敗することもあるでしょうが、それは調理工程のどこかに間違いがあったことを教えてくれるサインです。食材の小さな声に耳をかたむけ、あらゆる作業を慎重に行えば、そうした失敗は徐々に減っていくでしょう。音楽は音を楽しむと書きますが、大事なポイントは料理を楽しむことです。失敗を楽しめるようになると料理の腕前が上達するのも早いでしょう。

おいしい料理はいつだって人を少しだけ勇気づけてくれます。毎日つくるごはんがおいしくなって、それを喜んで食べてくれる人がいるならば、他のどんなこともうまくいくはず。僕はそう思います。

<今回のまとめ>
●よく切れる包丁でつくると料理がおいしくなる
●計量は料理上達への近道
●料理をするうえでいちばん大切なのは料理を楽しむこと

この連載がスマート新書として9/2(月)に発売されました!

目次
第1章 完璧なゆで卵のつくり方 〜煮る、茹でる料理のキホン
第2章 高温と低温を同時に達成するのがコツ 〜焼く料理のキホン
第3章 電子レンジでつくる夏野菜の煮物 〜蒸し料理のキホン
第4章 卵の量を控えるだけでお店風の天ぷらに 〜揚げ物のキホン
第5章 色によって調理法が変わる 〜野菜料理のキホン
第6章 ステーキは強火で何度も裏返す 〜肉料理のキホン
第7章 火が通りやすい魚は、短時間で調理せよ 〜魚料理のキホン
第8章 計量は料理上達への近道 〜道具のキホン


お金のことを語るのは、なんとなくカッコ悪いかも?という世の中の風向きを、
ケロッと変えていく投資情報メディア、FROGGY

この連載について

初回を読む
おいしさの「仕組み」がわかる 料理のキホン

樋口直哉

すでに料理をしている人も、これからはじめる人も、知ればみるみる料理が上達し、楽しくなる「料理のキホン」をご紹介します。どのように調理するとおいしくつくれるのか、なぜそのように調理するのか、食材はどのように扱うべきなのか、調理法と食材の...もっと読む

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