254 短慮
瘴気が充満している階段を下りて行くと、徐々に瘴気が濃くなっていくことが分かる。
そして階段を下り終えた時には瘴気で視界が確保しきれない状態となっていた。
敵の魔力や気配で相手は探れるけど、魔法攻撃や投擲物が飛んできたらヤバイな。
しかもアルベルト殿下が前回のクーデターでクラウドの罠に嵌ったのは、地下道だったはずだ。
ケフィンなら罠があれば見つけることも解除することも出来るだろうけど、やはり視界はあるにこしたことはないだろう。
「これだけ瘴気が充満しているってことは、戦闘中に何らかのはずみでオーラコートが消えてしまったとしたら不味いよな……」
浄化波を使えば少しはマシになるだろうけど、そうなると奇襲は出来ないし、待ち伏せされる可能性が高い……。
「もしそのような仕掛けがあるなら、この瘴気は不味いかも知れません」
ライオネルは俺が考えた最悪のケースに、思案顔を浮かべる
この瘴気を消すのと、敵に気がつかれないこと……どちらが良いかなんて考えるまでもないか。
「ケティ、敵は強そうに感じたか?」
「正直あまり分からないニャ。でも負ける気は無いニャ」
失敗を取り返す姿勢は保持し、モチベーション高く答えるケティ。
「ケフィンはどうだ?」
「ケティと同じです。誰が相手でも殲滅します」
ケフィンも問題なさそうだな。
「ライオネル、奇襲なしのガチンコ勝負で相手を圧倒出来るか?」
「相手がいくら強かろうと、必ずや成すべきことを成します」
ライオネルからは、ただならぬ威圧感が溢れ出ている。
それなら俺が取る行動は決まっている。
「……まぁそうだよな。エスティアは引き続きバザック氏を運んでくれ。ポーラは戦闘で地下道が崩落しないように頼む」
「はい」「分かった」
本当に頼もしいと思いながら、俺は浄化波を発動させた。
すると一気に瘴気が消えていく。俺は魔力ポーションを魔法袋から取り出して皆に命令する。
「何度も浄化波を使うから、その間に魔族を倒してもらうぞ」
「「「はっ」」」
浄化波が瘴気を消し去っていくが、有効範囲が狭いからなのか、十数秒で瘴気が押し寄せて来た。
「これだときりがないな。ある程度進んで浄化していくから、戦闘と罠は全て任せた」
俺は魔力ポーションを飲みながら、浄化波を発動させて進む。
魔力ポーションがお腹に溜まり、在庫が殆どなくなってきているが、それでも魔力の六割をキープしながら前へと進む。
「来ます」
ライオネルの声が聞こえたと同時に、正面から複数の人影が瘴気の中から現れたと思えば、いきなり襲い掛かってきたのだった。
数は五体で、全ての魔族の背中には翼が生えていた。
幸いだったのは相手が魔法を使用することはなく、物理攻撃を選択したことだろうか。
俺はライオネルの声が聞こえたのとほぼ同時に浄化波を放つと、聖属性の波紋が広がっていき魔族は苦しみ出した。
一瞬だけでも動きが止められれば後はこちらのものだった。
魔族が足を止めた一瞬の隙をついて、三つの影がこちらから飛び出して、魔族の四肢を落としていく。
ケティ、ケフィン、そしてエスティアだった。
俺は驚いて後ろを見ると、先程までエスティアが引きずって連れて来ていたバザック氏は、ポーラが出したゴーレムに抱えられていた。
相手の攻撃を受けることなく、五体の魔族を戦闘不能に追い込んだ。
俺はすかさず彼等に声を掛ける。
「人に戻りたいか?」
しかしまるで意識がない狂戦士のように、こちらとの意思疎通は取れない。
ずっと唸りっぱなしの魔族達の扱いを悩んでいると、ライオネルが魔族化した五体の狂戦士を斬り伏せた。
ライオネルが出来るだけ助けたいと願っていたのに、そのライオネルが有無を言わずに斬り伏せたことに、俺はかなり驚いた。
「……いいのか?」
「はい。ここで長い時間を使うことは出来ません。ルシエル様の魔力もありますし、何処かで線引きは必要です。さぁ先を急ぎましょう」
ライオネルの顔はさらに険しくなっていたのは、きっと助けたかったからだろうな。
それが出来なかったのは、俺の魔力量を気にしてのことだ。
またライオネルに決断をさせてしまったのだ。
魔力量のことも皆に話をすれば良かったのに、それを怠ったから決断させてしまったのだ。
全く自分の不甲斐なさが身に染みる。
この作戦が絶対に失敗出来ないものなら、もっと計画を立てるべきだったのに……俺は今回それを惜しんだ。
これ以上、ライオネル達に決断させてはいけない。
俺は心の中でライオネルに謝罪してから、ライオネルの言葉に頷く。
「……ああ、分かった。じゃあ進もう」
俺達は徐々に瘴気が濃くなっていくのを感じながら、地下道をさらに進む。
そして戦闘から三度目の浄化波を発動した時、闘技場を思わせる空間と、その空間で瘴気を生み出している元凶の魔物、そして魔族を見つけた。
お読みいただきありがとう御座います。