253 地下の様子
まさかケティの知っていた城への抜け道である地下道から瘴気が漏れ出て来るとは思わなかった。
何とか聖域結界を発動出来たから良かったものの、普通なら瘴気による影響をもろに受けることになっていただろう。
「ケティ、この地下道は結構長いのか?」
尻尾が垂れ下がり、耳も垂れてしまっているが、この地下道を知っているのはケティだけなので、俺は直ぐに確認を取ることにした。
すると、ケティは俯いて謝罪を口にする。
「歩いたら十分程掛かります……ニャ。ルシエル様、ごめんなさいニャ」
今回の件で怒るのは筋違いだし、別に謝る必要はないんだけどな。
それよりもこれだけ瘴気が充満しているとなると、瘴気を作り出す元凶がある筈だ。
「瘴気に関しては事前に分かる筈がなかったし、気にしなくていい。それよりも、可視化出来るぐらい強力な瘴気ってことは、オーラコートだけで遮断出来るかが不安なんだよな」
「ルシエル様、そのオーラコートとは?」
「聖属性魔法の一つで、空気中の瘴気を一時間に渡って遮断し、病気の進行を遅らせたりすることが出来る他、状態異常に掛かり難くすることが出来る魔法だよ。今まで数回しか使ったことないけどな」
オーラコートの説明を受けて、ライオネルが先行すると提案してきた。
「便利な魔法があるんですね。ならば私が調べてきましょう。ルシエル様の魔法も効力が上がっているのであれば、問題ない筈です」
「それだけは駄目ニャ。ライオネル様はこの作戦のキーマン。挽回の機会が欲しいから、私に行かせて欲しいニャ」
「それならば私もついて行きます」
ライオネルの意見を突っぱねるケティを初めて見たな。
ケフィンもついて行くなら、任せてみるか……。
「じゃあケティとケフィンに、オーラコートを発動するから、地下道を見てきてくれ。地下道で身体に少しでも違和感を覚えたり、敵兵の発見、視界の確保が困難、いずれかでも該当したら直ぐに戻って来てくれ」
「「はっ」」
俺は二人にオーラコートを発動して、探索へ向かわせるのだった。
それにしてもこれだけの瘴気を浴びれば、普通の人間には耐えられないはずだ。
瘴気は普通の人族にとってウイルスみたいなものだ。
身体に蓄積すれば病気になったり、状態異常を引き起こしたりすると言われている。
しかしクラウドという男は、この瘴気を研究し、人々を魔族化させているのだ。ということは、元々は研究職だったんだろうか? 考えれば考える程勿体なく感じる。
たかだか数年の研究で魔族を生み出すようなことが出来る優秀な者なら、もっと他にやりようがあったと思うんだけど……。
バザック氏が言っていたように魔族化出来るのはたった二割、八割が死ぬことになるんだから、一体どれだけの犠牲を出してきたんだろうか? 考えるだけでクラウドという男は狂っていると思える。
「ルシエル様、魔族との戦闘は避けられないでしょうから、今のうちに魔力を回復されておいた方がいいかも知れません」
「まぁ確かに連戦にはなりそうだけど、なんとかなるだろう。それよりも今は全てが終わった後、この国がどういう方針で動いていくのか、そっちの方が気になるよ」
「それは確かに」
ライオネルは俺の言葉に同意しながら、少し伸びた顎鬚を触るのだった。
ケティとケフィンが地下道に消えてから数分が経つが、気になっていることがある。
エスティアとポーラが一言も喋らないのだ。
普段からあまり喋らないと思っていたけど、この二人は放っておくと空気になってしまう。
頼りになり、信頼出来る仲間ではあるが、いつか改善して欲しいと思ったりする。
「エスティア、ここに来るまでの道で、知っている場所はあったか?」
「……いいえ、ありませんでした。それに帝都にいた頃は外へ出歩くこともありませんでしたから、あまり記憶に残っていないんです」
「後でゴーレムに乗って探す。それで分からなければ空から探す」
「はい、ポーラさんありがとう御座います」
俺の言葉にエスティアは何処か儚げに軽く微笑みながら、首を横に振った。
そのエスティアを慰めるようにポーラが声を掛けたのだ。
その光景を見て俺はホッコリしながら、ケティ達の帰りを待つのだった。
それから暫らくして二人が地下道から戻って来た。
「良く戻って来た。それで地下道はどんな感じだった?」
「魔族かどうかは分かりませんが、十数の気配がありました。地下道はそこまで暗いわけではなかったのですが、瘴気で視界が悪かったですね」
「このオーラコートは凄いニャ。全く瘴気を感じなかったニャ」
「そうか。それで地下道で戦闘になると思うか?」
「はい。戦いは避けられないでしょう」
「地下道に分岐はあるのか?」
「あるニャ。ただその気配が固まっていた先に分岐があるから、あまり関係ないニャ」
「そうか。じゃあ戦いは避けられないんだな。はぁ~地下道が崩落することがなければいいんだけどな」
「崩れないようにすることぐらいなら簡単」
ポーラはそう言って胸を張る。
「ところでルシエル様、この方はどうなされるおつもりですか?」
エスティアが聞いてきたのはバザック氏のことだった。
エスティアが眠りに就かせてから、バザック氏は起きる様子もない。
「ここで起こしても、魔族と戦う時に邪魔になるから、そのまま連れて行こう」
「この者に利用価値がまだありますかな?」
ライオネルはこのバザック氏にあまり良い感情を持っていないことは分かっているが、何となく連れて行かないといけない。
そんな感じがするのだ。
「ああ。今は邪魔になるかも知れないけど、何故か一緒に連れて行った方がいい気がするんだ」
「直感ですか……ならば連れて行きましょう」
「ああ。じゃあエリアバリアとオーラコートを全員に付与したら地下道へ進もう」
こうして俺は皆に魔法を付与し、皆で地下道へと続く階段を下りて行くのだった。
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