252 地下道
かなり短めです。
メルフィナさんの治療が終わり、俺が渡したローブでアルベルト殿下はメルフィナさんを覆った。
身体から瘴気も漏れていないし、身体も肌の色も人へと戻ったことで俺はホっと溜息を吐いた。
生きていることを確認出来たのか、アルベルト殿下はメルフィナさんを起こそうと声を掛けるが反応はない。
さすがにあれだけのダメージを負ったメルフィナさんが、直ぐに目を覚ますことはないだろう。
「アルベルト殿下、現在メルフィナさんは血を失い過ぎていて、直ぐには意識が戻らない状態ですよ」
俺はそう告げたが、アルベルト殿下は声を掛け続けることを
そんな彼の献身的な態度を見ながら、俺はエスティアを呼び寄せ、殿下を眠らせた。
そして二人を隠者の棺へ入れてもらった。
仮にメルフィナさんが魔族の人格だったとしても、殿下を殺すことはないと思ったからだ。
それにしても殿下やメルフィナさんは眠らせたのにも関わらず、兵士達が全く動揺していないことに驚いた。
まぁ何があったか分からないけど、あれだけライオネルから威圧感がでているのに、能面の様に無表情でいるのだから、こちらを気にする余裕もないのだろう。
そんなことをしていると、徐々にお日様が顔を出してきた。
「ライオネル、城と研究所だけど、どちらに向かう?」
「はっ。出来れば地下へ行きましょう」
「地下か……理由は?」
「敵の本陣が地下にあるからです……」
ライオネルが感情を押し殺して喋るのだが、正直恐い。
帝国に入ってからは、今までのライオネルとはどこか違うように見える。
「そこで寝ているバザック氏は連れて行くのか? それとも置いていくのか?」
バザック氏はそこまで重要な人物ではないものの、頭が切れるので、あまり放置したくはない。しかし、帝国に関して素人の俺はライオネルにバザック氏をどうするのかを任せることにした。
「連れて行っても面倒になるだけです」
「そうか。じゃあここに置いて地下へ向かうか」
「……ですが、情報収集したいこともあるので、やはり連れて行きましょう」
ライオネルはこちらから目を切って、兵士達に指示を出す。
「これから私達がこの帝国を正常な状態へ戻すために、まず私の偽者を倒しに行ってくる。皆の者は各隊に別れ、怪しい者を捕らえよ。仮に魔族と出会った場合は帝都の住民を全力で守れ! いいな」
「「「はっ」」」
帝国兵達は揃って敬礼すると、帝都の街へ散っていった。
「ライオネルは本当に将軍だったんだな。兵士達の目が輝いていたよ」
涙が反射しただけかもしれないけど……。
「もう過去の事ですよ。それよりも急ぎましょう」
「ああ。しかし地下へと続く道は分かるのか?」
「それは私に任せるニャ。ついて来るニャ」
ケティはそう言って俺達を誘導し始めるのだった。
「ここが地下道? 何かイメージが違うんだけど……」
地下道を連想して頭に浮かんだのは前世の下水道だったのだが、ケティに連れて来られたのは街の外れにある一軒の屋敷だった。
「この家の地下が王宮へと繋がる道になっているニャ」
ケティはそう言って、普通に屋敷の中へ入って行こうとした。
「ちょっと待て、ここは誰かの家なんじゃないのか?」
ケティは足を止めこちらを振り返ると、この屋敷の所有者を口にする。
「ここの所有者は帝国の特殊部隊になっているニャ」
「それって直ぐ戦闘になるってことか?」
特殊部隊といえば、魔族になった五人組みが所属していた部隊だ。
ここに連れてきたということは、いきなりクラウドと鉢合わせすることだって十分に考えられる。
「ただの名義ニャ。普段は全く使われていないから安心するニャ」
ケティは笑って屋敷へと入っていく。
「それだけの情報で安心出来るって、ポジティブな奴だけだぞ」
俺はそんなケティを見て呟くとライオネルから声が掛かる。
「ルシエル様、屋敷の中に魔族がいたとしても、それを想定して動けば大丈夫でしょう。それよりもここで時間を掛けるのは、あまり良くありません」
ライオネルがそう言って、俺の先を歩き始めるのだった。
これって俺がおかしいのだろうか? そんなことを思いながら皆の後を追って屋敷の内部へと足を踏み入れるのだった。
中へ入って目に映ったのは、広々としたエントランスだった。
「こっちニャ」
ケティにそう言われて、目の前にあった階段を上って二階へ移動した。するとケティは階段から三つ目の部屋の扉を開いた。
そこは普通の客間にしか見えなかったのだが、ケティが飾られている絵画を右に三十度ほど傾けた……。
「もしや……って何にも起こらない?」
「ルシエル様、入ってきた扉を開けてみるニャ」
ケティは笑みを浮かべてそう告げた。
「……少し変わった仕掛けがあるかもしれないと期待してだけど、間違えたのか?」
俺はケティの笑みを不審に思いながらも、言われていた通りに入って来た扉を開いた。
するとそこには、下へと続く階段が現れていたのだが、俺はそれに感動することなく、直ぐに叫んでいた。
「チィ、聖域結界」
驚くことに階段の下からは大量の瘴気が吹き出してきたからだ。
結界を張り終わり、ケティへと目を向けると、まさか
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