249 裏切り?
捕まった殿下達を見ながら、フラグという言霊がこの世界にもあるんだろうな。そんなことをぼんやり思いながら、状況を確認することにした。
「代表の方はいらっしゃいますか? いらっしゃるなら、アルベルト殿下はいつから捕まっているのか教えていただけないでしょうか?」
しかし代表者が出てくることはなかった。その代わりにアルベルト殿下が喋り始めた。
「こやつ等は奴隷です。だから命令以外のことは出来なくなっている筈です。助けてください」
はて? 奴隷って命令以外の行動が出来ないって、ライオネル達は色々と動いていた気がするんだけど……俺がライオネル達に顔を向けてみた。
すると、皆が笑いを堪えるように俺から視線を逸らした。
なるほど。俺はライオネル達に緩い命令を出していたから、彼等も自由に動けていたんだな。今となっては結果オーライだし、いいんだけど……。
そこで俺はあることに気がついた。
「殿下、メルフィナさんとバザック氏がいないようですが?」
すると、殿下は顔を逸らした。
「茶番ですな。ルシエル様、殿下はただの足止めでしょう。それに私達を攻撃してきた者達も、どうすればよいか分からないような状況になっています」
ライオネルが殿下を足止めと断言した。そしてその言葉通り、先程降伏した者達がアルベルト殿下を見て、どう行動すればいいのか、分からないような戸惑いを見せていた。
偽ライオネルの指揮下にいる者達なら、この状況は少しおかしい気もするが、ライオネルがここにいる以上、ライオネルの指示を待っているのかもしれない
俺は魔法袋から魔力ポーションを出して飲みながら、考えを巡らせて、さらに質問をすることにした。
「アルベルト殿下、聞きたいことは二つです。いつ捕まったのですか? それとメルフィナさんとバザック氏は何処ですか?」
魔法陣詠唱でディスペルを発動したので、仮に殿下が奴隷にされていたとしても、これで奴隷紋がなくなったはずだ。
奴隷から解放されたので、話したいと思えば話せるだろう。
そう思っていると、殿下が口を開いた。
「迷宮で別れて帝国領へ入った途端にバザックに襲撃を受けたなんて、言える訳がないだろう――あれ? 何故喋ることが出来ている?」
「奴隷紋は解呪しましたから、もう話せる筈ですよ。さぁ詳しく話してください」
「わ、分かった。でもさっきも言ったけど、帝国領に入った途端にバザックが魔法を放って来たんだ。それとほぼ同時に奴隷兵達に囲まれたんだ」
どうやら情報が筒抜けだったらしいな。それにしてもバザック氏が裏切ったのか……。
「ライオネル、バザック氏って裏切るタイプの人なのか?」
「いえ、圧倒的な戦力差でも最後まで戦う男だった筈です」
「そうか、殿下、何か知っていることはないのですか?」
「そんなこと分かるはずがない。だってバザックは、本当に我等の為に尽力してくれていたのだ。何故裏切ったかなんて分かるはずがないだろ」
アルベルト殿下はそう言って項垂れながら、地面に膝を突くのだった。
それだけバザック氏はアルベルト殿下の参謀として機能していたのだろう。
そうなると、前回レジスタンスが襲撃を掛けた際に…………!?
閃いたというよりは完全な妄想に近いが、俺はある仮説を思いついてしまった。
「ライオネルがバザック氏を斬ったのは有名な話か?」
「ええ。そうですが?」
「もう一つ、俺達が会ったバザック氏は本物だと思うか?」
「……何か分かったのですか?」
ライオネルはこちらに視線を向けて聞いてくる。
皆も同じように聞き耳を立てていることが分かる。
「いや、これは妄想なんだけど、もしかしてあのバザック氏は贋者だったんじゃないだろうか?」
「……言っている意味が、よく分からないのですが……」
ライオネルは怪訝な顔をしながら、視線を殿下に戻す。
まぁ普通はそうだよな。
そう思いながら、俺に仮説を話していく。
「レジスタンスが帝都に襲撃を仕掛けた時に、殿下達は一度捕まっていたんだだろ?」
「そう言っていましたね」
「その時にバザック氏達は別働隊として動いていたんだろ? その時に奴隷にされた線と入れ替わった線を考えてみた」
「……それでは、あの時に会ったのが贋者だと思われるのですか?」
「ああ。そうでなければ
「それが絶対にないとは言い切れませんが……」
ライオネルはやはり腑に落ちないのか、困惑しているようだった。
しかしそれでも俺の仮説をしっかりと考えてくれているようだ。
だけど、推理が俺達のスタイルでないことは分かっていた。
だから俺は決断することにした。
「まぁとりあえず、あそこにいる殿下やバザック氏達は現在信用も信頼も出来ない。だから今回は色々考えるのを止めて
「ふっ それがいいかも知れませんね」
本来であれば参謀がいればいいのだが、そんな従者がいないのだから仕方がない。
だったら一番自分達が向いている方法で目的に進むのが一番だ。
ライオネルを含めた皆も微笑を浮かべながら同意してくれた。
それを確認した俺は、直ぐに詠唱を始める。
「聖なる治癒の御手よ、母なる大地の息吹よ、魔に堕ちた存在を、不浄なる存在を、全てを飲み込む浄化の波となって払え、ピュリフィケイションウェーブ】」
俺を中心に発生した波が走る……が、苦しみだした者は一人もいなかった。
このことについては予想していた。
全てがバレているなら、魔族が配置されていないことを。
「よし、問題ない。このまま本当は演説するはずだったけど、この時間じゃ意味がない。先に城に行くぞ」
「そんなことをさせると思っているのか」
その言葉が聞こえたと同時に、殿下の後ろから
しかし俺は避ける必要すらなかった。ライオネルが全ての攻撃を炎の大剣で打ち払ってくれたからだ。
「ちぃ、やはりそう簡単に仕留められぬか」
あれで仕留められると思っている? いや、それはないだろう。
さすがにあれで仕留められ程、ライオネルが弱いとは思っていない筈だ。
まぁ俺を狙ったのなら少しだけ分かる気もするが……。
だけどこんなに早く出てくるとは思わなかった。
「おっ、バザック氏の贋者じゃないですか。本物は何処にいるんですか?」
そう。裏切ったバザック氏が現れたのだった。
本当はあと数名の敵が出てくると思っていたのだが、姿を現したのは一人だけだった。
「贋者なんているはずがないだろう。私が今のバザックなのだから」
「今の」って言っている時点で、色々駄目な気がするんだけど、わざとカミングアウトしたのなら、何か作戦があるんだろうな。
「それはないですね。いくら昔とはいえ、ライオネルが死を覚悟する魔法士が、そんな中途半端なことはしないでしょ」
「せっかく投擲された短剣から身を挺して守ってやったのに、随分な言い草だな」
「確かにあの時はありがとう御座いました。ワザワザ避ける無駄な動作が必要なかったので助かりました」
ただの短剣が聖龍の鎧を貫通することはないけど、あれは事前に打ち合わせしていたと仮定すると、本当に羨ましい頭脳をしている。
俺は本題を切り出すことにした。
「貴方がクラウドさんだったんですか」
「ふっ 私がクラウド様な訳がないだろう。あの方は今後この帝国を統べるお方だぞ」
少し嬉しそうにしながら、クラウドの情報が出た。
しかしここでバザック氏に声が掛けられた。
「その辺にしておきなさい、ライザック」
「ふん、ようやく目覚めたのかメルビアよ」
「ええ。まさかこんなに意志が強い女だとは思わなかったけど、もうこの身体は私のだわ」
そう言って現れたのは、漆黒の翼が生えたメルフィナさんだった。
お読みいただきありがとう御座います。