247 フォレノワールの実力
飛行艇の自室で仮眠を取り、ストレッチで身体を解してから操縦室へとやって来たのだが、先客がいた。
「おはようドラン、眠らなかったのか?」
「おおっルシエル様。最近ずっと魔導砲の開発に力を入れていて、飛行艇のメンテナンスをしていなかったので、キチンと整備しておいたのですよ。それにこいつも日の目を見せてやりたかったからな」
ドランはそう言って、リシアンが開発した索敵機を手に持っていた。
「それはリシアンが開発しているものですよね? 完成したんですか」
「いや、まだ五割といったところだろう。それに魔力感知の精度の性能はいい線だが、範囲が狭すぎる。いずれはこの飛行艇に付けることを目標にしているが、そうなるまでには、まだまだ時間が掛かりそうだ」
ドランはそう言いながらも、開発者のリシアンよりも索敵機を気に入っているように見えた。
だからヒントになればと思い、リィナに相談させる。
連射出来る魔導砲を考えられるのなら、きっとモニターぐらいなら直ぐに思いつくだろう。
「リィナは確か、そういう分野が得意だったはずだから、面白いアイディアが出てくるんじゃないか?」
「うむ。確かにあやつならば、面白い考えがあるかもしれないな。相談させてもらうとしよう」
ドランはリィナのことを弟子として認めているらしい。やはり孫の好敵手なら、ドランにとっては可愛いものなのだろう。
まぁ技術者だから、認めるところは認めるし、駄目なら厳し事も言うだろうけど……。
「さて、それじゃあ発進させるけど、大丈夫か?」
「うむ。整備も完璧に終わっておるから、いつでもいいぞ」
ドランがいてくれるから、安心して飛び立つことが出来そうだ。
と、ここで一つ確認しておきたいことを思い出した。
「ところで、飛行中でも操縦は代われるんだよな?」
「大丈夫だが、途中で代わる予定はなかった筈だが?」
「もし帝都へ着く前に翼竜とかち合ってしまった場合は、魔導砲を使わずに直接俺が叩きに行く」
「飛行する大型の魔物を相手に空中戦をするつもりなのか」
ドランは急に強い口調になった。
まぁその心配は分かる。俺でも誰かが同じことをすると言ったら、まずは正気を疑う。
でも、今回は俺だから出来る作戦でもある。
「龍種系統なら大丈夫だと思う」
「……分かった。その時が来たら責任を持って代わろう」
俺の言葉を聞いて、ジッと俺の目を見つめること数秒、ドランが折れてくれた。
「じゃあ行くか」
「皆は起こさなくてもいいのか?」
「ああ、どうせ数時間は空の旅だから、眠れる内に眠っておいてもらったほうがいいだろう」
ドランにそう告げて、俺は操縦席の水晶を押し込み飛行艇を起動させると、闇夜の空へと飛行艇の高度を徐々に上げていく。
そして手を前方へとスライドさせ、飛行艇を発進させるのだった。
帝国へ向けて徐々に速度を上げていくと、ライオネル達突入班が起きてきた。
「おはよう。でも、まだ寝ていても良かったんだぞ」
しかし、ライオネル達は苦笑いを浮かべた。
きっと眠れなかったのだろう。
「気持ちが昂ぶって、寝るに眠れなかったのです」
「さすがにいつも通りとはいかないニャ」
ライオネルとケティは帝国出身だから分かるが、ケフィンは少しだけ眠そうだった。きっとケティに起こされたのかもしれない。
「……見張りぐらいは出来ますから手伝わせてください」
何もしていないと眠くなりそうなんだろうな。そんなことを思いながらエスティアに顔を向けると、彼女にも目的があることを思い出す。
「一人でいると色々考えてしまって不安になるので、一緒にいさせて下さい」
皆がそれぞれの
「まぁそうか。でもやることはないから、皆は戦略を練るなり休憩していてくれ」
「「「「はっ(はい)」」」」
皆が来てくれて、俺も少し安堵することが出来たのだろうか、自然と笑みが零れるのだった。
そして飛行を続けていると、つい最近潜っていた迷宮の上空を通過した。
これでこの山を越えると、そこからはもう帝国の領土に侵入することになるので、緊張感が増していく。
「帝国領に入ったぞ。これから進路を街道に合わせて上空を飛行する」
ここからは全速力ではなく、徐々に減速させて二速へとスピードを落として高度は更に上げていく。
こうでもしないと、空気を切り裂く音で鳥や獣、魔物が騒ぐ可能性があり、飛行艇での襲撃がばれる可能性があるからだ。
「しかし先行している殿下達は、問題を起こすことなく侵入出来ているのか、それだけが心配だ」
「ルシエル様、殿下のことはお気になさらず、参りましょう」
「そうニャ。あの時、正直一緒に行かないことを選択してくれて良かったニャ」
二人はかなりあっさりと、アルベルト殿下が居ても居なくても同じような存在にした。
「……何かやらかしてしまう不安要素を、最初から持っていたのか?」
「……殿下は驚くほどに口が軽いのです。だからメルフィナが殿下に付いていたのです」
「確かに感情的になりやすそうな人だったからな……あれは!? ドラン、操縦を任せる」
「どうしたんだ? 何かあったのか」
ドランはいきなり話しかけられて、驚きながらも運転を変わってくれた。
「さっき下の方に大きな羽を広げた鳥が見えた」
「この暗闇で見えたのか?」
「ああ。闇龍の封印を解いてから、夜目が利く様になったんだ」
ドランは不思議がるように言うが、本当に加護による恩恵があることを、俺自身も実感するのだった。
「ルシエル様、一匹であればばれていない可能性の方が高いのでは?」
ケフィンはそう言ってくれるが、残念ながら翼竜部隊と名付けてもおかしくない数だった。
「それが集団だったんだよ。バザック氏がいるとはいえ、一応最悪の事態は想定して動かないといけないだろ?」
「それは既にアルベルト殿下達が捕獲されていることも十分考えられるということですか?」
「ああ。もしくは前線から引いて来ているのかも知れないし、目も当てられない」
「それでルシエル様がお一人で出られるのですか? それは容認出来ません」
「大丈夫だ。全く負ける気がしないのと、俺は一人じゃないからな。ドラン、この速度と高度を保ったままで頼む。全てが終わったら、回収口を開けてくれ」
「分かった」
「ルシエル様、誰と行かれるのですか?」
「相棒とだよ」
俺は笑いながら操縦室から出ると、リフトへ直ぐ様移動する。
そしてフォレノワールを隠者の厩舎から出して、現在の状況を説明した。
「フォレノワール、そういう訳だから、今から翼竜の群れを叩きに行く。手伝ってもらえるか?」
『分かっていて言っているでしょ。私も久しぶりに力を使うから、足りなくなったら精霊として貴方の魔力をもらうわよ』
「ああ。飛行艇を落とさせるわけにはいかないからな。ただし許容範囲で頼むぞ」
『いいわ。乗って』
「ああ」
俺はフォレノワールに股上がると、俺達専用の出入り口を後で増やしてもらうことをドランにお願いすることに決めた。
そしてリフトを降下させて、少しだけ明るくなった空へと飛び出すのだった。
飛行艇から飛び出した直後、風に煽られて一瞬バランスを崩しかけたが、ここでフォレノワールの身体が光だし、馬体が黒から白へと変わっていき、翼が生えたと同時にペガサスの飛行が安定した。
いや、翼自体は飾りの様なもので、フォレノワールは普通に空を駆けていた。
さすがに少し驚いたが、高度があるからか冷たい空気が肌を刺すことで、冷静になっていく。
今回の件は自分らしくないことをしていると自覚しながらも、決して蛮勇にはならないように、相手を無力化させることだけに集中することにした。
「基本的に遠距離攻撃は出来ないけど、攻撃を受けたら即時回復はさせるから、フォレノワールの力を見せてくれ」
『それならしっかりと捕まっていなさい』
「ああ」
念の為にエリアバリアを発動させた瞬間、落下するような急降下でスピードを上げていくと、少し離れた場所に十を超える数の翼竜達が集団飛行していた。
『突っ込むわ。どう行動するかは貴方に任せる。私も私に出来ることをするから、一緒に頑張りましょう』
「ああ、行こう」
フォレノワールは空を駆けながら、目の前に五つの魔法陣が展開させ魔法を発動させた。
その魔法陣から放たれたのは、光だった。
攻撃なのだからレーザービームだとでも言えばいいのだろうか? 糸を引くような一筋の光が射線上にいた翼竜達の翼を貫いて焼いた。
魔法陣が光るとそのレーザービーム光線が発動し、集団で居たはずの翼竜部隊は刹那とも思える時の中で、翼を焼かれたダメージにより次々と落ちていくのだった。
空を舞台に繰り広げられる乱戦を思い描いていた俺には、その圧倒的な戦いに唖然とすることしか出来なかった。
『あれぐらいなら死なないわ。でも追いかけても狩れないでしょうから、任務完了ね』
「……フォレノワールさんや、少し圧倒的過ぎやしないか?」
『少し加減を忘れていただけよ。それに今回は相手がこちらに気がつかなかったから、攻撃がまともに入ったけど、普通ならこんなに魔力を節約するのは難しいわ』
加減したのか、していないのか分からないが、たぶんしたんだろうな。
「まぁお疲れ様。飛行艇に戻ろうか」
『ええ。あ、でもまだいくつか魔物の気配がするから、飛行艇の上で待機していた方がいいわ』
「了解」
フォレノワールの助言を素直に聞き入れ、魔通玉を取り出し、ドランに飛行艇の上に着地する旨を伝えてこのまま帝国へ行くことを伝えるのだった。
お読みいただきありがとう御座います。
明日からのG・W期間休載させていただきます。