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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

12章 帝国と二人の戦鬼将軍

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237 作戦会議?

 今回の共同戦線だが、実はあまり作戦らしいものは必要ないと考えていた。

 何故なら彼らがどう動いても、こちらがやることは変わらないからだ。

 それでもこうやって話を聞くことにしたのは、彼等がどう動くかを把握することで、少しでもイレギュラーを無くそうと考えたからだ。


 まずは殿下の人となりを探ることにした。

「アルベルト殿下は帝都にいる帝都民をどうしたいですか?」

「どう、とは? もし帝都民が戦火に巻き込まれてもいいのかを聞いているのなら、答えは否だ」

「そうですか。それはご自身が危険に晒されても……でしょうか?」

「元より危険は承知の上。私がやらねば、いずれ帝国は崩壊してしまう」

 どうやら帝国と帝都の民を大事にしているのは間違いないらしい。まぁそれで城から出るようになったのだから、それぐらい気骨がなければ困るのだが――。


「そうですか。それで戦力を把握したいのですが、アルベルト殿下に賛同する集まり……今は帝国の反対勢力という意味でレジスタンスと呼ばせて頂きますが、レジスタンスの戦力を教えていただけますか」

「一概に戦力と言われると、このエビーザの町にいる大半が私達の協力者だ。帝都にも情報を流してくれる協力者がいる」

 協力者……それにしては魔族化の呪いが掛けられた人が少なかったような気がする。

 もしかして、協力者とレジスタンスの兵士は違うのだろうか? 


 すかさず聞いてみる。すると驚くべき答えが返ってくることになる。

「……帝国兵と戦うことが出来る兵は、一体どれくらいいるのですか?」

「……五十名程しかいないが、帝国兵でも私の近衛だった者達だから精鋭揃いだ」

 近衛の時点で裏切り者がいる可能性を誰も指摘しなかったのか、それとも彼が帝国を追われた日から苦楽を共にしてきたから信じたのか。

 後者だったら仕方ないのかもしれないな。しかしその精鋭とは一体どれくらいの力量なのだろうか? あれだけ自信満々に言うのだから相当な腕前なのだろうか?


「……それではライオネルのような武勇の優れた方が居られるのですね」

「残念ながら先生と比較出来るような者はいない」

 しかし殿下は俺の言葉を聞いて、視線を逸らして答えた。

 この瞬間、とてつもなく嫌な予感がした。


 それを解消すべく、彼等の帝国奪還計画がどのようなものなのかを聞くことにした。

「……失礼ですが、どうやって帝国を取り戻そうとしていたのかお聞きしても?」

「帝都には協力者が大勢いるし、帝都はもちろん城へだって侵入出来る。現在ルーブルク王国との戦争で住民達だけでなく、兵達もこの現状に疲弊しているから、後は父を捕らえるだけだったのだ」

 別に正面から戦うだけが戦ではないし、策を練って少人数で奇襲を掛けることが間違いだとは思わない。

 それが城まで潜入出来るなら十分いい作戦には感じた。


 しかし、それならば何故失敗したのか? そんなことを思いながら、聞いていなかったことを聞くことにした。

「今までに何度帝国へ侵入したのですか?」

「十回程だ。これまでは色々なルートから奇襲をしていいたのだが、何故か成功したことはない」

 それはスパイが居たからだけど、俺はそこで視線をバザック氏に向けるが、彼は俺と視線が合うと首を横に振った。

 それが何を意味しているのか分からなかったが、いつも同じ作戦でよく生きて帰って来られたと少し感心もする。


「前回もそのような作戦を?」

「ああ。しかし城下町から城へと続く地下道で、偽者の先生にあっけなく返り討ちにあってしまい、命からがら逃げるしかなかったが、あれが無ければ今度こそ城の中へといけたのに――」

 この人は何故だか悪運のスキル持っているような気がした。


 しかしここで腑に落ちない点があった。そう、バザック氏が魔族化していなかったことだ。

 もしかしたら彼もスパイの可能性があるのではないか、そう思い念のために確認してみることにする。

「バザック氏は、帝都奪還の作戦には一緒に向かわれなかったのですか?」

「はい。城への同行は断られましたので、城下で騒ぎを起こす役割をしていました」

 笑顔ではなく、少し悔しそうにバザック氏は教えてくれた。


 それを聞いたアルベルト殿下は、気まずそうに顔を逸らした。

 ライオネルからは、憤るような溜息が聞こえた。

 いろいろとありえない。何で参謀であり、戦力として計算出来るバザック氏を分散したんだ? それとも宰相に取り立てたいというのはただのリップサービスなのか? それとも近衛のスパイの言うことを信じたか、だが――。

 もうこれ以上はツッコまないことにした。


「そうですか。それでは次に、皆さんはどんな攻撃を受けて、身体から瘴気が出るようになってしまわれたのですか?」

「偽者の先生と戦おうとしたら、赤い魔法陣が現れて、そこから紫の煙が一瞬にして部屋を覆ったのだ。偽者の先生は笑いながら消えていくし、身体がどんどん重くなり、意識が遠いていく、そんな感覚を覚えて、意識を失う前に退却したのだ」

 煙――毒ガスならぬ、瘴気ガスか。魔石を体内に埋め込むだけじゃなく、違う方法も開発しているなんて、時間が経てば経つほど、どんどん厄介になっていくじゃないか。


 帝国で魔族が研究されているのを知っていたなら、その対策を執るべきだったのでは? そんなことを言いたくなるのをグッと我慢して、完全に遊ばれていたんだな。

 まぁあまり使ってないけど、オーラコートを発動すれば、魔族化はしないだろうから、少しは相手を慌てさせることが出来るかもしれないけど、それにしてもなんと言って殿下を慰めればいいのだろうか?

 とりあえずフォローをしておくか。

「分かりました。さすがに裏切り者や監視者がいたのでは、殿下達がいくら策を講じたところで、相手の掌で転がるようなものでしたから、今度は成功させましょう」

「…………」

 しまった。普通に毒も一緒に吐いてしまった。


 俺の言葉が予想外だったのか、殿下は悔しそうに肩を震わせ、聖女は唖然とした表情を、そしてバザック氏は何故か笑いを必死に堪える表情をしていた。

 だが情報収集の詰めの甘さや、バザック氏の頭脳を使わなかったことを、今はきちんと反省してもらわないと共同戦線を張ることがデメリットだらけになってしまう。

 ……しかし本当にどうするか。彼等と共同戦線を張るメリットが正直何もない。いや、あるにはあるけど、彼等を捨て駒として使うことと全てが終わった後に、帝国をしっかりと舵取りしてもらう以外ないのだ。

 ライオネルが必要以上に介入しないのは、きっと色々な葛藤があるからだろう。

 ライオネルはもう将軍にはなりたくないと言っていたしな。

 よし決めた。


 彼等には自分たちが出来ることを自分達で考えてもらおう。

「大体レジスタンスの皆さんの分析は出来ました。それでは私達の作戦ですが、空から帝都へ入り、ライオネルを先頭に城まで直進します。止めるものは全てなぎ払い、魔族化している者は私が解き放ちます。以上です」

 ライオネルを除く三人は、あまりのシンプルな説明に呆然として固まってしまった。

 そんな中で立ち直ったのは、以外にも殿下だった。


「我が国には翼竜部隊がいるのだぞ! 飛行するものを発見したら撃ち落としにくるぞ」

「翼竜は竜の中でも空を飛ぶことに特化していて、ブレスもそこまで強力ではないと聞きました。それに飛行艇で行くのはわざと目立つ為です。仮に帝国兵がライオネルの姿を見たら、確実に手を止めるでしょう」

「た、確かに先生を見れば、皆の攻撃は止むだろう。しかし、偽者が先生のことを偽者だと言って来たら、いかがするのだ?」

「戦鬼将軍は武人です。一騎打ちを迫ります。それを断ればこちらの思惑通り、受けてもライオネルに勝ってもらえばいいことです。そこで偽ライオネルの正体を明かしてそのまま王城へと乗り込むつもりでした」

 パチパチパチっと、手を叩く音が聞こえると、バザック氏だった。

「なんと大胆な。奇をてらったということもなく、己の力を信じて正面突破とは……。本当にそれが成れば、無駄な犠牲者は一人も出ないではないか。これが賢者の知略なのか」

 完全にバザック氏に勘違いされてしまったが、あえて訂正をせずに、彼等に問うことにした。


「私達の作戦は今言ったように正面突破です。アルベルト殿下率いるレジスタンスの皆さんは、何が出来ますか?」

「それなら私達もその飛行艇とやらに乗せてもらい、帝国の第一皇子として共に凱旋をすればいいのではないか」

 浅はか過ぎる。同じ苦労人のニオイがしたと思ったが、全然違った。それでも魔族化を進める皇帝よりは幾分かマシだけど――。

「お断りします」

「何故だ」

「まず殿下の帝国での扱いは、既に廃嫡もしかすると指名手配されているのではないでしょうか?」

「廃嫡は既にされていますが、指名手配まではされていません」

 聖女メルフィナがそう教えてくれたが、俺の意思は変わらない。


「そうですか。飛行艇は帝国や殿下の所有物ではありません。さらに状況によっては、国が平定した時に飛行艇が帝国のシンボルになる可能性もあります。これを許容することは出来ません」

「それならばこの共同戦線を張ることに何の………」

 言い掛けてしまったでは済まないレベルの発言を殿下はしてしまった。

 そこで俺の頭にあることが浮かび、殿下の失言を楯にあることを交渉することにした。

「そうです。私達は殿下の率いるレジスタンスと共同戦線を張るメリットがないのです。逆にこちらが共同戦線を張れば、そちらはメリットだけしかありません」

「……何がいいたいのだ」

「これを聞き遂げるかどうかは殿下次第です。殿下の意思で決めてください」


 こうして俺は殿下に二つの要求をして、殿下はそれを認める形で、同盟が完全にまとまった。

 そして最後に、彼らが帝国へ着くのが急いでも一週間掛かることが判明したので、帝国の襲撃は一週間後に延期となるのだった。


お読みいただきありがとうございます。

i349488
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