欧米の中央銀行が相次いで金融緩和に踏み切った。一方、日本銀行は追加緩和を行わなかった。欧米と日本の経済環境は大きく異なる点も多く、安易に利下げ合戦に付き合う必要はないだろう。
米連邦準備制度理事会(FRB)は十八日、七月に引き続き政策金利を引き下げた。FRBのパウエル議長は緩和の理由を「予防措置だ」と説明する。だが、この言葉を額面通り受け取る向きは少ないはずだ。
米国は失業率、株価が共に堅調だ。インフレ予防に向けた引き締め策ならともかく、景気が良いときの「予防緩和」は異例である。ツイッターなどでひんぱんに緩和を求める、トランプ大統領の意向が反映されているのは確実だろう。
これに先立つ十二日、欧州中央銀行(ECB)も三年半ぶりに利下げを行った。こちらの狙いは、景気の減速傾向が鮮明な欧州経済の下支えだ。
欧州経済はけん引役のドイツの国内総生産(GDP)が四~六月期にマイナス成長に陥った。米中貿易戦争の影響で自動車輸出などが振るわなかった。英国の欧州連合(EU)離脱問題、フランスの反政府デモなど課題が山積する中、利下げに追い込まれた形だ。
日銀も七月の金融政策決定会合で追加緩和の構えをみせていた。しかし長引く金利低下の影響で地方銀行の収益が軒並み悪化するなど緩和の副作用が広がった。
異次元といわれる大規模緩和は六年以上続いている。だが目標とする2%の物価上昇率は達成のめどがたっておらず、デフレ傾向は定着したままだ。長期に及ぶ緩和策が限界に近づいていることは疑いの余地はないだろう。
大量の資金を流すことになる利下げは、政権や金融市場参加者が求めがちだ。一時的な支持率の上昇や、市場でのもうけにつながりやすいからだ。
ただ、今日本で留意すべきなのは国民生活への影響のはずだ。地銀の経営不安は地域の雇用や中小企業経営に直接影響を与える。
これ以上の収益減に耐えられない銀行が口座維持手数料を導入する可能性もある。その場合、銀行に預けない分が消費に回るとの甘い見通しはとても立てられない。たんす預金が増えるだけだろう。
極限まで緩和を続けた日銀が政府や市場を忖度(そんたく)する必要はない。わずかに残された緩和策の実行の是非について、生活防衛の視点から慎重に考える時だ。
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