知識は、
知識は、
知識は、
だが、身に着けた知識を真に活用するには“技術”が必要らしい。
モモンガが、気づいたきっかけは“料理”だった。
アルベドに手料理を振舞おうとしたが、料理人のクラスを取得していないせいか、まるで作れなかった。味音痴とか料理下手というものでなく、物理的に不可能だったのだ。
武器を持ってみても、同様だった。
だが、性的な行為は経験を積めばできる。
できるのだ。
「――だがな、デミウルゴス。一方で私は思うのだ」
周囲には罵り声と、野太い嬌声が響く。
ここは悪魔が運営する淫魔たちの
デミウルゴスは真剣に、主の言葉に耳を傾ける。
モモンガは、彼の用意した骨と皮の玉座に座していた。
「思えばエクレアや一般メイドたちは1レベルなのに家事をしている。彼らが持つはバードマンやホムンクルスといった種族レベルのみであり……職業レベルは持たない」
「おっしゃる通りです。しかし、彼らはかくあるべしと造られたがゆえ――」
デミウルゴスが、口を閉じ、首を傾げた。
「さすがだな。私は先ほど、ようやく気づいた。おそらく、私やお前がどれほど努力しようと、新たな呪文やスキルは習得はできまい。いや、ナーベラルのような100レベルに満たぬ者であっても同様だろう」
「……レベルの外にある技術、ですか」
モモンガは深々と頷く。
「おそらく技術によるのだろうな。100レベルに至って、真に何も獲得できないならば……我々は完全な停滞に至り、記憶すらできず、何の刺激も得られぬまま狂ってゆくだろう」
「しかし、そうはなっていない」
意を得たりと、モモンガが再び頷いた。
「データが全てを示すなら――知力という数値がわかりやすいな。数値のみ比較すれば、アルベドはお前より遥かに愚かで、シャルティアはお前に比肩する知性を持つだろう。だが、少なくとも私には、そのように見えん」
「ありがたき御言葉」
礼をするデミウルゴスに、モモンガがひらひらと手を振る。
「お前は“ナザリック随一の知恵者”と定められたゆえ、高き知性を得た。さらに、“日曜大工が趣味”と定められたがゆえ、製作系職業レベルを持たぬ身で、私に玉座を造ってくれた。そうだな?」
「おっしゃる通りでございます!」
玉座を撫で、褒めながらの言葉に、デミウルゴスは歓喜する。
甲殻に覆われた尾が、ゆらゆらと揺れた。
「そうだ。アルベドもパンドラズ・アクターも、知恵者と設定された。セバスは“完璧な執事”と設定され。恐怖公は“完璧な貴族”と設定された。貴族として策略や智謀に長ける――ともな。一方で、シャルティアは性格や嗜好こそ細かく設定されたが、能力に関する設定はほぼなかったはずだ」
「おお……」
至高の御方のみ為せる、御業の秘密。
誰あろう己にそれが明かされる事実に、デミウルゴスは感激した。
「“設定”は種族やクラスにもある。私の性的な面も、多くは
「なんと。御身もまた“設定”に縛られるのですか」
疑問を呈する。
「ああ。ユグドラシルでは、このような影響はなかった。逆に言えば、お前たちも“設定”に定められたからと、何もなかったはずだ。防衛指揮官とはいえ、お前の“智謀”は一切活かされず。日曜大工の作品もなかったろう」
「た、確かに……」
おぼろげな記憶の中。
かつての転移前、あの衝撃的な“婚礼”の時まで。
デミウルゴスはただそこにいて、命令のまま動き、戦うだけだった。
では、今は……。
「レベルとは戦闘力に過ぎない。真の意味での有能性は、記された“設定”によって定められるのだろう」
「あ、あ……ありがとうございます!」
モモンガのこの言葉はすなわち。
“お前は有能だ”
“その設定を書き込んだお前の創造主はすばらしい”
――そう、真正面から褒められたのだ。
一対一で。
至高の御方として、支配者として。
モモンガが、デミウルゴスと創造主ウルベルトを褒めたのだ。
感涙し、尻尾が激しく揺れ、床を打ち叩かぬよう抑えるに必死だった。
主の言葉はまだ続くのだ。
己の感情で、言葉を妨げるわけにはいかない。
「私もお前も、ここに来てからさらなる成長をしている。皆の“連携”もその一つであるし――他の者も、己の“設定”の範囲でがんばっているはずだ」
「ハッ! 鋭意精進いたします!」
涙で震えぬようにと、叫ぶような声になってしまう。
かつての時が何であろう。
今、自ら進化し、主に褒められ、使ってもらえる以上の喜びなどありえない。
「よい。根は詰めるな。リラックスし、休憩する時間を必ず作れ」
「しかし……」
モモンガは休憩を推奨していた。
命令したと言ってもいい。
だが、NPCとして、主に仕え働く以上の喜びはない。
多くの者にとって、休憩とは未知の時間であり、混乱だった。
「常に張りつめていては同じことしかできぬ。意識を緩め、とりとめなく過去を想い、未来を想え。お前の創造主ウルベルトさんのことでもいい。その中でこそ、私すら予期せぬ新たな成長の種子が、お前の中で芽生えるはずだ」
「そ、そのために休憩の推奨を――!」
デミウルゴスは驚愕した。
主の命令はすなわち。
「できることだけをするな」だ。
「できないことを、できるようになれ」だ。
直接言われれば、無茶なと反論しただろう。
だから、主は休憩という無駄とも思える時間を与えた。
無駄な中で、無駄にすまいという想いから生まれる――そんな、新たな知識や技術を求めておられたのだ。
なんと、途方もない、そして己らへの愛に満ちた命令だったのか。
「よいか。焦るな。新たな道が見えずとも気にするな。我々はいつまでも待てるのだ。お前の新たな一歩が明日であろうと、百年後であろうと、私は気にしない」
「あ……あ……」
言葉にならない。
そんなデミウルゴスを、モモンガは子供にするように撫でる。
(何と厳しく……そして慈悲深いことか)
眼窩に溜まっていた涙が。
ついに、眼鏡の下から流れた。
これほどの主に仕えられる至福。
そして直々の慈愛に触れられる歓喜。
「この
「は……はい。承知、いたしました」
震え声で答える悪魔の頭を、撫でながら。
モモンガは玉座を立ち……軽く抱擁する。
「ではな、デミウルゴスよ。期待しているぞ」
「はいっ!」
デミウルゴスは、激しく奮起した。
偉大なる主は慈悲深く微笑み。
転移によってナザリックに帰った。
ナザリック地下第九層。
ロイヤルスイート……廊下。
(ふむ……直接、男と交わっている者もいたが、問題はなさそうだったな。会話中にそのまま淫魔同士でも戯れていたし……男性偏向になるわけでもないのか)
実のところ、モモンガとしてはそれを確認したいだけだった。
(なら、マーレに少し早く性教育をしてもよかろう)
変身魔法を取得して以来。
ナーベラルを実践対象とする一方で。
より自然さを教授してもらうべく、ヒルマに“雄”としての鍛錬を受けている。
大きすぎてはいけない、など。
モモンガとしては知らなかった知識も多く、勉強になる。
(ヒルマは男の方がいい、生やしただけの私では物足りないと言っていたしな。元男の私とは異なるだろう。といって、セバスやデミウルゴスの相手をさせるのもな……マーレなら問題あるまい)
ヒルマには随分と世話になっているのに、ろくな礼をできていない。
より然るべき礼をせねばと常々思っていた。
(それにヒルマがマーレから経験値を得てレベルアップすれば、ナザリックでも準幹部として認められやすいだろう。彼女は人心掌握、組織経営、人脈形成、それに房中術にも長けている。十分に有能だ。一般メイドとは既に仲良くしていたからな。あのコミュ力は私も欲しい……何より、彼女が出世すれば、他の人間にも種族変更への憧れが生まれるかもしれん。できればクレマンティーヌ様も近く種族変更したいからな。自主的に望んでくれればいいのだが。さて、彼女の場合は悪魔にするか淫魔にするか……吸血鬼にするのも悪くないが……いや、まずはマーレだ。何と言ってもアルベドさ――ととと、アルベドが男と関係した場合に去ってしまわないか心配だ。マーレを側仕えに加えて、二人でアルベドの相手をしてもいい。マーレなら、私も抵抗は少ないからな。アルベドにされたように、両方に挿入もできるだろう。男相手も馴れておけば、今後のプレイの幅も広がるはずだ)
そんな風に考えをまとめながら、ヒルマの部屋に向けて歩く中。
久しぶりに、〈
(モモンガ様。緊急事態ゆえ失礼します)
セバスの声だ。
掃除の終わった王国で、冒険者にもならぬまま英雄になっている。
自由契約の客将のような立場だ。
「よい。漆黒聖典がついに来たのか?」
予想される緊急事態について問う。
だが、セバスの返答はモモンガの予想とは大きく異なっていた。
「アーグランド評議国永久評議員“
当初はナーベラルにいろいろしながら、モモンガさんが一人ぶつぶつ頭の中で考えてる想定でしたが。
明らかにR18になると途中で気づき自主没。
メイン回が今のところなくて、苦労話ばっかりさせてるデミウルゴスをピックアップしました。
このデミウルゴス、特に勘違いはしてません。
ただ、モモンガさん視点では、そこまで感動しなくても……という反応。
世界征服しないんだから、みんな可能性を探ろうねって話です。
スローライフで趣味探ししよう程度。
頭撫でたり抱きしめたりは、なんか泣いてるから母性を刺激されただけです。
モモンガさんはアルベド以外のNPCを(血縁のない)子供みたく感じてます。
パンドラだけ血縁あり。
子供のルプーやソリュシャン、シャルティアとも平気でアレコレしてるので、性的価値観はサキュバス脳で歪みきってます。
ところで、よく考えたらタイトルのアルベドさんが、最近出てない気が……。