アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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デミウルゴスヒロイン回です。



31:できる。できるのだ。

 知識は、経験(EXP)ではない。

 知識は、技術(スキル)ではない。

 知識は、魔法(スペル)ではない。

 だが、身に着けた知識を真に活用するには“技術”が必要らしい。

 

 モモンガが、気づいたきっかけは“料理”だった。

 アルベドに手料理を振舞おうとしたが、料理人のクラスを取得していないせいか、まるで作れなかった。味音痴とか料理下手というものでなく、物理的に不可能だったのだ。

 武器を持ってみても、同様だった。

 だが、性的な行為は経験を積めばできる。

 できるのだ。

 

「――だがな、デミウルゴス。一方で私は思うのだ」

 

 周囲には罵り声と、野太い嬌声が響く。

 ここは悪魔が運営する淫魔たちの訓練施設(パワーレベリングセンター)

 デミウルゴスは真剣に、主の言葉に耳を傾ける。

 モモンガは、彼の用意した骨と皮の玉座に座していた。

 

「思えばエクレアや一般メイドたちは1レベルなのに家事をしている。彼らが持つはバードマンやホムンクルスといった種族レベルのみであり……職業レベルは持たない」

「おっしゃる通りです。しかし、彼らはかくあるべしと造られたがゆえ――」

 

 デミウルゴスが、口を閉じ、首を傾げた。

 

「さすがだな。私は先ほど、ようやく気づいた。おそらく、私やお前がどれほど努力しようと、新たな呪文やスキルは習得はできまい。いや、ナーベラルのような100レベルに満たぬ者であっても同様だろう」

「……レベルの外にある技術、ですか」

 

 モモンガは深々と頷く。

 

「おそらく技術によるのだろうな。100レベルに至って、真に何も獲得できないならば……我々は完全な停滞に至り、記憶すらできず、何の刺激も得られぬまま狂ってゆくだろう」

「しかし、そうはなっていない」

 

 意を得たりと、モモンガが再び頷いた。

 

「データが全てを示すなら――知力という数値がわかりやすいな。数値のみ比較すれば、アルベドはお前より遥かに愚かで、シャルティアはお前に比肩する知性を持つだろう。だが、少なくとも私には、そのように見えん」

「ありがたき御言葉」

 

 礼をするデミウルゴスに、モモンガがひらひらと手を振る。

 

「お前は“ナザリック随一の知恵者”と定められたゆえ、高き知性を得た。さらに、“日曜大工が趣味”と定められたがゆえ、製作系職業レベルを持たぬ身で、私に玉座を造ってくれた。そうだな?」

「おっしゃる通りでございます!」

 

 玉座を撫で、褒めながらの言葉に、デミウルゴスは歓喜する。

 甲殻に覆われた尾が、ゆらゆらと揺れた。

 

「そうだ。アルベドもパンドラズ・アクターも、知恵者と設定された。セバスは“完璧な執事”と設定され。恐怖公は“完璧な貴族”と設定された。貴族として策略や智謀に長ける――ともな。一方で、シャルティアは性格や嗜好こそ細かく設定されたが、能力に関する設定はほぼなかったはずだ」

「おお……」

 

 至高の御方のみ為せる、御業の秘密。

 誰あろう己にそれが明かされる事実に、デミウルゴスは感激した。

 

「“設定”は種族やクラスにもある。私の性的な面も、多くは女淫魔(サキュバス)としての“設定”に違いあるまい」

「なんと。御身もまた“設定”に縛られるのですか」

 

 疑問を呈する。

 

「ああ。ユグドラシルでは、このような影響はなかった。逆に言えば、お前たちも“設定”に定められたからと、何もなかったはずだ。防衛指揮官とはいえ、お前の“智謀”は一切活かされず。日曜大工の作品もなかったろう」

「た、確かに……」

 

 おぼろげな記憶の中。

 かつての転移前、あの衝撃的な“婚礼”の時まで。

 デミウルゴスはただそこにいて、命令のまま動き、戦うだけだった。

 では、今は……。

 

「レベルとは戦闘力に過ぎない。真の意味での有能性は、記された“設定”によって定められるのだろう」

「あ、あ……ありがとうございます!」

 

 モモンガのこの言葉はすなわち。

 “お前は有能だ”

 “その設定を書き込んだお前の創造主はすばらしい”

 ――そう、真正面から褒められたのだ。

 一対一で。

 至高の御方として、支配者として。

 モモンガが、デミウルゴスと創造主ウルベルトを褒めたのだ。

 感涙し、尻尾が激しく揺れ、床を打ち叩かぬよう抑えるに必死だった。

 主の言葉はまだ続くのだ。

 己の感情で、言葉を妨げるわけにはいかない。

 

「私もお前も、ここに来てからさらなる成長をしている。皆の“連携”もその一つであるし――他の者も、己の“設定”の範囲でがんばっているはずだ」

「ハッ! 鋭意精進いたします!」

 

 涙で震えぬようにと、叫ぶような声になってしまう。

 かつての時が何であろう。

 今、自ら進化し、主に褒められ、使ってもらえる以上の喜びなどありえない。

 

「よい。根は詰めるな。リラックスし、休憩する時間を必ず作れ」

「しかし……」

 

 モモンガは休憩を推奨していた。

 命令したと言ってもいい。

 だが、NPCとして、主に仕え働く以上の喜びはない。

 多くの者にとって、休憩とは未知の時間であり、混乱だった。

 

「常に張りつめていては同じことしかできぬ。意識を緩め、とりとめなく過去を想い、未来を想え。お前の創造主ウルベルトさんのことでもいい。その中でこそ、私すら予期せぬ新たな成長の種子が、お前の中で芽生えるはずだ」

「そ、そのために休憩の推奨を――!」

 

 デミウルゴスは驚愕した。

 主の命令はすなわち。

 「できることだけをするな」だ。

 「できないことを、できるようになれ」だ。

 直接言われれば、無茶なと反論しただろう。

 だから、主は休憩という無駄とも思える時間を与えた。

 無駄な中で、無駄にすまいという想いから生まれる――そんな、新たな知識や技術を求めておられたのだ。

 なんと、途方もない、そして己らへの愛に満ちた命令だったのか。

 

「よいか。焦るな。新たな道が見えずとも気にするな。我々はいつまでも待てるのだ。お前の新たな一歩が明日であろうと、百年後であろうと、私は気にしない」

「あ……あ……」

 

 言葉にならない。

 そんなデミウルゴスを、モモンガは子供にするように撫でる。 

 

(何と厳しく……そして慈悲深いことか)

 

 眼窩に溜まっていた涙が。

 ついに、眼鏡の下から流れた。

 これほどの主に仕えられる至福。

 そして直々の慈愛に触れられる歓喜。

 

「この女淫魔(サキュバス)たちも、レベルが行き詰まればナザリックに送れ。彼女らにも休憩を与え、レベル以外の能力もよく調べておくようにな。家事や料理とて知識であり技術だ。レベルとは異なる“何か”を持つ者もいるだろう」

「は……はい。承知、いたしました」

 

 震え声で答える悪魔の頭を、撫でながら。

 モモンガは玉座を立ち……軽く抱擁する。

 

「ではな、デミウルゴスよ。期待しているぞ」

「はいっ!」 

 

 デミウルゴスは、激しく奮起した。

 偉大なる主は慈悲深く微笑み。

 転移によってナザリックに帰った。

 

 

 

 ナザリック地下第九層。

 ロイヤルスイート……廊下。

 

(ふむ……直接、男と交わっている者もいたが、問題はなさそうだったな。会話中にそのまま淫魔同士でも戯れていたし……男性偏向になるわけでもないのか)

 

 実のところ、モモンガとしてはそれを確認したいだけだった。

 

(なら、マーレに少し早く性教育をしてもよかろう)

 

 変身魔法を取得して以来。

 ナーベラルを実践対象とする一方で。

 より自然さを教授してもらうべく、ヒルマに“雄”としての鍛錬を受けている。

 大きすぎてはいけない、など。

 モモンガとしては知らなかった知識も多く、勉強になる。

 

(ヒルマは男の方がいい、生やしただけの私では物足りないと言っていたしな。元男の私とは異なるだろう。といって、セバスやデミウルゴスの相手をさせるのもな……マーレなら問題あるまい)

 

 ヒルマには随分と世話になっているのに、ろくな礼をできていない。

 女淫魔(サキュバス)への種族変更は、こちらの都合による実験だ。

 より然るべき礼をせねばと常々思っていた。

 

(それにヒルマがマーレから経験値を得てレベルアップすれば、ナザリックでも準幹部として認められやすいだろう。彼女は人心掌握、組織経営、人脈形成、それに房中術にも長けている。十分に有能だ。一般メイドとは既に仲良くしていたからな。あのコミュ力は私も欲しい……何より、彼女が出世すれば、他の人間にも種族変更への憧れが生まれるかもしれん。できればクレマンティーヌ様も近く種族変更したいからな。自主的に望んでくれればいいのだが。さて、彼女の場合は悪魔にするか淫魔にするか……吸血鬼にするのも悪くないが……いや、まずはマーレだ。何と言ってもアルベドさ――ととと、アルベドが男と関係した場合に去ってしまわないか心配だ。マーレを側仕えに加えて、二人でアルベドの相手をしてもいい。マーレなら、私も抵抗は少ないからな。アルベドにされたように、両方に挿入もできるだろう。男相手も馴れておけば、今後のプレイの幅も広がるはずだ)

 

 そんな風に考えをまとめながら、ヒルマの部屋に向けて歩く中。

 久しぶりに、〈伝言(メッセージ)〉が来た。

 

(モモンガ様。緊急事態ゆえ失礼します)

 

 セバスの声だ。

 掃除の終わった王国で、冒険者にもならぬまま英雄になっている。

 自由契約の客将のような立場だ。

 

「よい。漆黒聖典がついに来たのか?」

 

 予想される緊急事態について問う。

 だが、セバスの返答はモモンガの予想とは大きく異なっていた。

 

「アーグランド評議国永久評議員“白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”ツァインドルクス=ヴァイシオンと名乗る者が、モモンガ様との面会を求めております」

 




 当初はナーベラルにいろいろしながら、モモンガさんが一人ぶつぶつ頭の中で考えてる想定でしたが。
 明らかにR18になると途中で気づき自主没。
 メイン回が今のところなくて、苦労話ばっかりさせてるデミウルゴスをピックアップしました。

 このデミウルゴス、特に勘違いはしてません。
 ただ、モモンガさん視点では、そこまで感動しなくても……という反応。
 世界征服しないんだから、みんな可能性を探ろうねって話です。
 スローライフで趣味探ししよう程度。
 頭撫でたり抱きしめたりは、なんか泣いてるから母性を刺激されただけです。
 モモンガさんはアルベド以外のNPCを(血縁のない)子供みたく感じてます。
 パンドラだけ血縁あり。
 子供のルプーやソリュシャン、シャルティアとも平気でアレコレしてるので、性的価値観はサキュバス脳で歪みきってます。

 ところで、よく考えたらタイトルのアルベドさんが、最近出てない気が……。

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