[3-11] はたらくのりもの
「うわーお」
山から戻ってきたエヴェリスは、居並ぶ魔物たちを眺めて感嘆の声を漏らした。
オーガの集落の周囲はここ数日で大量の木材を必要としたため大規模に木々が伐採され、結果として広いスペースができている。
そこに魔物たちが集結していた。
そしてそんな魔物動物園状態の中にあっても一際存在感を放っているのは、巨大な合金装甲獣……
"絢爛たる溶鋼獣"ことフォージの姿だ。
「こいつが例のネームドね」
「そう。8時間取っ組み合って認めさせたわ」
垂れ耳の大型獣はエヴェリスとトレイシーを見て、胡乱げにフガフガと鼻をひくつかせていた。
「……ボクが撫でても大丈夫?」
「ばうっ!」
「きゃっ!」
恐る恐るトレイシーが近寄ると、フォージは即座に咆える。
その巨体からしたら意外なほど貫禄の無い咆哮だったが、しかしフォージは明確にトレイシーを威嚇していた。
「あははは、気安く近寄るなってさ。
やっぱり人族には簡単に気を許さないか」
「もー、ひどいなあ」
エヴェリスはケラケラと笑いながらも、杖を構えていつでも防御できる態勢だった。
ルネが近づいてみる。当然今度はフォージも咆えない。
肩装甲を蹴り、操縦桿みたいに合金の角が突き出した頭に飛び乗ってみると、フォージは満足げに一声鳴いた。
「わん!」
「姫様なら喜んで乗せるね。
……いーねえ、人族なら間違ってもこんなもん乗騎になんてできないよ。
やっぱり大将は乗り物もスペシャルでなきゃ」
演出に凝りたがるコンサルタントさんは、ルネの新たな乗り物を見て満足げだ。
人を乗せるよう調教された魔物を騎獣と呼ぶが、騎獣にできる魔物はかなり少ない。
邪神が世界を破壊するための手駒として作られた魔物でありながら、よりによって『人と信頼関係を築いて背に乗せる』というところまで調教できるのは『魔物の例外』と言っていいくらいに少なく、稀少だ。
人によく馴れると言われるヒポグリフですら、半数は育成段階で『人族への敵対意識が強く不適格』とされ殺処分される。一般的な魔物となれば言うまでもない。
その制約が、アンデッドであるルネには存在しないのだ。
「名前はフォージにしたの」
「へえ、そうなんだ」
「フルネームはフォージ・ワシントン」
「「なんで?」」
ちなみにフォージ・ルーカスでもよかった。
「そっちの収穫はどうだったの?」
「そーだねえ……」
エヴェリスは天を振り仰ぎ、つられてルネも上を見た。
天高く、鋭く鳴く猛禽の声が轟く。
太陽を覆い隠す巨大な鷲が雄大な羽音と共に天を横切り、過ぎ去りざま、その背中から漆黒のメイド服を着たミアランゼが飛び降りた。
ミアランゼに肌の露出は一切無く、顔も漆黒のヴェールで覆っている。ここで翼を展開すれば日の光に灼かれてしまうだろうが、翼無しでも特に問題無い。
くるくると空中で何十回転かした末に、彼女は猫的な身軽さでふわりと着地する。
ミアランゼの身体能力はほぼ人間だった。しかしヴァンパイア化したことで、その血に眠る
あの高さから飛び降りても無事なケットシーは普通居ないだろうけれど、それはそれとして。
「姫様。ミアランゼ、只今戻りました」
膝で軽く衝撃を受け流し、ミアランゼはそのままルネの前に跪く。
巨大な鷲は鋭く鳴きながら上空を旋回し、エヴェリスはその様を魔動双眼鏡で見ていた。
「ミアランゼが乗ってたアレ、ネームド級の
人里離れた場所に住んでたせいで存在が認知されず、二つ名を付けられなかったみたいだけど」
「戦って手懐けたの?」
「いんや、オスだったから」
「……ああ」
納得した。
元は琥珀色だったミアランゼの双眸は、ヴァンパイアと化した時から真紅に染まっている。
その視線は全ての男、あるいはオスを骨抜きにして呪縛する。ヴァンパイアの特殊能力『魅了の邪眼』だ。
「ま、何かの拍子に魅了が解けちゃったら暴れ出しそうだし、あくまで応急処置ね。まずは急いでどかす必要があるわけだし。
落ち着いたらじっくり調教していきましょ」
扇情的な服装に、肉感的な体つき。濃紫の艶やかな髪一本一本に至るまで無駄にエロスが漂っているエヴェリスが『調教』なんて言葉を使うと非常に誤解を招くが、もちろんこれは真面目な話だ。
ちなみにルネが『魅了の邪眼』をフォージのスカウトに使わなかったのは、ヴァンパイア形態で魅了してもルネが別の姿になった途端、魅了が解けてしまうからだった。
その他の種に至っては、オスだけ連れてきても意味が無い。
「あのフレスヴェルグは山で手に入れた魔物の中でも特に秀でた力を持つ個体。姫様のお気に召しましたら恐悦にございます。
他の魔物たちも間もなく到着致します」
「特筆すべきは
ビッグフットの皆さんともお近づきになれたんだけどさぁ、下がこの環境じゃ山から降ろせないし、仕方なく山伝いに移動してもらうことになったわ。
「いずれにしても、しばらくは戦力にできませんね。雪と氷の魔物たちは、夏場は山中の氷窟で夏眠をするそうですから」
「この辺の気候だと、冬でも下界はキツいんじゃないかなー」
思わず山の方を見て、そこを移動しているのであろう手下たちの姿にルネは想いをはせた。
極端な気候に適応したために、それ以外の場所で活動できない魔物も多い。
いつかは役に立つかも知れないが、今のところ
「で、この子は?」
「私に付いて行くと言って聞かなかったもので……」
ミアランゼの肩の上では、雪の結晶を二つに割ったような形の羽を持つ真っ白い少女が……雪の
「言い忘れてたけど、作業の方もつつがなく終わったよ」
「魔女さん人使い荒すぎ!」
「人材難なんだから文句言わなーい。
とにかくこれで……『道』作りの準備はバッチリ。
おまけに『道』の上に居る魔物はみーんな姫様のもの。欲を言うなら山の反対側ももうちょい綺麗にしたかったけど、まあ向こう側は魔境度低くて人里近いし、なんとかなるでしょ」
ニイ、と外見にそぐわぬイタズラ小僧のような笑みをエヴェリスは浮かべていた。
彼女は仕掛けを楽しむ
あるいは今の彼女は、こうして大仕事に関われるという充実感からイキイキとしているようにも見えた。
「お引っ越しの準備はいかが?」
「フル稼働で狩りをしてるわ。オーガと
進捗の詳細はアラスターに聞いてちょうだい」
「順調なようで何より。こっちも山で拾ってきた魔物に、良い食肉になりそうなのが結構居るよ。
……よーしよーし、魔女さんは術式の仕上げに入らせてもらおうか」
ヒラヒラと手を振りながらエヴェリスはベースキャンプへ帰って行く。
後に残されたのは、魔物動物園をおっかなびっくり観察するトレイシーと、まだ跪いたままのミアランゼだ。
ふと気が付けば、跪いたままのミアランゼとルネを乗せたフォージが、取り組み前の力士のように見合ってる。
フォージも、ヴァンパイアであるミアランゼに対しては露骨に邪険な態度を取らない。しかし何やら鍔迫り合いのような緊張感が満ちている。
ミアランゼが放つのは魔力を込めた邪眼ではなく、火花散るような油断ならぬ熱量の視線だ。
「乗り心地なら狼に化けた私の方が……!」
「わん!」
ルネは何も聞かなかったことにした。
ゆきだる魔人。
雪玉投げます。当たると凍ります。ヤカン一杯のお湯で倒せます。儚い。
なお雪玉に石を入れる奴がたまに居ますが群れからムラハチにされます。
魔物が多い場所は自然物に邪気が溜まって魔物になることがあります。
一匹生まれると同族を作り始めるので、群れが出来る反面、邪気が消費されて他の自然物系魔物は増えにくくなります。
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