予想通りではあるが、水入りとなった広島に彼の姿はない。根尾である。10戦連続安打を継続中で、2軍の打率はようやく2割を超えた。いや、その前から「上げればいいのに」という声は広く聞こえた。正直に書くと、僕もその一人だった。
「根尾を見たい」。ファンや記者がそう思う気持ちは自然だ。与田監督も迷ったことはあるだろうが、グッとこらえた。僕はこの1カ月ほど、ずっとその理由を考えていた。ふに落ちたのは21日のヤクルト戦(神宮)で、柳がヒーローインタビューを受けていたときだ。アナウンサーが「ついに広島と1.5ゲーム差になりました!」と言った。わかっていたことなのに、急にCSが目の前に見えた気がした。ああ、これか…。
「チームの士気を下げるようなことだけはしたくない」。与田監督はこう繰り返してきた。たかが1軍29人の1枠。根尾に空けたとしても誰も文句を言わないだろう。されど根尾の存在感は、いい意味でも悪い意味でも空気を変える。美しい飾り物のように、ベンチに置くだけでは満足しない。次は「使えよ」となる。それは京田を外すか、2軍でもほとんど経験のない他のポジションで出すことを意味する。「ああ、もう勝ちにいかなくていいんだ」。目に見えぬところからチームの空気が漏れ出るのを与田監督は恐れたのだ。
士気は上げるのは難しく、下げるのは簡単だ。育成と勝利の両立は、リーダーの永遠の課題。巨人・原監督は5年ぶりの覇権奪回に目を潤ませた。長嶋茂雄終身名誉監督は「これまでの優勝とはまるで違う」と言った。重圧と責任。それに比べればささやかだけど、竜党も7年ぶりのCSを首を長くして待っている。今季10戦9敗のマツダでの決戦。ここを制するかどうかで、根尾待望論を退けたことの価値も決まる。