大関返り咲きの歓喜から一転、千秋楽決戦の結末はあまりにも残酷だった。貴景勝がもろざしを許し、御嶽海に一方的に寄り切られた優勝決定戦。取組直後、一礼する前から右腕で左胸を押さえ、激痛をこらえていた。
引き揚げた支度部屋では、左胸にタオルを当ててうなり声を上げ、鼻血を拭うこともしない。苦悶(くもん)の表情で呼吸は乱れっぱなし。元横綱稀勢の里(荒磯親方)が、新横綱だった2017年春場所、相撲人生を暗転させる左大胸筋の重傷を負った姿と重なる痛々しい光景だった。「イッテー」。そうつぶやいて付け人には、小声で「切れてる」とも告げた。自ら負傷したのは優勝決定戦で押した場面と明かし、賜杯を逃した一番を「弱いから負けたんじゃないですかね。最後、勝たないと意味ない」と気丈に振り返った。
痛みを問われて「まあ、大丈夫」と強がった。夏場所、同じ御嶽海との一番で右膝の靱帯を痛めた際も、同じ言葉を繰り返した。結果は2場所連続休場。額面通り受け取るわけにはいかない。帰り際、浴衣に袖を通しやすいように右手を挙げたが、左腕はだらりと垂らしたまま。病院へ向かうために迎えの車を待つ間には、誰に問われるでもなく「あー、残念だ。ケガが残念」と独りごちた。
武器の突き押しはもちろん、強烈なおっつけや相手の出足を止めて繰り出す突き落としなど、貴景勝にとって利き腕の左は攻めの土台。史上初の大関復帰決定場所での優勝は叶わず、右膝を負傷した夏場所同様、またしても御嶽海戦での悲劇が起きた。(志村拓)