記者席の僕の右隣にはヤクルトの五十嵐と石川が、左隣には中村がいた。豪華なメンバーにはさまれて、館山が壮絶な野球人生に幕を下ろすシーンを目に焼き付けた。
館山は強かった中日から18勝をもぎ取った。中日も全盛期の館山に17の黒星をつけた。館山をつぶす。館山を倒す。その任務を負っていたのが吉見だった。
「ヤクルトといえば石川さんもすばらしい投手ですが、ピッチャー像としてはエースはパワーのある館山さんだと思っていました。年齢は4歳違いますが、2桁勝ち始めた時期がかぶっていたので。投げ合いたい。そう思っていました。簡単には点を取れない。だからこっちも与えてはいけない」
レギュラーシーズンでは5度実現した吉見と館山のマッチアップ。それよりも吉見の記憶に刻まれているのは、2度のCSでの投手戦だという。2009年の第1ステージ(ナゴヤドーム)と11年のファイナルステージ(同)。どちらもロースコアの1点差で、吉見が耐え、館山が屈した。計7試合で吉見が5勝1敗、館山が1勝5敗とほとんどの対決で白黒がついているのが2人がエースと呼ばれた証しだろう。
「互いにケガもしたので、肘のことで相談したこともあるんです。僕にとって館山さんは負けたくない人であると同時に、技術的にも精神的にも強くさせてくれた存在でもあるんです」
メスを入れ、苦しいリハビリを不屈の闘志で乗り越えては、マウンドに戻る。生々しい手術痕と過程を知っているから、僕には吉見と館山が「同志」に映る。
「月並みですが、お疲れさまでした。その言葉しかないですね」。吉見自身も5試合、1勝1敗という悔しい成績で今季を終えつつある。館山の志を受け継ぎ、進退が懸かる2020年に臨む。