「逃亡犯条例」改正案に端を発した香港デモの発生から百日余。混乱収拾のためには、中国が国際公約した「一国二制度」の“原点”を忘れず、香港人による統治に干渉しないことが大切である。
香港政府は九月四日に改正案の完全撤回を表明したが、六月初旬に始まった抗議活動に収束の気配はない。中国政府に気を使う香港政府が撤回に手間取るうちに、デモ隊による要求の重点が、普通選挙の実施など民主化実現に移ったためであるといえる。
デモ隊は、香港の民主を支える「一国二制度」を守るには、当事者能力を欠いた香港政府ではなく、中国政府に圧力をかけるしかないと判断。民主活動家が米議会の香港問題の公聴会で証言するなど、国際社会と連帯を強めている。
香港返還を振り返れば、中英両国は一九八四年に「一国二制度」の方式による香港の中国復帰をうたう共同宣言に調印した。
九七年の香港返還の際には、当時の江沢民国家主席が「中国政府は香港の『高度な自治』を断固実行する」とも確約した。
「一国二制度」に基づき香港人に「高度な自治」を認めることは、同宣言で保証された中英の国際公約ともいえる。
八月の先進七カ国首脳会議(G7サミット)の総括文書には、中英共同宣言について「存在と重要性を再確認する」と盛り込まれた。それに対し、中国政府は「強烈な不満」を表明した。
中英両国が正式調印した宣言に一方的に異を唱えるような言動は、国際社会の理解と信用を得られぬものであろう。
デモ隊が矛を収めないのは、香港政府が提起した今回の条例改正や〇三年に制定に失敗した国家安全条例などは、背後の中国が「一国二制度」を骨抜きにしようとする手段と見抜いているからだ。
中国政府の本音は一四年公表の「香港白書」で露骨になった。「一国二制度による自治は完全な自治ではない」と言い切った。
共同宣言に対する反発を見ても、中国はもはや「一国二制度」を守る意思はないと批判されても仕方のない状態である。
中国が、同じ制度による統一をめざす台湾では「今日の香港は明日の台湾」と、統一に反対する声が目立つのは当然である。
香港情勢では、中国が「香港人による自治」の原点を守らない限り、民主的な自由を求める抗議行動は今後も続くであろう。
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