アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 ナーベラルヒロイン回。



30:続けよ

 モモンガは宝物殿の前で待っていた。

 ナーベラル・ガンマはぴしりと足をそろえ、深々と礼をする。

 彼女には大きな引け目があった。

 軽はずみに“死を以て償う”などと口にし、御方を失望させてしまったのだ。

 今にして思えば、ギルドから除名されてもおかしくなかった。

 何にも属さず、居場所もなく、ただ彷徨い続ける。

 それはナザリックのシモベにとって、何より恐ろしい、絶望の奈落だ。

 

「ナーベラル、私を失望させるなよ」

「ハイ、もちろんです!」

 

 釘を刺され、緊張と共にもう一度、礼をする。

 

「ついて来るがいい」

 

 毒無効化の指輪を装備し。

 二人は宝物殿へと、踏み入った。

 

 

 

 宝物殿の中、凄まじい財宝の間を進むモモンガの後に従うナーベラル。

 本来なら、目もくらむ品々に驚嘆し、己の創造主たる弐式炎雷について問うなどもしたろうが。

 今の彼女は身をこわばらせ、主に付き従うばかり。

 主の背、主の一挙一動しか見ない。

 ただただ、主の失望を買うまいと、必死なのだ。

 そして、モモンガの足が止まる。

 

「……強欲と無欲、か。今の私は強欲ゆえにこれを使うのだな」

 

 深々と溜息をついて、手を伸ばす。

 それは白と黒……天使と悪魔を思わせる装飾の籠手(ガントレット)

 

「私はこれより、このアイテムを使った実験を行なう。使用は既にパンドラズ・アクターにも言ってあるが……お前には立会人となってもらう」

「ハッ! 光栄です!」

 

 モモンガは目を閉じ、己のしようとする行為について、もう一度己に問い返す。

 蓄えた経験値を消費していいのか?

 経験値消費内容はこれでいいのか?

 実験材料はナーベラルでいいのか?

 一つ一つに再考しながら。

 モモンガは、世界級(ワールド)アイテム“強欲と無欲”を装備する。

 本来ならば100レベルと化せば、それ以上取得できぬ経験値。

 これは、経験値を余分に蓄えておけるアイテム。

 経験値を消費するアイテムや、蘇生時のペナルティ軽減にも役立つ品だ。

 

 ナーベラルが、緊張から息を飲む。

 彼女は、主が何をしようとしているか……彼女は何も知らない。

 

「ナーベラル。これから行う全てについて、お前は姉妹を含む全てに対し秘密を守らねばならない。これは最優先の命令だ。できるか?」

「もちろんです。至高の御方たるモモンガ様の命とあらば!」

 

 モモンガは頷き、ある超位魔法を発動させる。

 周囲を無数の魔法陣が取り巻いた。

 そして、かつてユグドラシル時代に蓄えていた経験値を消費して。

 モモンガに今の姿を与えた、彼の呪文を唱える。

 

「〈星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)〉!」

 

 ユグドラシルとは違う、遥かに多くの……いや、無限の選択肢。

 おそらく、望むならばいかなる願いとて叶いうるほどに。

 モモンガはより安易な――愛する人の心を書き換えるという願いに一瞬手を伸ばしかけるが……振り払う。

 愛とはそうして得るものではない、はずなのだ。

 だから、本来の予定で唱える。

 

「我に第5位階呪文〈上位変身(グレーター・ポリモーフ)〉を追加取得させよ!」

 

 呪文の追加取得は、第6位階魔法以下ならば、以前も可能だった。

 モモンガは、己の中には明らかに、新たな呪文が備わったとわかる。

 蓄えられていた大量の経験値が、みるみる消費されていくが、かつて唱えた際より少ない。

 第五位階という、やや低めの位階の呪文だからだろうか?

 経験値はまだ、もう一回分は蓄えられている。

 

「これは予定通り。そして次だ――〈星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)〉」

 

 未知の領域に、モモンガ自身にも緊張が走る。

 何が起こるかわからないのだ。

 クラス取得や種族構成に影響が生じる可能性すらある。

 

「我が取得呪文〈第1位階悪魔召喚(サモン・デーモン・1st)〉を第1位階呪文〈清潔(クリーン)〉に変換せよ」

 

 自身の記憶の中から呪文が消え、新たな呪文が与えられる。

 転移直前の種族変更によって取得した、モモンガにとっては死に呪文。

 一方で覚えんとするのは、この世界で発見された、ユグドラシルにはなかった呪文だ。

 第一位階呪文を別のものに交換――つまり、呪文構成をリビルドしたのだ。

 そして。

 

「おお……」

 

 経験値の消費量は明らかに少ない。

 安いとは言えないが、先の半額以下だ。

 さらに追加で、実験してみる。

 

「我が取得呪文〈第2位階悪魔召喚(サモン・デーモン・2nd)〉を第1位階呪文〈無臭(オーダレス)〉に変換せよ」

 

 敢えて、より低い位階の呪文と交換した。

 消費量はさらに少なくなる。

 

「すばらしい! 経験値さえあれば、いくらでも取得呪文を変更できるわけか!」

 

 久しぶりの、色恋と関係のない興奮。

 他系統呪文やスキルについても検証したかったが、残る経験値が心もとない。

 

「おめでとうございます」

 

 ナーベラルがよくわからないまま、上機嫌な主に拍手する。

 そんな彼女に、モモンガの目が向けられた。

 

「ありがとう、ナーベラル。もう一つの実験に移るとしよう……〈上位変身(グレーター・ポリモーフ)〉」

「…………」

 

 モモンガが肉体変身の呪文を唱えるが……変化した様子は見られない。

 ナーベラルとしては、指摘してよいものかわからず。

 押し黙って立ち尽くすしかない。

 

「ああ……なつかしい感覚だな。そして、これも淫魔の特性か……」

 

 モモンガは満足げにうなずき、じっとナーベラルを見ている。

 

「あ、あの……モモンガ様……?」

 

 主の視線に困った顔をする彼女だが。

 

「ああ、そうだったな。ナーベラル……『(ひざまず)け』」

「ハッ!」

 

 かつて転移前から幾度と受けた命令(コマンド)だ。

 きびきびとした動きで主の前に跪き、俯いて控える。

 主の足音が近づく。

 ばさりと、ローブをはためかせる音がした。

 

(おもて)を上げよ、ナーベラル」

「ハッ……あ、え……?」

 

 目の前に、ローブの前面を完全に開き(あらわ)にした主がいた。

 そして、女淫魔(サキュバス)となったはずの彼女のそこには……。

 

「あ……あ……」

 

 玉座でアルベドに即イキさせられていた時、なかったはずのモノが……ある。

 ナーベラルが顔を赤くし、ポニーテールをぴょこぴょこと跳ねさせる。

 

「最初に試すのはお前だ。奉仕せよ、ナーベラル」

「は、はいっ!」

 

 しかし、ナーベラルはこうした色事に疎い。

 どうすればいいかわからず、頬ずりしたり、唇でキスしてみたりする。

 

「お、大きくなってきました!」

「続けよ」

 

 取り乱すナーベラルに、モモンガは落ち着いた声で言う。

 そのまま必死に、彼女なりの奉仕を繰り返すが。

 

「ふむ……他は知らないか。口を開け、ナーベラル」

「申し訳ありませ――はいっ!」

 

 慌てて口を開く。

 籠手をはめたままの手が、頭をがっちりと掴んで来る。

 

「苦しいかもしれないが、噛むなよ……っ」

「はひ――んんんぐううううううう!?」

 

 そのまま、ねじこまれた。

 

 

 

 数分後。

 

「そのまま飲めッ!」

「んんーーーっ、んぐぐぐぐぐ!!」

 

 至高の御方の命令は絶対である。

 何より、賜ったメイド服を汚すなど、ナザリックのメイドとして許されないのだ。

 

 

 

 さらに数分後。

 

「立つがよい。そして、後ろを向いて壁に手をつけよ」

「こふっ、けほっ……こ、こうでしょうか?」

 

 まだ喉に痛みと、粘つく感触を覚えつつ。

 言われるままに尻を向ける。

 御方に失礼に当たらないかと心配しながら。

 

「どれ……ほう――ナーベラルは優秀だな」

「あ、ありがとうございます」

 

 スカートをめくり上げられ、褒められる。

 何が褒められているかは、よくわかっていない。

 

「奉仕中に準備ができているではないか。〈油膜(グリース)〉の呪文を使わねばならぬかと思ったが、これなら不要そうだ」

「お褒めにあずかり、光栄で――あ……」

 

 下着をそのまま下ろされる。

 何をするのか、うすうす察しても。

 詳細な知識のないナーベラルにはどうすればいいのか、何が無礼で何が作法か、まるでわからない。ただ、主を失望させないよう、脱ぎやすいよう脚を動かし。不浄な場所を(あらわ)にされても、じっと耐えるしかない。

 後ろから、腰を掴まれる。

 籠手をつけたままの手は、少し痛い。

 

「では、ゆくぞ」

「も、モモンガさ――っ~~~~~!」

 

 守護者不在の宝物殿の中、ナーベラルの悲鳴が響いた。

 

 

 

 二時間後。

 ナーベラルは再び、跪いていた。

 

「さて……〈清潔(クリーン)〉に〈無臭(オーダレス)〉と。なるほど、便利な呪文だな。そして確かに、経験値も獲得できた。つまり、私も屈するごと少なからぬ経験値を生じさせていたわけか……。今度、ルプスレギナにでも装備させてみるとしよう。有益な検証だった。礼を言うぞ、ナーベラル」

「っ……ちゅっ、んちゅっ……♡」

 

 ナーベラルは一心に、主の穢れを清めている。

 主の手が黒髪を撫でる時、わずかに目を細める程度だ。

 あふれ出した体液が、メイド服を汚しても、気にしない。

 否、これは汚れなどではなく。

 寵愛の証なのだ。

 

「もういいぞ。まだお前を()でてやりたいが、これ以上はあやしまれるだろう」

 

 ナーベラルの唇から引き抜き、唾液にまみれたそれで顔を撫でてやる。

 

「はい……モモンガ様……♡」

(めでる――愛と書いて「め」と読む……御方から、愛されている……私が……)

 

 ぼうっとしたまま、頬ずりするナーベラル。

 彼女は浮足立ったまま蕩けている。

 わずかに残る痛みも、幸福感しかない。

 

「大丈夫か? 私の部屋……はまずいな。とりあえず宝物殿から出るか」

「あ……♡」

 

 手を取って立ち上がらされ……抱きかかえられる。

 お姫様だっこである。

 モモンガは、アルベドにされてこそいたが。

 モモンガにされた者は、ナザリックにもほとんどいまい。

 

「いいか、ナーベラル。お前は私の秘密の愛人だ。誰にも関係を教えてはならない。お前の姉妹にもだ。今後は、〈伝言(メッセージ)〉で連絡する。可能なら私の言う場所に来い」

「あいじん……しょ、承知いたしました! 身に余る光栄ですっ!」

 

 ナーベラルは歓喜のあまり、モモンガにしがみつく。

 最後にもう一度〈清潔(クリーン)〉と〈無臭(オーダレス)〉を唱えるモモンガ。

 メイド服が清められ、床にわずかにこぼれた痕跡も消える。

 周囲の香りがまた消えた。

 しかし。

 ナーベラルの中には、たっぷりと注がれたぬくもりが残っている。

 歩むごと、満たされた中が揺れる感覚。

 さらには、太腿を伝う生々しい感触――これが夢でないと示していた。

 

 

 

「……うまくいったようだな」

 

 浮かれたまま、ふらふらと立ち去ったナーベラルを見送り。

 時間差を稼ぐため、少し待つ。

 

(これで本当の意味で童貞喪失か……そう思うと感慨深いな。さて、これからはあいつで支配者ロールを練習していかねば。喜んでたみたいだし、アルベド様……いや、アルベドもああされたかったのか? 自身がされたいことをしただけだが……みんな、主人より奴隷になりたいのか? シャルティアやルプスレギナ、クレマンティーヌは喜んでやってるっぽいのにな。人によるのか。アルベドが私の主人になりたくないなら、がんばって私が主人にならないと……きっと、私が奴隷扱いされたがるのが嫌なのだろうし。でも私自身、元々は一介の社畜だぞ。ギルドでも仲裁役だったし……できれば奴隷扱いもされてたいよな。とりあえず、他にも試してみるか? でもユリは、やまいこさんの印象が強いんだよな。ペストーニャもだけど、女性メンバーが作った女性NPCって遠慮しちゃうんだよ……弐式炎雷さんは黒髪ポニテがーって騒いでただけだから、遠慮なくできたんだけどなぁ。アウラ、ユリ、ペストーニャあたりはひとまず外すか。マーレはどうだろ。男への欲求って感じないもんな……種族に引きずられても、そこまではいかないか。デミウルゴスに適当なサキュバスを連れて来てもらって、試してみるかなぁ。元がノーマルの子が、私に簡単に屈するなら、私自身も男に屈するかもしれないし……こわっ(汗)。そしたらアルベドもなのか……マーレに手出しして、アルベドと揃ってマーレに堕とされたりしたら、目も当てられない……やめとこ。外にもなるべく出ないぞ! アルベドも出さない! とりあえず、ナーベラルで支配者っぽいプレイを練習して、いやがる境界線の見極めと……アルベドの好きそうなプレイを見極めないとな。現状が命令されていやいや相手してるって言うなら、もっと喜んでしたくなるようにしなきゃ! ナザリックが私のために在るというなら、私がアルベドのために在る以上、ナザリックも全てアルベドのために在るんだから!)

 

 ふんす、と鼻息を噴き出して。

 決意も新たに、ご主人様ロールを磨く決意をしたモモンガ。

 本人に浮気しているという意識はない。

 

 なお、アルベドとしては「様」をあまり付けられなくなって、少し安心していた。

 




 恋人のため、ドSご主人様を目指す決意したクソマゾさん。
 踏み台に選ばれたメイド。
 というわけで、別の相手に自分のされたいプレイをガンガンやってみようとしてます。
 舞い上がってるナーベラルですが、あくまで練習台です。
 ご主人様ロールを鍛えて、アルベドさんで実践するつもり。
 もちろん、シャルティアやルプーやクレマンには、今後もいじめてもらうつもり満々です。

 強欲と無欲について、アルベドさんが提言した時には。
 「経験値目的で抱かれるなんてやだい!」って言ってたモモンガさんですが。
 本音では「お前なんか経験値しか価値ないんだよオラッ!」って言われながら、メタクソに犯されたがってました。
 でも、乙女心的に解釈したアルベドさんは「ですよね、変なこと言ってすみません」で終わっちゃいました。
 実は、モモンガさん的にはけっこう根に持ってる事案です。

 今回は原作にない呪文が複数出てますが、D&Dやパスファインダー準拠です……。

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