引退後にメスを入れる投手なんて聞いたことがない。ヤクルト・館山昌平投手(38)が21日、中日戦(神宮)で1人限定の先発マウンドに上がった。大島を外角低めへの144キロストレートで二ゴロ。17年のプロ人生に幕を下ろした。通算1000奪三振まであと2つ。小川監督は達成可能な出場機会も提示したが、館山は「全く気にしていない。三振はアウトの取り方の種類というだけ。1000ゴロアウトまであと2つ、とは言わないでしょう? 僕にとっては同じこと。辞める人間よりこれからの選手が投げるべきだと思う」と、引退登板は1人でいいと固辞した。
日大を経てドラフト3巡目で2003年にヤクルトに入団。2008年から5年連続2桁勝利を挙げるなど、17年間で279試合に登板し85勝68敗10セーブ。その野球人生はケガとの闘いで、3度の右肘の側副靱帯(じんたい)再建術(トミー・ジョン手術)や血行障害など、大学時代を含め9度の手術を受け、体には175針の縫い痕が残る。
「どんなケガにも負けなかった。1年間ケガなく投げたけど、力がなくなって夢の時間を閉じる。こんな幸せなことはない」。故障で道半ばで辞めるのではない。完全燃焼の充実感が、穏やかな表情にみなぎっていた。そんな現役を終えた館山がやりたいこととして挙げたのが、なっ、なんと10度目の手術とトレーニング。9月26日に右肘にメスを入れる。「これまでは投球のために、可動域に制限をかけていた。それを外して思い切りトレーニングをしたい。肘がどんな状態になっているか開いて見ることで、今後の医学の役に立てるかもしれない」。不撓(ふとう)不屈の男は、引退後も新たな闘いを始める。(竹村和佳子)