下村さん、安倍総理は本当に任期中に憲法改正できるんですか?

【平井文夫の聞かねばならぬ】

カテゴリ:国内

  • 自民党・憲法改正推進本部・下村本部長が憲法改正の現状を語る
  • なぜ国会の憲法審査会で議論ができないのか
  • 憲法9条「自衛隊明記」からでなく「教育」からでも議論を

安倍総理は、2020年に新憲法を施行したいと表明している。自民党は、自衛隊を明記するなどの改憲案をまとめているが、はたして憲法改正を実現できるのか。
自民党・憲法改正推進本部の下村博文本部長に、フジテレビの平井文夫解説委員が聞く。

なぜ憲法審査会は開かれない?

フジテレビ解説委員 平井文夫

平井文夫:
2017年5月に安倍総理が憲法9条の改正を明言しました。その時、「2020年までには新憲法を施行する」と、ある種期限を切りました。それを受けて、2018年3月に自民党が改憲4項目を決めました。
そこまではトントンときましたが、その後、国会内で与野党で話し合うという段階になっているにもかかわらず、ピタっと止まってしまった印象があります。2018年の国会で、憲法審査会はほとんど開かれなかった。なぜこのような異常な事態になってしまったのでしょうか?

下村博文:
本当に困ったことですよね。
国民の68%は憲法議論について期待をしているわけです。当然、憲法審査会で議論をすることに対しても期待をしているわけですが、「安倍政権のもとでは憲法議論はしない」と明言している野党がいくつかあります。国会で衆参の3分の2以上で発議できる政治勢力が、戦後初めて安倍政権のもとでできたということで、憲法審査会で議論されたら一気呵成に進むのではないかと恐れている勢力もあると思います。

自民党・下村博文 憲法改正推進本部長

憲法審査会は歴史的経緯があって、憲法調査会として、今から20年前に、世界中の、あるいは日本国内の憲法を調査しようということで、各会派がすべて賛同する中でスタートしました。
調査も10年やったから大体わかったねということで、後半の11年目から、憲法をそろそろ審査するところにきているのではないかと。護憲派も改憲派も、審査するのはいいだろうと。
審査も10年経ったから、今度は実際に改憲に向けた議論をしていこうと、次のステージに移った時に、すべての会派が賛成しなければ憲法審査会は開かれない。
つまり調査、審査をするというレベルならいいけれど、改憲に向けた議論については、抵抗感を持っている党もいくつかあって、そこの合意がないと、なかなか進められない。
憲法9条、自衛隊加憲明記という自民党総裁としての安倍総理の発言に対する相当な抵抗があって、いろいろな理由で憲法審査会が開かれなくて、今日に至ったという経緯があります。

下村氏の「職場放棄」発言の波紋

平井:
全会派が納得しないと開かれないとは、どこにも法律には書いていないですよね。あなた方政治家が勝手に決めているだけの話で、法律で定められているのは、3分の2あれば発議して、国民が過半数とれば変わるだけですよね。
そこに進めないどころか、去年の国会では、自民党がその改憲案を説明するというのに、説明もさせませんと。それを下村さんが「職場放棄だ」と言うと、辻元さんが、なんということを言うんだ、これで100年憲法議論ができませんと言ったんですよね。国会議員の本分を超えていると僕は思うんですよ。だって、憲法を変えるのは国会議員ではなくて国民ですよね。その我々に、憲法改正をやらせない国会議員という構図にしか国民には見えないんだけど。
ある意味、さぼっているのは野党じゃなくて自民党なんじゃないですか。そこは、民主主義は多数決なのだから、最後は多数決で決めますよと、他の委員会と同じようにやったら、なぜいけないんですか?

下村:
いや、いけないことはないけども、どこかでステージを変えなければならないでしょうね。そういう試みを実際、前臨時国会でもしたんですよ。
それは、まず憲法審査会において、メンバーが相当変わりましたから、新藤筆頭(幹事)のもとで幹事構成を変えていこうと。この時に、すべての政党の合意があったわけではなかったんですね。それをやったことに対して反発があって、結果的にその後、開かれなかったという経緯があります。
今まででの流れで言えば、ある程度、各党のコンセンサスを得てきた前提で開いてきたという部分があります。与党である公明党の協力・賛同を得ながら、野党の中でも、今回も実際5党の賛成はあったんですね。自民党、公明党、維新の党、希望の党、未来日本という会派の5つあったのですが、野党の主要勢力である立憲民主党と国民民主党、共産党、社民党の賛同が得られず、開いても一切参加しないと。

憲法は、国会ではあくまでも発議で、国民投票で過半数以上の賛成がなければ憲法改正できないわけです。
ですから、国民世論から、自民党、あるいは与党のやっていることが横暴だと見られれば、国民投票に影響を与えるということもトータル的に考えて、今までは憲法審査会の幹事のみなさんがそういう判断をしてきたのだと思います。

憲法9条からでなくてもいいの?

平井:
なかなか憲法論議が進まない中で、先日、下村さんが日本記者クラブの会見で話した「憲法9条以外のものの発議を先行させるかもしれない」の真意はどういうことなんでしょうか。例えば教育とか、そういうものを先に発議する場合、憲法9条を抜きにして国民投票をするかもしれないということなんでしょうか?

下村:
自民党は4つの条文イメージ案を作っています。「自衛隊の明記」というのは、私も憲法改正の一丁目一番地だと思います。同時に「緊急事態条項」、これは世界のすべての国に入っています。それから、「『合区』解消・地方公共団体の位置づけ」、「教育充実」。
自民党は、憲法審査会で、この4つの条文イメージ案を自由討議の中で出したいと思っています。同等です。優先順位はありません。4つを同時に出したいと。
憲法審査会が開かれ、なおかつ自由討議ができるという前提ですが、その時は各党がそれぞれの党の立場で、自民党の4項目の条文イメージ案について、批判的な発言も含めて自由に発言されても構いません。政党によっては、憲法裁判所を作るべきだとか、あるいは、臨時国会等の要求について政府が速やかに開くとか、最近はLGBTの議論なども出ていますが、それが各党から出された時に、その中で3分の2以上の集約ができるようなテーマから議論をしていくのがいいのではないかと思っています。
我々としては、4項目を同時にやってもらいたいけれども、他の党が、例えば「教育だったらいいよ」ということであれば、まずは各党が同意できるところから進められるのではないかということで申し上げました。

まず「教育」などから発議?

平井:
教育については、維新をはじめ多分、公明党もそうだと思うのですが、やってもいいよという雰囲気が出てくると思います。教育と緊急事態だけ先に国民投票をやるということもあり得るんですか?

下村:
あり得ると思いますね。あり得るというのは、教育について明確な反対論をすでに言っているところは、憲法に書かなくても法律で対処することができるのではないかということで、そもそも論として加憲すること自体に反対だというところはあまりないと思います。
自衛隊明記については、いろいろな意見があって、今までの背景経緯もありますから、今国会、一国会で発議までまとめ上げることを考えると、そう簡単に3分の2の条文イメージ案がまとまるテーマではないだろうと。
そうすると、ひとつひとつ4つを同時並行で議論していったとしても、他の緊急事態や教育なんかは割合早くまとまる可能性がある。まとまったとしたら、国会で3分の2で発議して、できたら180日以内に国民投票ということですから、同時に4つというよりは、1つとか2つとかいうことも議論の展開の中であると思います。

平井:
立憲なんかが反対している大きな理由は、「自民党ペース」「安倍首相ペース」の改憲だと。つまり、自民党が出してきた案だけが発議されて、自分たちの出した案はどうせ発議されないだろうということがありますよね。
例えば、憲法9条もやるけれども、立憲から、同姓婚を認めますというのを出してもらって、それも発議すると。いろいろそういうのを裏でやるのはありですか? 

下村:
ありですね。ですが、自民党の中で同性婚を憲法の中に明記することについて、実際に党内議論はしていませんが、どれくらい賛成するかというと、それはなかなか難しいですね。

党議拘束はかけるのか?

平井:
その場合は、党議拘束にかけるのですか?

下村:
相当難しい話ですね。

平井:
臓器移植の時にはかけなかったですよね。それに近いような感じもしますけれど。 

下村:
そうですね。臓器移植については、やはりそれぞれの宗教的な背景、思想信条の問題があって、党で拘束できるテーマではないと。死生観などにつながると。
ただ、自衛隊明記を含めたこの4項目については党議拘束をかけるかというと、かけます、これは。

平井:
かける…それは決定しているんですか?

下村:
決定はしていないけれど、自衛隊の明記はやっとまとめたものです。自民党は、平成24年、野党の時の憲法草案の中では、そもそも9条に加憲するという今回の条文イメージ案ではなくて、9条2項を削除して、国防軍、普通の国の軍隊とするということをまとめた経緯があります。いわゆる石破論というんですが。
この自衛隊の明記は、党内において相当議論してまとめられたものです。これを元に戻して、自由討議の中で、それぞれ勝手にバラバラに自分の意見を言ってもいいとか、党議拘束から外すということであれば、まとまらないです。
もちろん条文イメージ案ですから、国会で3分の2以上の発議のため、他党も含めてまとめたものを最終的に自民党に持ち帰ってきて、総務会等で、このように国会でまとめましたという党内了承は必要です。
党内了承を取るということは当然、党議拘束が前提ということです。逆に言えば、まず党内的な議論をきちんと固めて、党内でも大方は改正案に賛成だということでなかったら、発議に自民党の原案として出せないということになります。

石破さんが採決で「自衛隊明記」に反対したら?

平井:
では、例えば自衛隊に関して、石破さんが反対をしたら、これは党議拘束違反になるわけですね。

自民党・石破元幹事長

下村:
まず自民党の条文イメージ案は、まだ原案ではありません。これについて意見はあるかもしれませんが、自民党としてまとめましたよと。
この条文イメージ案に近いものが、もし国会で他党も含めて3分の2以上の発議となれば、それは党内は従ってもらわないと、3分の2いかない可能性もあります。やはり最終的には討議拘束をかけるということになってくると思います。

平井:
もし違反したら、離党勧告とかそういう?

下村:
まあ、まず3分の2にまとめることが相当なハードルだと思いますのでね。それの方が優先順位として前提だと思います。

安倍首相は任期中に憲法改正できるのか?

平井:
今後のスケジュールですが、ちょっと今国会での発議は難しいそうですが、安倍さんが2020年には施行と言っています。どんな感じで考えていますか?

安倍首相

下村:
イメージとしてはあるんですが、残念ながらそれを言えば言うほど、非協力的な勢力があって、ますます議論が進まないということがこれまでもありましたので、頭の中でのイメージはありますが、まだ申し上げられる時期ではないと思います。

平井:
2021年9月が安倍さんの総裁任期ですが、憲法9条を改正しないと安倍さんが総理をやった意味がないんじゃないかと思いますね。言い換えれば、これだけ長い間、長期政権でいろいろなことをやったのに、憲法9条を改正しないと、「なんで安倍さん、総理になったんですか」と言いたくなる人が多分いっぱいいると思うんですが?

下村:
もちろん憲法9条も、我々は2020年制定に向けて、ハードルはありますが、断念したわけではありません。ですから、今の前提条件については話すことはできません。
ただ、9条は一丁目一番地と言われるけれども、それだけが憲法改正ということではないわけです。だから4項目あるわけですよね。
安倍総理からしても、ベストは自衛隊明記ですが、他の部分でも、戦後73年、一度も憲法改正・修正できなかった国は、世界で見たら日本しかないわけですね。インドは103回、ドイツが62回、フランス27回、イタリア15回、一党独裁の中国でさえ10回、韓国9回。
これを考えると、本当に日本が法治国家なのか。本当に立憲主義国家なのか。国民主権の国なのかということを考えたら、9条ができなかったら実績があったとは言えないというふうにはならない。安倍内閣のもとで憲法改正ができたということ自体が大変な実績だと思います。

平井:
総理もどこかで決断するタイミングがあると思いますが、下村さんは横で見ていて、9条に限らず憲法改正やると思いますか?

下村:
もちろん誰以上に情熱は強いでしょう。行政の長としての内閣総理大臣という立場でなくあえてと言いながら、自民党の総裁という立場で、憲法改正、自衛隊明記の問題を相当発言されますよね。思いは非常にあると思いますね。

衆参ダブル選挙は?

平井:
最近、甘利さんとかダブルみたいなことを時々おっしゃるんですけれども、参院選の情勢とかを含めて衆参ダブル選挙の可能性について、下村さんはどんな感触を持っていらっしゃいますか?

下村:
これは総理の専権事項なので、私がそもそも言う立場ではありませんけれども、今現在の空気としては、あるという感じは、自分自身の皮膚感覚としてはあまり感じられませんね。
ただ、政治の世界は良くも悪くも一寸先は闇だし、これから北方領土の問題とか、北朝鮮とアメリカとの首脳会談とか、朝鮮半島の情勢とか、いろいろな変数がありますから、その結果、6月ぐらいになってみないとわからないというところだと思います。最終的には総理の判断なので、ちょっとこれ以上はコメントできません。

「ポスト安倍」は?

平井:
実はポスト安倍がとても心配で、いま自民党が強いと言っている人がいますが、それは安倍さんが強いのであって、安倍さんの後、自民党はどうするつもりなんでしょうか?

下村:
今現在、内閣支持率も、不支持率の高い部分はあるけれども、これだけ長期政権で支持率の方が高まっているというのは、それだけ国民のみなさんも評価されているのだと思います。
私自身は、とりあえず残りの任期3年弱ですが、ポスト安倍の後の安倍もあり得るんじゃないかと

平井:
4選ということですか?

下村:
そうですね。

交通遺児としての思い

平井:
下村さんは小学生の時にお父さまを亡くされて、苦労して奨学金で大学へ行きました。お母さまも苦労されたと思うのですが、当時はやはり大変でしたか。

下村:
そうですね。父が交通事故で亡くなり、当時私は9歳、小学3年生で、母が32歳で、下の弟が5歳と1歳でした。その時は群馬の田舎で暮らしていました。地方ではごく平凡な家だったんですが、保険にも入っていませんでしたから、突然、貧乏のどん底になったんですね。ただ、当時の日本人はみんなそうだったと思いますが、うちの母は、生活保護を受けるより、とにかく自分で働いて、病気になって仕事ができなくなったら、その時に生活保護を受けようと。パートの仕事を探してきて、田舎で自分たちで食べるくらいを作れる田んぼや畑はありましたから、私も小学生の頃から農作業を手伝ってました。
当時は交通戦争と言われた時代で、毎年3万人くらいが交通事故で亡くなったんですね。私は、交通遺児育英会、今のあしなが育英会の第1期生なんですが、今あしなが育英会は11万人の遺児がいるんです。交通遺児はすごく減ったのですが、一番多いのは自死遺児、自殺遺児。あとは、病気遺児や災害遺児。東日本大震災の時だけでも2000人の遺児が生まれているんですね。

どこの家庭でも、ある日突然そうやって人生が暗転することがあるかもしれない。その時に「運が悪いから、あきらめろ」ということであってはならない。
遺児だけではありません。いま大体3組に1組くらいは離婚していますから、両親はいるけれども実質的にひとり親家庭の子どもも相当いるわけです。ひとり親家庭の平均収入は、貧困家庭が6割くらいです。
家が貧しいから高校・大学に進学できない。親の経済的格差が子どもの学力格差につながって、未来に対する可能性をつぶしていくのは、その子どもにとって不幸です。日本社会にとっても、日本の将来におけるチャンスや可能性がすごく減ってしまう。
日本はこれまで教育は、家計、親が負担するものという考え方でしたが、社会全体でサポートすることが必要になってきているのではないでしょうか。

平井:
それを掲げて総裁選に出たらどうですか。

下村:
自分が総裁選云々は別にして、そういうビジョンをぜひ作りたいと思うし、今の貧困家庭の子どもをどう救うかということと同時に、これからAIが人の仕事を奪っていった時に、今のような学校教育では、10年後には半分が失業する。教育力が必要なんですね。
73年前の憲法26条の教育というのは、すべての国民の子どもに教育を受けさせる義務がある、だから義務教育は無償にすると。でも、今の時代状況では、憲法に義務だとか書かなくても、普通の子どもは少なくとも小学・中学校は行かせます。もっと高等教育を受けさせたいと思っているわけです。73年前の教育の憲法条文とこれからのことを考えたら、当然、加憲をするのは必要だと思っている。
これは私自身も提案して、4項目の中の1つに入ったのですが、そういう意味での教育立国が大変重要な時代になってきていると思います。

統一地方選で憲法議論を

平井:
教育を含めた憲法改正4項目の憲法審査会での説明くらいはしてもいいんじゃないかと思いますが、今国会ではどうでしょうか?

下村:
そうですね。今国会でぜひやりたいですね。
4月に統一地方選挙があるでしょう。それから、7月に参議院選挙がありますよね。ですから、(憲法改正の)チラシも10万枚作ったんです。2月10日に党大会があって、その前日の9日に都道府県の憲法改正推進本部の責任者に集まってもらったんですね。
憲法を語るということは、国会議員だけの専売特許ではなくて、統一地方選選挙に立候補する人でもしっかりとした国家観を持って国のかたちを語れる、それから同時に地方自治体のあるべき形も語れる。そういうことが、有権者にとっては期待感に繋がる。
憲法議論をすることが、きちんとした政治家として期待されるということを、ぜひ統一地方選挙等で盛り上げながら、逆に憲法議論をしない人に本当に託せるんですかと国民の皆さんに思ってもらえるような流れを作っていきたいと思います。 

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