3 学習障害児等に対する指導についての基本的な考え方 学習障害は、他の障害から二次的に生じる学習上の困難を含むものではない。しか し、精神薄弱児や情緒障害児の中には、その障害の状態が、学習障害と部分的に同様 の状態を示す場合があり、境界線児(知的にやや遅れはあるが、精神薄弱児ではない 児童生徒。以下同じ。)の中にも、同様の状態を示す場合があることが指摘されてい る。これらの児童生徒に見られる状態と学習障害の状態との違いは、種々の検査や観 察の結果を総合的に分析することによって明らかにすることができるが、ごく軽度の 精神薄弱児や情緒障害児、境界線児の示す学習上のつまずきや困難、行動上の問題と、 学習障害の示す状態との限界を、どのように画するかについての判断が難しい場合も ある。 また、障害の状態は連続していることから、障害のない状態とごく軽度の学習障害 の状態との違いの判断がつきにくい場合もある。 したがって、学習上のつまずきや困難、行動上の問題が見られる児童生徒に対する 教育的対応については、学習障害だけでなく、学習障害に類似する学習上の困難も含 めて検討することが適当と考えられることから、以下の項においては、学習障害及び これに類似する学習上の困難を有する児童生徒(以下「学習障害児等」という。)を 対象としていくこととする。 (1) 個に応じた指導の一層の充実 学習障害児等に対しては、学習上の様々なつまずきや困難を克服させるために、読 み・書き・計算などに必要な基礎的技能等を高め、学力を身に付けさせるとともに、 自信の喪失などからくる情緒的な問題や不適応行動の改善を図るための指導を適切に 行うことが必要である。その際、学習障害児等の示す特性や問題点は様々であり、一 人一人の実態が大きく異なっていることから、その指導に当たっては、個に応じた指 導を一層充実することが重要である。なお、ここで言う個に応じた指導の一層の充実 とは、教師が児童生徒と1対1で指導を行う個別指導だけを意味するものではなく、 個別の指導計画等を作成した上で、集団指導の場面で当該児童生徒に個別に指導・助 言を行ったり、教材・教具の工夫を行ったりするなどの個別の指導上の配慮も含むも のである。 (2) 指導の形態と場 学習障害児等に生じている学習上のつまずきや困難、行動上の問題は様々であり、 したがって、これらの困難や問題の改善を図る指導に当たっては、個々の児童生徒の 実態により適切に対応するため、指導の形態や場を工夫することも重要となる。 学習障害児等の多くは、通常の学級に在籍していると言われているが、これらの児 童生徒に対する指導は、通常の学級における指導を基本に対応していくことが大切で ある。 一般に、通常の学級の指導は、一斉指導の形態が中心になる場合が少なくないが、 学習障害児等の中にも、こうした通常の学級の指導において、個々の児童生徒の特性 等を考慮した指導を行うことによって、効果をあげることができる者も見られる。こ のため、このような児童生徒に対しては、通常の学級において個別に配慮を行ったり、 ティームティーチングによる指導を行ったりするなど、個に応じた指導を一層適切に 行うよう工夫する必要がある。 一方、学習障害児等の中には、通常の学級における指導の工夫だけでは十分な効果 を期待できない児童生徒も存在すると考えられることから、本調査研究協力者会議と しては、学習障害児等に対する適切な指導の形態や場について、今後更に検討を重ね る必要があると考える。 その際、学習障害の障害の状態は、ごく軽度のものから他の障害と重複しているも のまで多様であることから、その障害の状態に応じた、通常の学級、通級による指導、 特殊学級、養護学校など、多様な場での対応の必要性について検討することが適当で ある。