招待見送りは代償も伴った。韓国は16年7月に国際競馬統括機関連盟(IFHA)のパート2国に昇格。今年は両国際競走が国際G3の格付けを認められる予定だった。だが、格付けの基準となるRTを下支えしてきた日本馬が不在のため、格付けは取り消し。KRAは関係者への通知に追われた。また、8月16日にユ団長自らが来日し、日本中央競馬会(JRA)などの関係者に事情を説明し、「申し訳ない」との意思も伝えたという。
では、現地のファンは今回の件をどう受け止めていたか。韓国では有料メールで顧客に予想を配信するフリー予想家が多いが、その一人は「スプリントの後、観客や他の予想家の間で『これは何だ』という反応が多かった」と話す。最高着順が8着(ハートウッド=米国)という外国勢の不振に、失望感を示す人が多かったというのだ。
目の肥えたファンほど、自国の馬の競争力をよく知っていて、国際レースに「強い馬が競う、競馬らしい競馬を見たい」と期待しているという。カップ連覇のロンドンタウンについては、「顧客から『日本でどの程度のレベルなのか』という質問を受けた」とも。
一方で、「(日本馬招待見送りは)仕方なかった」という意見も、関係者の間では多かった。背景には、韓国内でそもそも競馬への風当たりが強い事情がある。韓国で競馬が始まったのは、日本の植民地統治時代の1920年代前半。ギャンブルへの否定的な世論が強い中で、財政資金確保の手段として命脈をつないで来たのは日本と同じだが、儒教の影響のためか反ギャンブルの雰囲気は日本より強く、競馬はずっと矢面に立たされてきた。
メディアの扱いにも大差があり、地上波テレビの中継はなく、スポーツ紙にも常駐の記者はいない。日本では早くからテレビで中継され、70年代前半にハイセイコーが現れると、電波に乗って国民的アイドルになれた。だが、韓国では同様の環境が整うことはなかった。個人馬主制導入は93年で、それまではKRAが競走馬を保有していた。競争が働かないため、馬の資質面でも後れを取り、今も単なるギャンブルとして認識されがちだ。
メディアの冷遇ゆえにイメージが改善せず、不祥事でもあればたたかれる。この悪循環から抜け出せず、しかも類似業種の中でも、規模が大きい分、スケープゴートになりやすい。昨年は売り上げが前年比3.4%減で、政府の経営評価がC(普通)からD(不十分)に落ちた。これとて、ネット投票や場外発売所増設が世論の反対で進まないためだが、10月に行われる国会の監査を前に、「下手な目立ち方はできない」と身構えていた。
日本馬の招待見送りの決断は、こうした流れの中で下された。日本で広がる「反日で噴き上がる韓国」という一般的な認識とは全く異なる、競馬界固有の文脈を抜きに語れない。
■主催が国際団体か国内団体かで明暗
今回の一件は、競馬の国際化が抱える弱点も映し出した。「国際」レースといっても、特定の国の競馬施行者が主催しているのだ。日韓対立が激化した後も、光州市で世界水泳選手権、釜山市では野球のU-18(18歳以下)ワールドカップが開かれ、日本も参加した。両大会と競馬の差は、主催が国際競技連盟か、KRAという国内の団体かの差である。
ブリーダーズカップやドバイ国際競走も、主催はIFHAではなく、米国やアラブ首長国連邦(UAE)の競馬施行者だから、特定国との関係が悪化すれば、似た問題は起こりうる。実際、サウジアラビアとイランの対立の余波で、カタールとUAEは17年6月に断交。ここ2回のドバイ国際競走にカタール馬は出走していない。
国際競技団体主催の大会なら、相当に厳しい条件を満たさない限り、特定国の排除はできない。だが、競馬は賭けを伴うのが通常で、一般のスポーツよりも政府の統制に左右されがちだ。今回の韓国の事例も、こうした脆弱さが現れたといえる。KRAのユ団長は「来年は必ず正常に施行する」と述べたが、日韓の対立は現状では出口が見えない。解決はともかく、国際競走ができる程度に事態が沈静化するかどうか、誰も予断はできない。
(野元賢一)
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