最終更新:2015/12/28

tan1°が無理数であることの証明

分野: 難問・良問  レベル: 最難関大学

tan1 は有理数か?

超有名な問題です。2006年度京大の入試問題です。ほとんどの受験生が解けなかったとの噂がある難問です。

有理数であることか無理数であることを証明せねばなりません。2つの方針のうち一方しかうまくいかないので,この手の問題でどちらの道を選ぶかは自分の直感に頼らざるを得ません。

実は無理数であることを証明するのがうまくいきます。
直感が優れている人は tan1 は汚そうな数なので無理数だろうと当たりをつけますが,直感が外れた人は,二倍の時間がかかってしまいます。

tan1 が無理数であることの証明

方針:無理数性の証明は背理法を使うと分かりやすい場合が多いです。つまり,有理数であることを仮定して矛盾を示します。 tan1 が有理数であれば加法定理を用いてそこから他の数が有理数であることも導けます。

証明

tan1 が有理数であると仮定して矛盾を導く。
tan の倍角公式より tanα が有理数なら tan2α も有理数である。
よって,tan2,tan4,,tan64 も全て有理数であることが分かる。
また,tan の加法定理:
tan(αβ)=tanαtanβ1+tanαtanβ
より tanα,tanβ が有理数なら tan(αβ) も有理数。
よって 644=60 なので tan60 も有理数。
しかし tan60=3 なので矛盾。

厳密には 3 が無理数であることも証明するべきでしょう。

cos1 が無理数であることの証明

ついでに sin1cos1 が無理数であることも証明してみます。

tan1 と似たような手法で証明したいのですが,sincos の加法定理は sincos が入り乱れていて片方だけを取り扱うのは難しいです。

cos だけ」または「 sin だけ」の式を探す必要があります。 cos の倍角公式や三倍角の公式は cos だけの式なのでうまくいきそうですが,それだけでは行き詰まります。
ここで思い浮かんで欲しいのが倍角公式を発展させたチェビシェフ多項式です。→チェビシェフ多項式

cosnθcosθn 次式で表せるという事実に気がつけば cos の方の証明は簡単です。

cos1 が無理数であることの証明

cos1 が有理数であると仮定すると,
cos30cos1 の整数係数の 30 次式で表されるので有理数。
これは cos30=32 が無理数であることに矛盾。

sin1 が無理数であることの証明

最後は sin です。 sincos は本質的に同じものなので片方できたらそれに似た方法でもう片方もできます。

sin1 が無理数であることの証明

sin1 が有理数であると仮定すると,cos89 も有理数。
よって,チェビシェフ多項式の理論から任意の自然数 n に対して cos89n も有理数。
あとはうまく n を選んで矛盾を導けば良い。
とりあえず小さな n で実験してみると規則性が見えてくる。
n=5 とすると cos(895)=cos85
n=9 とすると cos(899)=cos81
どんどん増やしていくと
n=45cos(8945)=cos45
も有理数であることが導けるが,これは 22 が無理数であることに矛盾。

問題文が最も短い入試問題として有名です。

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