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「Yahoo! BB ADSL」も新規受付を終了、2月末で

最大8Mbps・月額2280円のインパクトで、日本のブロードバンド“加速”させた立役者

涙のバナーを掲げる「Yahoo! BB」公式サイト。このタイミングで見ると、受付終了の涙のように見えてしまうが、実際は、このサービスが「安くておトク」「超安い!!」ことを表現するうれし涙?

 ソフトバンク株式会社は、「Yahoo! BB ADSL」などの各種ADSLサービスについて、新規契約の受付を2月28日で終了することを発表した。その理由として同社では、光ファイバー回線によるインターネット接続サービス「ソフトバンク光」のサービスエリアが拡大したことを挙げている。

 ソフトバンクによると、ADSLサービス自体の提供を終了する時期については未定。Yahoo! BBは2018年9月末現在、92.6万回線の契約があるが、当面は利用できるため、今のところ、既存の加入者に対して回線の移行を促すような措置は行っていないとしている。

ソフトバンク株式会社が1月15日付で掲載したお知らせ

 国内の大手ADSLサービスとしては、Yahoo! BBのほかに、NTT東西の「フレッツ・ADSL」があるが、一部地域を除き、すでに2016年6月末で新規受付を終了、さらにサービスの提供も2023年1月末に終了することが発表されている。

ADSLとは? 日本初の商用サービスは、1999年に長野でスタート

 ADSLとは、「Asymmetric Digital Subscriber Line(非対称デジタル加入者線)」の略称で、アナログ電話回線を用いた通信技術。光ファイバーなどの新たな回線を敷設しなくても、既存のアナログの電話回線で数十Mbpsの通信サービスを提供できるのが特徴だ。

 家庭や事業所の電話は、それぞれ交換機と2本の銅線でつながれており、この同線は主にアナログの音声通話に利用されてきた。しかし、この銅線には、通話のために使う周波数帯以外にも、たくさんの情報が送れる“空き”周波数帯があり、これをデータ通信に利用する技術がADSLだ。

 日本では1999年9月、国内初となる商用ADSLサービスが長野市においてスタート。これは、農山村地域などで運営されている「有線放送電話」の回線を使用したサービスだったが、その後、全国のNTTの公衆電話回線を利用するADSLサービスもスタート。1999年末から2000年にかけて、東京めたりっく通信、イー・アクセス、アッカ・ネットワークスといったADSL専門事業者のサービスや、NTT東西のフレッツ・ADSLの提供が始まった。当時としては高速なインターネット接続サービスを定額料金制の常時接続で利用できるということで、家庭向けのインターネット接続回線としてADSLは非常に魅力的なサービスとなった。

2001年夏、「Yahoo! BB」の登場で、ADSLは一気に高速・低価格化

 ソフトバンクとヤフーがADSLサービスへの参入を発表したのは、2001年6月。前述のように各社がすでにADSLサービスを提供していたあとだったが、Yahoo! BBのサービス内容は他社を圧倒していた。

 他社の通信速度は下りが最大1.5Mbpsだったが、Yahoo! BBは下り最大8Mbps。さらに料金も安く、他社は月額5000円から6000円程度だったのに対し、Yahoo! BBは月額2280円とした(ADSLモデムなどのレンタル料は別途必要)。そののち、他社もこれに追随し、8Mbpsへの増速と値下げを行った。

従来の3分の1の料金で50~100倍の通信速度が得られる「Yahoo! BB」の登場で、「もはや、ナローバンドに止まるべき理由はない」と孫正義社長。唯一考えられるデメリットは「月500円程度しか使わないライトユーザーにとっては高くなってしまうこと」だとか(2001年6月20日付記事より)
動画配信のデモを行う、ヤフーの井上雅博社長(当時)。記者会見が行われたホテルの会場には、実際に既存のアナログ電話回線を使ったADSL回線を用意。スループットは6Mpbsに達しているとしており、3Mbpsでエンコードされた動画を再生してみせた(2001年6月20日付記事より)

街頭で“パラソル隊”がADSLモデムを配り、「ブロードバンド」が浸透

 また、当時はなじみが薄かった「ブロードバンド」という言葉を浸透させのはYahoo! BBだと言える。2001年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」のトップテンに「ブロードバンド」が入賞。ソフトバンクの孫正義社長が受賞したほどだ。

 Yahoo! BBの販促方法も他社とは異なっていた。それは、“パラソル隊”によるADSLモデムの配布だ。

 街頭でYahoo! BBのロゴが入ったビーチパラソルを広げて宣伝と契約の受付を行っていたため、そのように呼ばれるようになった。街で広げられたこのパラソルは非常に目立つ。駅前にはどこもパラソル隊がいるという時期もあったほどだ。さらに、このパラソル隊でYahoo! BBを契約すると、その場でADSLモデムを渡していたことも他社とは異なっていた。

 Yahoo! BBが他社のADSLサービスに勝っていたのは、設定が全く必要ないということもある。他社のADSLモデムは、ユーザーや取り付け業者が接続先のプロバイダーやID・パスワードを設定する必要があった。しかし、Yahoo! BBはそのような設定は不要。NTT電話局側の工事が終わり、持ち帰ったADSLモデムを家のモジュラージャックに接続するとインターネットにつながった。

 こうして一気に契約者を集めたYahoo! BBだが、サービス開始当初は申し込みが殺到し、開通まで数カ月かかるような事態も起こった。さらに2004年には、450万件の顧客情報流出事故も起きた。

 このようなトラブルがあったが、Yahoo! BBは2007年3月末に契約数のピークを迎え、516.7万回線を有するサービスとなった。

Yahoo! BB顧客情報流出に関する謝罪会見(2004年2月27日付記事より)

ブロードバンドはADSLから光ファイバーにバトンタッチ、そしてモバイルの時代へ

 Yahoo! BBを含むADSLサービスはその後、段階的に最大通信速度が下り50Mbps程度まで高速化が図られた。しかし、ADSLは銅線を使っているため、回線が長くなると信号が弱くなったり、ノイズが混入したりするため、これ以上の増速は見込めなかった。

 このようにADSLの高速化にも限界が見えてきたころ、光ファイバー回線(FTTH)が契約数を伸ばしていった。Yahoo! BBがピークを迎えた2007年は、すでにNTTが最大100Mbps(1Gbpsを複数加入者で共有)のサービスを提供。KDDIやケイ・オプティコムなどもFTTHサービスを提供しており、ISP料金も含めると月額7000円程度で利用できた。

 さらに、2006年3月にはソフトバンクとヤフーがボーダフォン日本法人の買収を発表。Yahoo! BBの加入者がピークを迎える1年前のことだ。このころからソフトバンクの通信事業の主力は、ADSLなどの固定通信から移動通信に大きく舵を切った。

 移動通信に力を入れ始めた結果、ソフトバンクは2011年2月、HSPA+とDC-HSDPAを用いた最大42Mbpsのモバイル通信サービス「ULTRA SPEED」を開始した。Yahoo! BBが最大50Mbps程度だったため、ソフトバンクが提供しているADSLとモバイル通信の速度が縮まった。

 決定的だったのは、2012年に開始した最大75Mbpsの「SoftBank 4G LTE」。理論上ではあるが、無線通信の最大速度がADSLを抜いた。現在では「Hybrid 4G LTE」にて、光ファイバー回線サービス並みのおおよそ1Gbpsの接続サービスを提供している。

ソフトバンクが提供している現行のADSLサービス

 2月末で新規受付を終了するのは、ソフトバンクが提供する全てのADSL接続サービス。具体的には「Yahoo!BB ADSL」「Yahoo!BB バリュープラン」などがある。通信速度や電話加入権の有無などにより料金が異なるが、以下、代表的なプランを挙げる(料金はいずれも、電話加入権を保有している場合の、NTT東日本エリアでの料金)。このほか、より安価な、最大8Mbpsや最大12Mbpsのプランも、今もラインアップされている。

  • Yahoo!BB ADSL(50M)
    通信速度:最大50Mbps
    利用料金:月額4178円(税別)
  • Yahoo!BB バリュープラン(50M)
    通信速度:最大50Mbps
    利用料金:月額2564円(税別)
    ※2年単位の契約。それ以外のタイミングで解約すると9500円が必要