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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

10章 失った力と新たな力

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172 魔術ギルド長 オルフォード

 装飾の施された部屋を出れば、煌びやかな廊下が一直戦に伸びていた。

「ここも凄いな。きっとここが魔術ギルドなのだろう。この先から強い魔力を感じるから、行ってみよう」

 廊下は順路になっていて、進んだ先には、魔術ギルドが存在していた。

 俺達が廊下を抜けると正面に小さな受付が存在していて、その後ろには上に行く階段と下に行く階段が見えていた。

「こうなっているのか。まずは受付に行こう」

「「はい」」

 二人と共に正面にいる受付嬢に話しかける。


「聖シュルール協和国から参りました、治癒士のルシエルと従者二名です。教皇様から魔術ギルド長へ、手紙を預かってきているのですが、お取次ぎいただけますか?」

「畏まりました。少々お待ちください」

 受付嬢はそう言って魔通玉で連絡を取り始めた。

 会話が終わるまで辺りを眺めていると、実は案内標識のプレートがいくつも垂れ下がっていることに気がついた。

 これなら見取り図があれば、迷子にはならないだろうな。

 そんなことを考えていると、受付嬢は会話を終わらせた。

「お待たせいたしました。もう直ぐ担当の者が参りますので、少々お待ちくださいませ」

「そうですか。ありがとうございます。ところで質問なのですが、この魔術ギルドの間取り図と、ネルダールの全体図を把握出来る地図などは、ありますでしょうか?」

「はい。ありますが、販売になりますが、宜しいですか?」

 これだけの施設を維持しているのだから、維持費も相当掛かるのだろうか?

 だからこういう形式で入館料みたいなもの取るのかも知れないな。

 納得したところで、料金を聞くことにした。

「ええ。おいくらですか?」

「ネルダール全体が分かる地図は金貨10枚、魔術ギルドの内観は金貨五枚です」

 日本円換算だと一千五百万……まぁ払えるけど、それにしても高い。

 その普通では買わないような金額を提示してくる辺りで、これが何かのテストのように感じた。

「……それでは、こちらを」

 だから少しだけ間を空けて、金貨十五枚を払うことにした。

 そその行動に驚いたのは受付嬢だった。

 まさかその金額のものを買う人が居るとは、思ってもみなかったのだろう。

 だけど、だからこそ、買ったら何か特典があるのではないか? そんなことを想像して期待したりする。

「……宜しいのですか?」

「ええ。少しの間、滞在することになると思いますが、それを考えた場合、地図がないと迷子になりそうですから」

 恐る恐る聞いてきたので、笑顔でそう答えると、何処か安心した様子で、一冊のハードカバーの本と一冊の冊子を渡された。

「こちらがネルダールの全体が分かるようなっているもので、こちらが魔術ギルドの地図兼魔導書庫へのフリーパスになります」

 薄い地図かパンフレットを想像していたのだが、全然違った。

 軽く流すように見ると、各施設の正しい使い方や、何故その施設が出来たのかなど、事細かに記載されているようだった。

 魔術ギルドの冊子はレジャー施設によくありそうなパンフレットだったのだが、気になる発言があった。

「魔導書庫のフリーパス?」

「はい。この魔術ギルドへ訪れて、ギルドの案内図を買う方は殆ど居りません。しかしそれでは面白みに欠けるので、特典が御用意されているのです」

「それが魔導書庫のフリーパス?」

「はい。魔導書庫への入場券は内部で販売されていますが、一日金貨十枚になっていますので、こちらに長くいらっしゃるのであれば、大変お得になっています」

「……そうなのですか。それを考えたのは?」

「このネルダールの創設者と魔術ギルドの当時の長ですね」

 もう何も聞く気にはなれなかった。

 それを察してくれたかのように、階段を昇ってくる音が聞こえてきた。

 それから間もなく女性が現れたのだが、その容姿を見て驚いた。

 階段を駆け上がってきた容姿が、受付嬢と瓜二つなのだ。

 双子? そう思っていると、直ぐに真実が分かった。

「お待たせしましたギルド長、お客様ですよね? って、何で私に化けているのですか!!」

 女性は同じ顔の受付嬢を見て一瞬驚いたように見えたが、次の瞬間怒リ出した。


「ふぉふぉふぉ。聖都の教皇様からの依頼じゃったのでな。さて諸君、儂が魔術ギルドマスターのオルフォードじゃ。ここでは何だから部屋へ案内しよう」

 そう言って立ち上がる受付嬢だったが、女性が身体をワナワナと震えさせて声を張り上げる

「そんなことより、私に変身したままは止めてください」

「仕方ないのぉ、解ッ!!」

 次の瞬間、白い煙がオルフォードさんを包み込むと直ぐに煙が消えた。しかし現れたのは受付嬢ではなく、青をくすませたローブに身に纏い、白髪で長い白ヒゲを蓄えた好々爺の姿だった。

 今の姿を変える魔法は以前、俺が強く望んだものだった。

「……あの、今の魔法は何属性魔法なんでしょうか?」

 だから聞かずにはいられなかった。


「水属性と火属性を重ね合わせて混合魔法じゃよ。さて行こうかのぉ」

 よく小説に出てくるようなその姿は伊達ではないということだろう。

 この人に師事を受ければ、聖属性魔法も戻るかもしれない。

 そう思いながら、階段を上へと昇っていくギルドマスターを追った。


 階段を昇り始めてからは煌びやかな印象がガラッと変わり、何処か洗練された感じの別の建物にでも入ったような気分になった。

「ここが儂の部屋じゃ」

 俺達は案内されるがまま、ギルドマスターの部屋に入る。

 すると直ぐに応接セットが合ったので、ここで話すと思っていたのだが、そこを素通りして鏡の前に立ち止まる……ことはなく、鏡に吸い込まれていってしまった。

「はっ? 消えた?」

「「消えました!?」」

 俺達が唖然として表情でいると、鏡の中からオルフォードさんが出てくる。

「ふぉふぉふぉ、驚いたか? これは魔法の鏡で、魔力認証した者とその許可を得た者しか入ることの出来ない、特別な鏡なのだ」

「……もしかして戻ってきたのは、許可をし忘れていたからですか?」

「……ふぉっふぉっふぉ。細かいことはいいからついて来るのだ」

 そういい残して鏡の中に消えていった。


「完全に忘れていたな」

「ご高齢の方なのですから、物忘れの一つや二つはありますよ」

「イタズラ好きかも知れませんが、悪意は感じませんでしたよ」

 二人はご高齢には優しいみたいだが、オルフォードさんはきっと……。

 全てにおいて試されている気がしてきたが、一度呼吸してから鏡の中へ向かうことした。

「……じゃあついて行こうか」

 俺は鏡に触ると、腕が中に吸い込まれていく。そのままゆっくりと鏡の中へと進入して行くと、出た場所は同じくギルドマスターの部屋だった。

「此処は?」

「こちらが本当のギルドマスターの部屋じゃ。あっちは偽者(フェイク)じゃ、たまに無断で入る輩がいるのでな。さぁこちらの席へ来て寛ぐと良い」

 二人も直ぐに追って来たところで、イスを勧めてくれた。

「ありがとう御座います」

 ナディアとリディアが席の後ろに立とうとしたが、一緒に席についてもらうことにした。


「改めてご挨拶させていただきます。治癒士ギルドSランク治癒士ルシエルです。今回はお時間を作っていただき感謝致します」

「ふむ。固いのぉ~、もう少しリラックスしないといかんぞ」

 好々爺のような顔をして、 その全てを見通す目に心の焦りを(たしな)められた気がした。

「……ありがとうございます。こちらが教皇様から預かってきた手紙です」

「ふむ。その前に紅茶はいかがかな?」

「……いただきます」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。暫し待たれよ」

 少し焦らされている感じはするが、それ以上に俺は何故か焦っているように感じていた。

 この原因が早急に聖属性魔法を取り戻したいからなのか、それともジョブが治癒士でなくなったからなのか、分からないでいた。

 笑顔を絶やさないオルフォードさんが一旦席を立つと、紅茶を淹れに行った。

 それを見計らってリディアが声を掛けてきた。

「……あの全てを見透かそうとする目は、鑑定スキルかも知れませんね」

「確かにその可能性はあるかも知れないわ」

 ナディアがそれに応じるが、俺はそれを否定する。

「鑑定スキルだったら、俺が会ったことがある三人目の人物だな。まぁ俺は鑑定ではなくて、もっと他の……その人の本質を覗くような印象を受けた」

「本質ですか?」

「ああ。この魔術ギルドに来てから試されている気がしているんだ。それに自分が焦っていることが、分かるようになってきている……そういう風に誘導してくれている気がしているんだ」

「なるほど。さすが魔術ギルド本部の長ですね」

「その結論に至れたってことはルシエル様も落ち着かれてきたってことですね」

「そうかもしれないな」

 二人と話をしてきて落ち着いてきたところで、オルフォードさんが紅茶を運んできてくれた。

「待たせてしまったかの?」

「いえ、おかげさまで落ち着くことが出来ました」

「ふむ。それでは手紙を読むから、紅茶を飲んでいてくれ」

「はい」

 紅茶を受け取ってから、教皇様から受け取った手紙を渡した。

 オルフォードさんが手紙を読み始めたので、折角なので紅茶を飲むと香りが凄く良く、大変美味しいと思えるものだった。

 どうやら二人も同じように感じていたようだったので、相当な腕前なのだろう。

 ただ少しだけ甘みが欲しいと感じた俺は、真剣に手紙を読むオルフォードさんが気にならないように、ハチミツの小瓶を取り出して入れた。

 姉妹はそれを見ていたので、少しずつ入れてあげた。二人が口に含んだ瞬間、とても幸せそうな顔になっていくので、どうやら紅茶にハチミツは受け入れられたことに安堵した。

 そしてハチミツをしまおうとすると、オルフォードさんと目が合った。


「……それはもしかして、ハチミツではないか?」

「ええ。良ければどうぞ」

 俺は小瓶ごと渡した。

「間違いないのじゃ。これをどこで?」

「工場です。それで、教皇様はなんと?」

「治癒士と聖属性魔法の喪失……属性は失っていないから、何か治す手立てがあれば、力になって欲しいと頼まれた。他にも少しな」

「……そうですか。どうか力をお貸しください」

「条件がある」

「無理でないことなら、全て受けます」

「……ハチミツが大量に欲しい。そうすれば力になろう」

「それなら大丈夫です。もし再び聖属性魔法が使えるようになった暁には、ハチミツ酒も贈らせていただきます」

「な、なんじゃと。こうしては居られん。直ぐに魔導書庫へ急ぐぞ。きっと直ぐに聖属性魔法を取り戻してやるからな」

「……はい」

 物に釣られるとか、魔術ギルドは大丈夫なのだろうか?

 少し不安になりながらも、聖属性魔法を取り戻すための、強力な助っ人が味方になったことに感謝して、紅茶を飲み干してから魔導書庫へ向かうのだった。





お読みいただきありがとうございます。

i349488
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