アフターストーリー
本日、この作品とは別に投稿していた『監獄勇者のやり直し ~貶められた最強英雄は五百年後の世界で旅に出る~』の書籍版がファンタジア文庫から出版されました。
よろしければお手に取ってみてください。
https://fantasiabunko.jp/special/201909kangokuyusya/
異世界に漂流してから八日目。
ぼくたちが地球で魔王を倒し、こっちの世界に戻ったあの六日目から、まる一日以上が経過したあとのこと。
朝、ぼくと志木さんはリーンさんに呼び出された。
昨日一日は、アリスとたまきとルシアと、ずっと寝ていた。
身体が疲れすぎていて、心も疲弊しすぎていて、ベッドから起き上がることができなかった。
元気だったのは、わが娘であるカヤくらいで……あの子はお気に入りのペット(注:ペットではない)の黒豹クァールとともに世界樹の森を駆けまわって、住民の方々にご迷惑をおかけしていたらしい。
志木さんも同様だったらしくて、「歳をとりたくはないわねえ」と冗談をいっていた。
実際のところ、あの六日間はあまりにも長くて、濃密で、十年は歳をとった気分である。
で、今日はなまった身体を少しは動かすかーと学校の森を歩いていると、リーンさんの使い魔の鷹に捕まり、世界樹の森にワープさせられたのである。
なんでも、どうしてもちからを借りたいことがあるとのことでて……。
リーンさんは、たいへん申し訳なさそうな様子で、犬耳がぺたんとしていた。
彼女、いつもはもっと泰然としているのだけれど……。
いったいなにがあったのだろう。
「遠征隊が消息を絶ったのです。どうしても手に入れなければならない物資があり、それの調達のため、記録にある貯蔵庫へ差し向けた精鋭なのですが……」
なるほど、四天王唯一の生き残りであるアルガーラフとの協定が結ばれたとはいえ、魔物はまだまだ各地にいる。
どこに強敵が潜んでいてもおかしくはない。
そんな状況でも、人々は遠征し、ヒトの領地を取り戻していかなくてはならない。
遠征隊に選ばれるような兵士は、これまでの戦いで鍛え抜かれた精鋭だろう。
勇敢で精強な兵士たちが戻ってこないような状況で、これ以上、下手に被害を拡大させないために、どうするべきか。
大事をとって、リーンさんの切り札であるぼくらにお鉢がまわってくるのも仕方がないことなのだろう。
「カズくん、甘い顔をしてはダメよ。ここはなるべくたくさん、報酬を搾り取らないと」
志木さんが守銭奴根性を発揮してリーンさんとの交渉に入る。
彼女はいまや、こちらの世界に残されたぼくたち百人足らずのコミュニティにおける実質的な代表者だ。
もうひとりの代表者というか代表忍者はお人好しの自覚があるのか、こういうとき志木さんに投げてくるんだよね。
といっても、向こうはいい値を払う、といった感じで……。
そりゃ、いまぼくたちを動かすんだから、向こうに交渉材料なんてないよなあ。
なんでもリーンさんにこの件を依頼したひとたちが困り果てているらしくって、じゃあ仕方ないかって感じだ。
けっきょく、入手した物資の一部をこっちがもらう、というあたりで手が打たれた。
で、肝心の、持ち帰らなきゃいけない物資というやつなのだが……。
「お酒です」
リーンさんは重々しく告げる。
おいこら、ただの酒かよ。
というぼくの思いが顔に出ていたのだろう、リーンさんは慌てて言葉をつけ足す。
「儀式に使用する神酒、百年かけて醸造された、この大陸でもあと百本残っているかどうかという神々の血、ワインです。呪泥に覆われた地を一瞬で浄化するこれを、あなたがたに取りに行って頂きたいのです」
あ、そういえばこの世界、ファンタジーだったわ。
むしろそんなヤベー酒、貰っていいの?
※
というわけで、しばしののち。
ぼくは、たまきとふたりで、お酒の貯蔵庫のそばまで来ていた。
いっしょにワープしてきた荷運びの男たちは、リーンさんの鷹と共に少し離れた場所で待機している。
北の方なのか、少し肌寒い。
空は快晴、雲ひとつなかった。
お酒の貯蔵庫から待機場所までは、ぼくの使い魔で運べばいい。
ぼくの護衛として、たまきだけがついてきたのは、他の面々にそれぞれちょっとやることがあったからである。
まあ、四天王クラスの相手でもない限り、充分だろう。
「カズさん! 任せて! わたしがちゃーんと守るからね!」
「うん、たまきに任せておけば安心だとは思っているよ」
思っているから、ぼくのそばで巨大な斧をぶんぶん振りまわすのはやめて欲しい。
なんかよくわからないけどリーンさんがくれた斧で、聖別されていて、邪悪を滅ぼすちからがあるんだとか。
武器をもらって嬉しいのはわかるけど、さっきから風切り音がものすごくて、ちょっと怖い。
そろそろ、ぼくも使い魔を出しておくか。
というわけで、風と水のグレーター・エレメンタルを二体ずつ召喚しておく。
何が起こるかわからないので、ここは数を優先だ。
貯蔵庫は丘の上のおおきな寺院で、かつては敬虔な信徒が管理していたのだろう。
いまは荒れ放題で、寺院を囲む壁もあちこち破壊され、見る影もないありさまだ。
周囲にはぼくたち以外の人影も、それどころか動くものの気配すらない。
ぼくはリモート・ビューイングで視覚共有した風のエレメンタルを頭上に飛ばし、上空から寺院を観察した。
破壊された建物で瓦礫ばかりだが、醸造所は地下にあるらしいのでその点は心配していない。
問題は、瓦礫のまわりをうろつきまわっている影があることだ。
あれは……蛇か?
めちゃくちゃでかい蛇が三匹、からみあい、もつれあって寺院の敷地のなかを蠢いていた。
ぼくたち普通の人間くらいならひと呑みにしてきそうなサイズの大蛇である。
遠征隊をやったのは、あいつらだな。
と、その蛇の一匹が鎌首をもたげて上空の風エレを見た。
赤い複眼に睨まれ、ぼくは悲鳴を押し殺す。
次の瞬間。
ぱん、と破裂音が響く。
風エレとのリンクが切れた。
風エレは消滅していた。
え、いま、なににやられた……?
ぼくは目をぱちくりさせる。
たまきに訊ねてみた。
「なんかびゅんってのがしゅってなってばしーんだった!」
えーと?
たまき語を解読すると、空に向かって何かが飛んでいって、それが風エレに当たって弾けた、って感じなのかな。
なるほど、口から固体弾を放つ系か。
それが三体。
遠征隊が消息を絶ったのも仕方がない相手だ。
油断できない相手ではある、が……。
「わたしにまーかせて! 見えたから、切れるよ!」
さすが、いまはこの世界で最強の剣士、自信満々だった。
たまきはかわいいなあ。
思わず頭を撫でてやると、えへらと幸せそうに笑う。
さて、それじゃ、蛇退治といくか。
自分とたまきと使い魔たちに付与魔法をかけてから、地上から丘を登っていく。
丘の頂上にたどり着くまで襲われなかった。
たまきは「わたしが突っ込んでいって、やっつけちゃうよ!」とノリノリだが、ここは慎重にいこう。
パペットゴーレムを召喚し、寺院に近づかせる。
寺院を囲む壁の残骸に触れた瞬間、巨大な蛇の一匹が突如として内部から出現し、ぱっくりとパペットゴーレムを丸呑みした。
こうして近くで見ると、上空から偵察したときの感覚よりもさらに巨大に見える。
頭部だけで、三メートルくらいある気がする。
これ、全長だと三十メートルくらいあるよなあ。
そんな大蛇が、三体。
とりあえず、どれくらいのレベルか確かめてみるべく、こちらに残った風エレと水エレ二体に攻撃魔法を放たせてみた。
大蛇のぬめる鱗が、風の水の弾を吸い込み……ぱんっ、と弾かれた。
これは、魔法に抵抗があるのか。
なら……。
「たまき!」
「わんっ!」
たまきが地面を蹴り、飛び出す。
ぼくの付与魔法の効果もあってまたたく間に蛇との間合いを詰める。
大蛇はたまきに反応しそちらに振り向くき、口を開く。
なにかが発射されるも、たまきは斧をひと振りしてこれを切り払う。
今度はぼくにも見えた。
砲弾のような丸いものだ。
たまきは、それを一刀のもと両断してみせた。
彼女はそのまま踏み込む。
あまりにも鋭すぎる踏み込みによって、大蛇は口を開けたままである。
たまきは、相手の懐に入るや否や、勢いよく斧を振りまわす。
「えいさっ」
問答無用の一撃だった。
大蛇の頭部が宙を舞う。
間抜けに、ぽかんと口を開けたままだ。
たまきはその勢いのまま、寺院の敷地に飛び込んだ。
いやいやいや、ひとの話を聞けよ!
内部にはまだ二体が……。
「やあっ! てやーっ!」
たまきの声が外まで響いてくる。
寺院の壁より高く、蛇の頭がふたつ、ぽーんと打ちあがった。
あ、はい、心配するまでもなかったね。
やべーなこいつ。
思いきりのよさと圧倒的な実力が合わさって最強に見える。
新しい武器であるリーンさんから貰った斧と重剣術の相性がいいってのもあるのかもしれないな……。
「カズさーん、終わったよーっ」
笑顔でてこてこ戻ってくるたまき。
頭を撫でてそうな顔をしていたので、素直に撫でてやる。
蕩けた顔になっていた。
「えーと、うん、あんまり無謀なことはしないようにな」
「はーい! わかったよ、カズさん! わたしはカズさんのそばで、ちゃんとカズさんを守るから!」
「それは……うん、頼もしいよ」
インヴィジブル・スカウトを二体召喚し、寺院の残骸を捜索させる。
遠征隊の死体は見つからなかったが、鎧や剣といった装備の残骸は発見できた。
身体は食われたと思われる。
インヴィジブル・スカウトが瓦礫のなかに埋もれていた地下への階段を発見した。
この中にワインの貯蔵庫があるのかな。
エレを先頭にして階段を降りていく。
もう魔物はいないようだった。
古びた扉を開けると、ぷんと漂ってくる葡萄酒の匂い。
「ふわあ、いい匂いだねえ、カズさん」
「しまった、アルコールだ! たまき、下がって……」
遅かった。
たまきは顔を真っ赤にして、身体を左右に揺らしている。
そういえば、リーンさんにはぼくたちが未成年で、まだ飲酒経験がゼロだってこといってなかった気がする。
だからこその、迂闊だった。
ぼくは慌てて、扉のなかにふらふら入っていこうとするたまきを止める。
いま魔物に襲われたら致命的だったが……幸いにして、扉の向こう側に入った魔物はいなかったようだ。
なんとか、太陽の光に照らされた地上に戻った。
頭がくらくらする。
ふう、ぼくも少し酔ってるな、これ。
自分たちだけじゃダメだ、と無線機で離れたところに待機しているひとたちを呼んだ。
「ふにゃあ、カズさぁん、気持ち悪いよぉ」
「吐くならそっちのほうでな。ああ待ってて、ぼくもついていくから」
胃の中のものを地面にぶちまける少女の背中を撫でてやる。
リーンさんはともかくあのひとのまわりの人たちや他国の上層部、ぼくたちのことを無敵の軍団とでも思ってそうだけど……。
こんな弱点があるなんてなあ。
実際のところ、ぼくはつい先日まで高校生で、たまきたちは中学生で。
まだまだ、子どもなのだ。
少なくとも、日本では、そうだった。
大人たちに守られていて、経験の薄い存在だった。
そのことを忘れないようにしないと、いけない。
改めてそう自戒する。
「うう、カズさぁん」
「はいはい、げーしようね、げー」
たまきの背を撫でながら、応援のひとたちが来るまで。
ぼくは、そんなことを考えていた。
※
なお、ワインは無事だった。
荷物の運びだしは荷運びの男たちに任せた。
彼らは「英雄さんたちにもできないことがあるなんて、嬉しいことだよ。おれたちにもやれることがあるってことだ」と笑っていた。
うん、そうだよな。
ぼくたちだけでなんでもかんでもやる必要なんてない。
そのことに気づけたのは……ほんとうに、僥倖だったといえるだろう。
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