日本の発達障害者支援法が定義する自閉症・アスペルガー症候群・その他の広汎性発達障害について(以下ASD)は、上述した通りICD-10の広汎性発達障害の範囲に含まれます。DSM-5では、自閉スペクトラム症もしくは自閉症スペクトラム障害と呼称されています。
アメリカ合衆国には、ASD等に関する調査研究、診断、介入、教育等の分野での取り組みを拡大するために、既存の制度等の改正を目的とした「自閉症法2006(Combating Autism Act 2006)」(注2)があります。自閉症法の対象は「自閉症スペクトラム障害及びその他の発達障害(Autism Spectrum Disorder and Other Developmental Disorder)」です。診断には一般的にDSMが用いられます。「その他の発達障害」については「発達障害者への支援及び基本的人権に関する法律2000(仮訳)(Developmental Disabilities Assistance and Bill of Rights Act of 2000)」が示す発達障害の範囲に準拠しています。
ASDのある人は、義務教育およびその後の22歳までの教育までは全障害者教育法(The Individuals with Disabilities Education Act 2004 (以下IDEA2004) )を根拠に、高等教育や就労時には、障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act of 1990 (以下ADA1990)、リハビリテーション法(Rehabilitation Act of 1973)を根拠に支援やサービスを受けることが可能です。
なお、医療費負担適正化法(Affordable Care Act:以下ACA)は、18ヵ月から24ヵ月までの幼児への自閉症のスクリーニングを保険で取り扱うよう義務付け、自閉症のある子どもの保護者や自閉症のある成人の保険加入者に対して、健康保険サービスの受給制限や追加保険料の支払いを課することを禁止しています。また、必要な保険サービスとして、州政府に行動療法(behavioral treatments)などを保険の範囲に含めるよう推奨しています。
具体的な支援制度やサービス内容は州によって異なります。州別のサービス内容は、’Autism Spectrum Disorders (ASD): State of the States of Services and Supports for People with ASD’ にまとめられています。
イギリスには、ASDのある成人が適切なサービスを受給できるようにするために「自閉症法2009(Autism Act 2009)」があり、その対象を「自閉症のある成人(adults with autism)」と定めています。ここでいう自閉症の範囲は主にICD-10の広汎性発達障害の疾病分類に準拠していますが、実際の診断には別の基準が用いられることもあります。政策上は、Autismの他、Autism Spectrum Disorder、Autism Spectrum Condition、Asperger syndromeなどの表記も用いられています。
18歳以下の児童については、こども法(Children’s Act1989)を根拠に支援やサービスを受けることが可能です(注3)。学齢期には「特別な教育的支援(Special Educational Needs: SEN)」を必要とする程度に学習上の困難もしくは障害がある場合に「特別な教育的手立て(Special Educational provision)」が受けられます。特別な教育的支援が必要な児童生徒の定義は教育法1996(Education Act 1996)に、障害の定義は平等法2010(Equality Act 2010)において定められています。2014年に子ども家族法(Children and Families Act 2014)が施行され、同法律に基づき教育省と保健省が合同で「特別な教育的支援と障害に係る 施行規則(SEND code of practice:0 to 25 years)」を発行しています。この法律では対象年齢を25歳までに引き上げました。
雇用に関する支援は、平等法2010(Equality Act 2010)を根拠に合理的調整の対象となります。働き始めたり就労を継続したりするために、Access to Workを利用できる場合があります。
イギリスでは上述したような公的な教育・福祉・就労等のサービスを利用する場合、ニーズアセスメントが重視されます。ニーズアセスメントは地方自治体の責任において実施されます。
イギリスにお住まいで具体的な支援制度やサービス内容を知りたい場合は、居住地の自治体や英国自閉症協会(National Autistic Society: NAS)に問い合わせることができます。
オーストラリアでは、ASDは障害者差別禁止法の対象に該当します(注3)。ASDの表記は、政策上はAutismやAutism Spectrum Disorder、Pervasive Developmental Disorder/Disabilityなどの表記が用いられています。
就学前の子どもへの早期介入サービスは、健康保険法(Health Insurance Act 1973)の下、自閉症のある子どもの支援パッケージ(Helping Children with Autism (HCWA) Package)などの資金補助を受けることができます。
25歳以下の場合、保護者手当てや精神保健プラン、個別支援プログラムの対象となる場合があり、それらは家族・住宅・地域サービス・先住民省が発行した’Supporting Individuals with Autism Spectrum Disorder. A guide for families and professionals’に詳しく記載されています。
就学前教育から高等教育までは、障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act 1992)の下に制定された障害者教育基準(Disability Standards for Education 2005)の対象になります。そこでは、障害者差別禁止法の目的に準じた教育や訓練における差別禁止規定によって教育への参加の機会の保障や合理的調整等の対象とされます。教育法や教育制度は各州で異なりますので、お住まいの州政府や自治体、学校等に問い合わせが必要です。就労や就労継続については、オーストラリア政府が提供するジョブアクセス(Job Access)の対象として支援を受けることができます。
なお、高齢期においては、高齢者ケア法(Aged Care Act 1997)の下に制定された助成金基準(Subsidy Principles 2014)の対象に含まれています。
表3 各国で用いられるASDの用語
| 日本 | アメリカ合衆国 | イギリス | オーストラリア |
疾患名 | 広汎性発達障害 (Pervasive Developmental Disorders) 自閉症 (Autism) アスペルガー症候群 (Asperger’s syndrome)
| Autism Autism Spectrum Disorder | Autism Asperger syndrome Autism Spectrum Disorder Autistic Spectrum Disorders Autism Spectrum Conditions Autistic Spectrum Conditions
| Autism Autism Spectrum Disorder Pervasive Developmental Disorder Atypical autism Asperger’s syndrome/ Asperger’s disorder Pervasive Developmental Disorder – Not Otherwise Specified (PDD-NOS)
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