手塚漫画「アポロの歌」は「火の鳥」なのだ。12 その12 まとめ (最終回) これまで「アポロの歌」と「火の鳥」の関連性を、約10章にわたり解説してきたが、今回で最終回である。 「アポロの歌」は、生命の尊さ、時空を超えた愛憎と葛藤、超越者の存在、等々、「火の鳥」と共通点が多い。 「火の鳥」のシリーズの全体像を示した「未来編」は科学やテクノロジーを背景に、歴史や時空を壮大に綴った物語であった。 「鳳凰編」は人間の情念を中心に、奈良時代という過去でありながら、我王の視点で時空を越えて人類の歴史を描いている。「鳳凰編」は、「未来編」につぐ傑作であると思う。 「アポロの歌」は、その「鳳凰編」と同時期に連載されていて、手塚治虫は、色々な事情から「アポロの歌」を「暗い作品になった」と解説しているが、創作意欲においては、同じテンションの高さで執筆されたのではないだろうか。 昭吾と我王が受ける時空を超えた罰という点において、両者のキャラクター像はよく似ている。 昭吾の幼児期のトラウマによる愛への不信、我王の出生直後の片腕喪失による人間不信、両者の抱える苦悩は奥深く、なかなか解消できるものではない。 超越者による罰という形をとっているが、それらの苦悩は精神の葛藤をいくつも体験した後で和らぐことを示唆しているとも読みとれる。 昭吾の受けた罰は、何度も生まれ変わって愛の苦しみを味わうという罰である。 我王(猿田一族含む)の罰は、苦悩に満ちた人生そのものという罰である。 「鳳凰編」の茜丸は、何度も生まれ変わるが二度と人間にはなれないという罰であり、「宇宙編」の牧村も再生の罰を受けているが、いわゆる究極の選択として罰の違いを比べてみると、愛が介在する分だけ昭吾の罰が一番ましかな、と思う。 「アポロの歌」は、手塚治虫自身が「性教育漫画」と呼称し、連載当時としては、他の作品よりも裸やエッチなシーンが多いため、愛と性の悩みや青春の葛藤の面ばかりが注目されてきた。 生命の尊厳、時空を超えた愛憎、超越者の存在というSF設定から「火の鳥」シリーズとの共通点を指摘する人はある程度いるが、詳しく解説した執筆物はない。 手塚治虫本人が不在の今、プロダクションや出版社は、「アポロの歌」について、もっと「火の鳥」との共通点をアピールしていくべきだと思う。 「アポロの歌」は「火の鳥」なのだ! 以上、「アポロの歌」が「火の鳥」シリーズに含まれるべき内容の作品であると主張してきましたが、本来は、「アポロの歌」と「火の鳥」の漫画としての構図を、なるべく多くの画を並べて対比・比較した後、最後のまとめをするつもりでした。 しかしながら、画像の数量、アップできる画像容量、著作権等の問題があるため掲載はやめて、ひとまず今回で、連載終了とさせていただきます。あしからずご了承くださいませ。 ご笑覧、ありがとうございました。(終わり) 追記 次回からは、「手塚治虫漫画のアラララ」と題して、手塚治虫漫画において、「この場面は、なんか変では?」「ここは、こうすべきでは?」という自分勝手な視点で、軽い読物としての連載を始める予定です。もしよければ、読んでください。 なお、「アラララ」は、「あららら」という感嘆詞と、「鉄腕アトム」主題歌の一節「ラララララ…」からの洒落です。「あら探し」の「アラ」ではありません、念のため。 |
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初めまして。
「アポロの歌」と「火の鳥」はどちらも長年愛読してきた作品ですので、両作品の共通点という斬新な視点に胸を打たれ、たいへん興味深く読ませて頂きました。
今さら余計なことかもしれないのですが、ちょっと気になった箇所がございましたのでコメントいたしました。
まず、火の鳥「望郷編」について、宇宙旅行で時間が逆行する星の話があるという記述がありますが、確かそういう星のエピソードはなかったかと思います。マンガ少年版、単行本版、角川文庫版すべて読んでおりますので間違いないかと思います。
(長くなりましたのでふたつにわけます)
2013/7/6(土) 午後 2:00 [ 真弦 ]
(つづきです)
また、「生命編」についての記述に、本物の青居は物語中盤で殺されているというものがありましたが、ジュネと北海道へ逃げのび、クライマックスで工場を爆破したのは、クローンではなくもともとの青居だったかと思われます。鳥人間(本人の説明では火の鳥とインカ人の娘の何代目かのクローン)にクローン培養用に切り取られた指がそのままありませんでしたし、性格や言動からそのように理解しておりました。ただし、こちらは角川文庫版しか知らないので、別のヴァリエーションが存在するのかもしれません。
以上、恐縮ですがご確認のほど宜しくお願い致します。
突然のコメント失礼いたしました。
2013/7/6(土) 午後 2:01 [ 真弦 ]
fenix6210様
コメントを有難うございました。
自分自身や親族の健康の都合で、しばらくブログを休んでいましたので、拝見するのが遅くなってしまいました。
すぐに本を調べられない状態なので、記憶の範囲でご返事いたします。
「望郷編」の宇宙旅行のシーンは連載版とコミックとでは、何回か画き替えがされているので、どの分だったのか不明です。
「生命編」の青居は、大勢のクローンが日本に帰って来た時に、最初に電気ステッキの電撃で殺されたのが本物だと暗示するような描写があったような気がします。
「生命編」も、連載とコミックでは、画き換えが多く、記憶があいまいです。どの分か、はっきりしなくて、すみません。
いつになるか分かりませんが、ちゃんと調べることができたら、また、ご返事いたします。あしからず。
2013/7/16(火) 午前 1:23 [ goi*t*korin ]