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手塚漫画「アポロの歌」は「火の鳥」なのだ。11
 
その11 視覚的な共通点③…希望の光・未来への光明
 
 「アポロの歌」も「火の鳥」も、コマの上方に大きく輝く光という構図が重要な場面で出てくる。
 光は、希望の光であり、未来への光明である。
 太陽を表わしている時は必ず丸い円が描かれていて、光だけ、光からの放射状の線だけの場合は、太陽ではないことが明らかである。
 「火の鳥」では火の鳥の輝きを示す光でもある。
 なお、「羽衣編」のように、そういう光が全く描かれていない作品もある。
 
 「アポロの歌」の冒頭と巻末には、大きく1コマで描かれた印象的な、同じページがある。
 それは、上方の大きな光の下で、手をつないで山頂のような場所に立っている男女の黒いシルエットの画である。

 光と男女の間に下記のナレーションが付けられている。
 「男と女と うまれるもの(者)は
 世界のつづくかぎり
 無限のドラマを くりかえすだろう
 きょうも また あしたも……」
 
 巻頭の方には、この前に出産に関連したナレーションがある。
 「胎児……
 それは進化の模型である
 生き物の過去であり
 未来であり 終末であり
 はじまりでもある
 
 そして それは
 男と女の オスとメスとの
 愛と真実と まことのしるしでもある
 自然は 男と女をつくりわけ
 男と女は みずからの子孫のために
 結ばれ 生みつづける……」
というナレーションが入っている。 
 
 一方、巻末の方は、異次元で昭吾が新しい人生に向かった後に、ひろみが昭吾の後に続いて行く場面からナレーションが始まる。
 「自然は…… 
 男と女をつくりわけ……
 ……男と女は 
 みずからの子孫のために
 むす(結)ばれ 生みつづける……
 胎児……それは
 男と女の オスとメスとの
 誠実な愛の
 しるしである
 誠実な愛がなければ
 人類の歴史は
 つづかなかっただろう」
 この後、上記の男女のシルエットのページになっている。
 
 両方とも、胎児と子孫に言及しているが、巻末の方は、「誠実な愛」という言葉が追加されて強調されている。
 愛を信じなかった昭吾が、最後はひろみを愛するようになって、愛の喜びと苦しみを理解するようになる。しかし、女神の罰は終わらず、昭吾は新しい人生へと送り出される。
 昭吾は反面教師の役割なのだろう。
 光は、男女の愛を祝福しているようであり、男女を温かく見守っているようでもある。
 手塚治虫は、最後のナレーションに「誠実な愛」を入れることによって、読者や世界の人々に、「誠実な愛」を持ち続けて欲しいというメッセージを投げかけていたのかも知れない。
 
 「火の鳥」にも輝く光と主人公たちの画がいくつか出てくる。
 「未来編」では、マサトとタマミがコスモゾーンとして火の鳥と一体化する際に、火の鳥イコール光に向かっていく画がある。
 また、最後の方で火の鳥の独白の場面で、光の方に向かって歩く多数の人類が描かれている。
 「復活編」では、レオナとチヒロが光に向かっていき、ロビタとして生まれ変わっていく。
 「太陽編」では、終盤、ハリマとマリモが未来で結ばれる場面にも光が出てくる。
 光は、主に男女の愛が成就した時に使用されているようだ。
 光の描き方は、手塚治虫の視覚的なイメージ戦略に違いない。
 前章で述べた光線銃の光が破滅の光であるのに対して、上方で輝く光は、未来を示していて、同時に希望の光明でもある。登場人物や人類・生物の、未来への希望の象徴なのである。
 漫画家や経営者として不遇の時期があり、いろいろな葛藤があるにしても、手塚治虫自身が男女の愛や人類の未来を信じていることの表われなのであろう。
                                      (以下、次回)

訂正
 「その8…渡ひろみ」の章の後半で、ひろみのことを、「長い黒髪の美女」と記述しましたが、ひろみは短髪でしたので、「長い」は不要でした。訂正いたします。
 ひろみと同じ顔をした合成人間の女王シグマが長い黒髪の美女であり、同じキャラクターとして扱ってしまいました。失礼しました。

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