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手塚漫画「アポロの歌」は「火の鳥」なのだ。10 
 
その10 視覚的な共通点②…光線銃の光
 
 未来が舞台の「火の鳥」と「アポロの歌」の「合成人間編」には、武器として光線銃がよく出てくる。
 「合成人間編」の光線銃は、多少ギザギザの輪郭だが一直線の光線を発射し、標的は一瞬で粉々に粉砕されてしまう。人間に当たれば直後に黒こげになってしまうし、車両であれば爆発してしまう。
 いわゆるレーザー銃とは多少性能が違うようだ。レーザーであれば、鋭利な刃物で切ったように、スパっと切断されるだろう。そして、断面は高熱で焦げるか瞬間的に溶けて固まるか、どちらかになると思うが、そういう描写はあまりない。
 人体が一瞬でバラバラになる光線、それは放電かプラズマか、当たった瞬間に落雷のような衝撃でエネルギーが一気に爆発する性能のようである。
 
 「合成人間編」の終盤、3ページにわたって、人間のレジスタンスが光線銃で女王シグマのクローン達を次から次へと撃ち殺すシーンは、非常に壮絶である。
 昭吾への愛を叫びながら、目の前で死んでいくシグマのクローン達を見て、シグマへの愛を再認識した昭吾であったが、光線銃の乱射の末に、最後は主要な登場人物は皆んな死んでしまうのである。
 さて、このシグマのクローン達を殺戮する場面に似た場面が「火の鳥」の「宇宙編」(注・「宇宙編」の方が発表が先)に出てくる。
 それは、牧村が赴任した惑星で鳥形宇宙人を殺戮する場面である。
 鳥形宇宙人のレダと結婚した牧村だったが、やがて心変わりし、邪魔になったレダを殺してしまう。さらに、無抵抗の鳥形宇宙人達を次々と殺して回るのである。(このことが原因で火の鳥に呪いをかけられる。)
 この凶行に使われる光線銃が、「合成人間編」と同じ性能の光線銃なのである。
 牧村は鳥形宇宙人を撃ち、黒焦げにしていく。約2ページ分だが、この場面もシグマのクローン殺戮と同じくらい壮絶である。
 両作品における光線銃の光は、恐怖の光であり、破壊と破滅の光である。
 
 ところで、「火の鳥」には、もう一つ別の性能の光線銃が出てくる。
 それは、くるくると竜巻か渦巻のような光線を発射するタイプである。
 なぜ光線がくるくると回転するのか科学的な説明はない。
 ジグザクに進む落雷のように一直線には進まない原理が銃に組み込まれているのかもしれない。
 区別のために、仮に一直線の光線をストレート型、回転するものをトルネード型と呼ぶが、トルネード型は最初「未来編」(時代的には一番最後)に出てくる。
 人類が滅亡した後、老人のマサトが失敗作の女性型ロボットを処分する場面で、トルネード型が使われている。
 また、時代を遡って「生命編」でもクローンハント等に使われている。
 一方、ストレート型は「宇宙編」の他、「望郷編」「復活編」「太陽編」で使われている。
 未来世界で、光線銃の製造メーカーがどこなのか、メーカーがいくつあるのか、ストレート型とトルネード型が同じメーカーなのか、あるいは、別々の国が造ったものなのか、作品中では全く言及されていない。
 手塚治虫が二つのタイプの光線銃をどんな根拠で使い分けていたのかも分からない。
 
 光線銃は、他の手塚漫画にもよく出てくるし、 元々SFものの漫画や小説や映画に大抵は登場するアイテムである。
 近年、手塚漫画のリメイクやスピンオフ作品がいくつも作られているが、光線銃に関しても、発明と変遷を描いた「火の鳥」外伝が作れそうな気がする。(以下、次回)

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