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手塚漫画「アポロの歌」は「火の鳥」なのだ。5
 
その5 火山と大爆発
 
 「アポロの歌」の「無人島編」は、セスナ機が火山島でもある無人島に不時着して、パイロットの主人公と女性カメラマンが遭難する話である。
 二人は、偶然通りかかった船舶に救助されそうになるが、島の動物たちのことで船員たちとトラブルになり、結局、火山の噴火の中で死んでしまう。
 一方「黎明編」にも、火山で遭難するグズリとヒナクの話が出てくる。火山の噴火に巻き込まれたグズリは冷静に行動して、ヒナクや動物たちとともに地中に閉じ込められながらも、なんとか生き延びるのである。
 「無人島編」の直情的な主人公と「黎明編」の冷静なグズリ、性格や行動によって生死の結果は違っているが、女性や動物たちと火山の噴火に巻き込まれるという共通点がある。
 火山は、エピソードの長短の違いはあれ、それぞれの区切りをつけるための状況設定として使われている。
 火山の噴火によって、「無人島編」の主人公は死亡してエピソードの終わりを迎えるし、「黎明編」のグズリたちは地下生活に陥り、それまでの地上生活と隔離させられたエピソードが始まる。主役のナギや猿田彦たちとは没交渉になってしまうのだ。
 「望郷編」においても、最後は火山の噴火と大地震で、ロミの故郷の惑星は全滅する。
 火山の噴火と同様に、爆弾等の大爆発もエピソードの区切りとして使われている。
 「合成人間編」にも火山が出てくるが、ここでは噴火の代わりに女王シグマの自爆による大爆発が、エピソードの終わりを告げている。
 「生命編」では、時限爆弾によるクローン工場の大爆発で物語が終わっている(雑誌連載時は、この少し前で終わっていた)。
 この二つのエピソードは、両方ともクローンに関する物語である。
 「未来編」では、地球規模の核の大爆発で未来の都市が全滅する。マサトやロックは、やむを得ず猿田博士のドームに閉じこもっての生活を余儀なくされる。それは、地下に閉じ込められた「黎明編」のグズリたちと同じく、核の大爆発がエピソードの区切り・場面転換になっているのだ。
 「アポロの歌」は、最終的に主人公・近石昭吾は、物語全体の幕引きとして大量の石油かガソリンの大爆発で死亡してしまう。

 何かの爆発が、起承転結のどこか、物語やエピソードの区切りになるのは、創作物では珍しいことではない。
 ドラマや映画のアクションもの等では爆発による場面転換はよくあることだし、実写やアニメの変身ヒーロー・ヒロインものでも、退治された敵や敵基地は、たいてい爆発して一件落着となっている。
 爆発は、場面を盛り上げつつ起承転結の区切りに都合が良いツールなのだろう。
 ただし現実問題として考えた場合は、日本国内における爆発は大変やっかいな現象である。
 爆発後は、警察・鑑識等の現場検証、広範囲に飛散した破片の回収、証拠・証言の収集、何が爆発したかにもよるが事故調査委員会の調査・報告、犯人の捜査や逮捕、場合によっては裁判、等々、1回の爆発だけでも事後処理に何ヵ月いや何年かかるか分からないくらいだろう。
 ともあれ、ロボット・アクションの要素もあるSF漫画「鉄腕アトム」や「マグマ大使」が、総ページ数の割に大きな爆発シーンが意外に多くないのに比べ、「アポロの歌」と「火の鳥」が、似た頻度、似た手法で、火山の噴火や爆発が起承転結の区切りに使われているのは注目すべきことであろう。(以下、次回)

開​設日​: ​20​10​/4​/2​4(​土)​


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