第2回 プロローグ② 「新聞記者と弁護士が大嫌い」
木村英昭
三輪祐児は、電通で勤務していた父が反原発運動に関わる市民や弁護士への組織的な「嫌がらせ」に関与していたのではないか、という確信めいたものを感じた。
* * *
小学生の頃は電通の社宅で暮らしていた。現在の半蔵門病院(東京都千代田区麹町1丁目)のあるあたりだ。4階建ての3階。6畳2間の風呂なしの部屋だった。父と母、妹の家族4人で住んでいた。
家庭の食卓で交わした会話を今もはっきりと覚えている。
「5000円で車椅子に乗っている人間をデモ隊の前で転ばせて、それを隠しカメラで写し、『暴行するデモ隊』っていう記事を週刊誌に載せた」
「電通の社員に5000円を渡して、『赤提灯で美濃部の悪口を言え』と頼んでた。『美濃部は女囲っている』『横領している』と」
父は1971年には東京都知事選挙に立候補した、元警視総監の秦野章を応援していた。「革新都政」と呼ばれた美濃部亮吉の対抗馬だった。
食事をしながら「うまくいった」と成功談として語る父に、母は「あなた、そんな話やめてちょうだい」とたしなめた。
三輪の父は、とにかく新聞記者と弁護士が大嫌いだった。「あいつら」と呼んでいた。
テレビのニュース番組を見ながら悪態をつくこともしばしばだった。
「企業から金をとって、デモ隊と弁護士、新聞記者と山分けしているんだ。あいつら共産党だ。金のための汚いことを平気でやるやつらだ」
「水俣病の支援者は日当5000円をもらっている。金が目当てで、悪事を働く奴らだ。デモをする奴らは。会社に押しかけて権利を奪われたとい、真面目な会社を脅して金をもらっている」
「デモ隊にブスが多いのは、美人はいい会社に採用されるからその恨みで大企業にデモをするんだ。その金に群がるのが弁護士と新聞記者だ」
父がなぜそんなことを言っていたのか、三輪は父の言葉を聴きながら、理由はよくわからなかった。父が口癖のように言っていた言葉を覚えている。
「あいつらは金が目当てだ。大企業へのゆすりたかりをする。証拠はある。そうとしか考えられない。それが証拠だ」——。
三輪は「嫌ないやつらを俺たちはやっつける、やっつけるんだからどんな汚い手を使っていいんだ、正義だから許されるはずだ、と本気で思っていた」と生前の父を思う。
「父は〈正義〉をやっていた。本気でそう信じていたんです」
=つづく
敬称略
[ライタープロフィール]
聞き手・木村英昭 (きむら・ひであき) ジャーナリスト。ジャーナリズムNGOワセダクロニクル編集幹事。朝日新聞社を2017年8月に退社、早大を拠点にしたジャーナリズムプロジェクトの立ち上げに参加、現在に至る。
語り手・三輪祐児 (みわ・ゆうじ) 1953年生まれ。市民放送局UPLAN代表。東日本大震災を契機にジャーナリズム活動を開始。3500本以上の動画をYouTubeにアップし続ける。