手塚漫画「アポロの歌」は「火の鳥」なのだ。4 その4 クローンの恐怖 「アポロの歌」の未来の「合成人間編」には、合成人間というクローン人間が登場する。 未来では、普通の人間は合成人間に支配されている。人間のレジスタンスの主人公は、合成人間の女王シグマに近づき暗殺するが、何回殺しても、次々と代わりのクローンのシグマが現われる。さらに、敵として主人公のクローンまで登場する。 「火の鳥」にもクローンが出てくる。 「生命編」は、テレビ番組でハンターに殺させるためのクローン人間を作ろうとした青居が、鳥人間(火の鳥の分身か、「宇宙編」の鳥型宇宙人のような種族か)の罰を受け、自分のクローンを大量に作られてしまう。 最後は、生き残りのクローン青居がクローン工場を爆破してクローン生産を中止させる。 なお、本物の青居は、大量のクローン達と帰国した直後にクローンと間違われて殺されているが、話の中では行方不明と思われている。 「アポロの歌」の「合成人間編」も、最後は宮殿ごと合成人間の生産工場を爆破して終わる。 両者の、大量のクローンと生産工場を爆破する展開は、よく似ている。 手塚治虫は、クローン人間の生産には反対だったようで、他にも、「人間ども集まれ!」でクローンの恐怖と悲劇を描いている。この作品は、当時の「大人漫画」というジャンルで、劇画調ではない簡単な絵柄で大人向けの内容を描く手法で描かれている。 「人間ども集まれ!」は、最初はミステリー仕立てで主人公・天下太平の苦悩や復讐が描かれるが、途中からは無性人間というクローン(太平の特殊な精子が悪用されて作られた、人工授精による広義の意味でのクローン)が、人間に対して革命を起こす物語である。 実質的な関係はないが、「アポロの歌」の「合成人間編」の作中では描かれていない、合成人間がいかにして人間を征服したかという物語としてみなすと、いっそう興味深く読める。 「生命編」の終盤には、クローン会社の社長が、大量のクローンを敵味方に二分し戦争ゲームをさせたい、と言う場面がある。 この戦争ゲームは、「生命編」内では、実現していない。 しかし、戦争ゲームの悲惨さは、「人間ども集まれ!」で詳しく描写され、しいたげられた無性人間たちの革命のきっかけにもなっている。なお、初期のコミックスは、連載分(1967年から68年)や後年の完全版と結末が違っている。 作品発表は「生命編」の方が後なので、戦争ゲーム云々のセリフによって、手塚治虫は「生命編」のクローンの悲劇を、先に描いた「人間ども集まれ!」に関連付けしたかったのかもしれない。 「アポロの歌」の「合成人間編」、「火の鳥・生命編」、「人間ども集まれ!」を、手塚治虫長編漫画でのクローンSF三部作と呼びたいくらいである。(以下、次回) |
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