アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 時系列、少しさかのぼります。



29:……なん……だと……

 

 ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは言った。

 

「アルベドさんは、モモンガを恋愛対象と見ていないのでは?」

「そんなはずはない!」

 

 思わず、机を叩く。

 呼吸が乱れ、目が紅く光る。

 

「落ち着いてください。嫌われているという意味でも、愛されていないという意味でもありません」

「では……どういう意味だ?」

 

 圧倒的強者のすがりつくような目に、ぞくぞくと甘美な感覚を味わいつつも。

 ラナーは毒を注がない。

 いずれ自身も、モモンガにすがりつかねばならないのだ。

 壊すわけにはいかない。

 

「アルベドさんにとって、モモンガは恋人や伴侶である以前に、主君ということです」

「SYUKUN!?」

 

 妙な発音で叫んでしまう。

 

「支配者でも神でもかまいませんが。仕えるべき主であり、対等で肩を並べられると思っていないのでは?」

「……なん……だと……」

 

 モモンガとしても覚えが……ありすぎた。

 いや、そもそもNPCとは、そういうものではないか。

 アルベドは今も、内心ではデミウルゴスやコキュートスと変わらない意識であり。

 己はただ、伴侶になれ、愛しろ、奴隷扱いしろと、命令したからしているだけなのか。

 だとしたら。

 

 

 

 シャルティア・ブラッドフォールンは言った。

 

「ぺロロンチーノ様いわく、SはサービスのSでありんす」

「なに?」

 

 モモンガは口を開けたまま硬直する。

 主の知らないことと知り、シャルティアは胸を張ってドヤ顔で説明を続ける。

 

「モモンガ様こそ至高の御方。ナザリック地下大墳墓の絶対なる支配者にして、美の結晶の結晶。ナザリックの――否、世界の全てはモモンガ様の意のままとなるべきでありんす」

「はあ」

 

 他人事のように頷く。

 よくわかっていない。

 モモンガ様ってすごいなーと聞くばかりである。

 

「そして、我が創造主ぺロロンチーノ様はおっしゃったでありんす。地位ある人こそ、内心で奴隷のように犯されたがっていると! さすが我が創造主、慧眼でありんした!」

「何教えてるんだよ、あの鳥」

 

 転移以来、久しぶりに素に戻ってしまった。

 

「高い地位、重い責任を持つ者が、ベッドでは雌豚と蔑まれ踏みにじられ、ドロドロのぐちゃぐちゃにされたいのは道理! 実は私も、時折シモベの吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちに攻めてもらって……」

「それはいいから」

 

 もじもじと恥じらいながら、酷い告白を聞かされる。

 もう聞くのやめようかなと思い始めた時。

 

「しかし、ルプスレギナはわかっておりんすけど、アルベドもソリュシャンもわかっておりんせん! シモベとして、主に求められた以上、喜んで奉仕として攻めさせてもうらうべきでありんすに!」

「ん? おい――」

 

 違和感を感じた。

 問いただそうとするが。

 

「と、ところで、こうして二人で会ってくれたということは、私の失敗も許してくれて、これからまたねっちり攻めさせてくれるでありんすよね!」

「まだ駄目だ」

 

 飛びついてきそうなシャルティアに危機感を覚え。

 モモンガは、ギルドの指輪の効果で、転移した。

 

 

 

 ルプスレギナ・ベータは言った。

 

「――モモンガ様は、それを望まれておられたはず」

「そうだ。お前は間違っていない」

 

 いつもの軽い調子でなく。

 妖艶で、冷酷な顔で、彼女は答えた。

 

「あれらは、モモンガ様への奉仕と考えておりました。私自身、楽しませていただいたこと否定しませんが。アルベド様やソリュシャンは、楽しみきれていなかったようです」

「……そうか。お前は優秀だな、ルプスレギナ」

 

 人狼メイドは深々と頭を下げた。

 

「御身に斯様な行為をすること、酷く冒涜的に思えるのです。私とシャルティア様は、冒涜に悦びを見出しました。冒涜に恥を感じるこそ、正しいのでしょう」

「私のあの振舞いに乗じるは、冒涜か。私が許しても、か」

 

 返答として頷き。

 

「――我々、プレアデスでもユリやナーベラルを側仕えに勧めずいるのも、アルベド様ら以上に、こうした冒涜に傷つくからと思っていただければ」

「傷つく、か」

 

 モモンガは目を閉じ、思う。

 乾いた笑いが漏れた。

 

「なぁ、ルプスレギナ……やはりお前たちは私の子だな」

 

 本来なら喜びに身悶える言葉だが。

 主の口調と表情が、それを許さない。

 

「私も……お前たちも。本当に我儘で……己のことしか考えない」

「モモンガ様――」

 

 釈明の言葉を紡ごうとしたが、モモンガは手で制した。

 

「訓練中、邪魔をした。また、かわいがってくれ」

 

 そのまま、転移して立ち去った。

 今は誰もいない私室に戻って。

 モモンガは己の頭を殴り、頬をはたいた。

 何もわかっていなかった自分がひどく、苛立たしかったのだ。

 だが、種族として得た再生能力が、すぐに頬の腫れを引かせ。

 殴った頭の痛みさえ消えた。

 

 NPCには会う気になれない。

 モモンガは予定を早め、初対面の人物の元へと……供も護衛も連れず、向かう。

 相手は今、同じナザリックにいるのだから。

 

 

 

 ティアは言った。

 

「相手はモモンガに欲情してる?」

「…………」

 

 モモンガは、こくりと頷いて返す。

 事情を聞いても、ティアはまるで気に掛ける様子すらなかった。

 それが、今はとてもありがたい。

 

「なら何も問題はない」

「どうしてだ?」

 

 言いきられても、わけがわからない。

 

「恋とか愛とか信頼とかは、突然に生えたりしない」

「え?」

 

 目を見開いた。

 劇的な何かがあって、劇的に生まれるのではないのか?

 

「突然生まれる時もある。でも、たいていは、ゆっくり育まれる」

「そうだろうか?」

 

 たっち・みーに助けられた時。

 アルベドと結婚した時。

 それらは、劇的に生まれたのに。

 ニグンもカジットも、劇的な変化を受けていたように思う。

 

「私とティナは、ラキュースを暗殺に来て返り討ちにされた」

「そうなのか? でも……」

「なぜか許されて仲間にされた。最初は隙を伺って殺そうとしてた」

「よく殺さず傍に置いたなぁ」

 

 素直に驚く。

 モモンガなら、即始末するだろう。

 

「私たちもそう思った。けど……いろいろあって、暗殺対象から仲間になった。特に大きな何かがあったわけでもない。だんだん、関係が変わった」

「…………そうか」

「人間は変わる。人間関係も変わる。いい方にも、悪い方にも。変える努力をして、相手をよく見ていれば、きっと恋人同士になる」

「……そうだな」

 

 モモンガは考える。

 

 ギルドとしてのアインズ・ウール・ゴウン……いや、その前身たるナインズ・ウール・ゴウンはどうだったろう。ぺロロンチーノやウルベルトと、劇的なドラマはあっただろうか。むしろ、たっち・みー以外の誰とも……そんなものはなかった。

 NPCについても、最初はギルドメンバーの残滓、身代わりのように見ていた気もする。

 だが、今では個々の個性を知っているし。

 それぞれに信頼もしている。

 信頼とは、盲目的に従うことではない。

 シャルティアは外に出せば失敗しそうだなと、送り出す前から思っていた。

 そして彼女は実際に“信頼”に応えて失敗する。

 さしたる失敗でなくとも、外で何か問題を起こせば、言及するつもりだった。

 彼女だけ、明らかに自主的には仕事も鍛錬もせず過ごしていたからだ。

 己を棚に上げた判断だが――

 

「――っあっ♡」

「慰め目的でも、目の前で他の女について考えこむのは失礼」

 

 ティアが指を滑り込ませ、思考を中断させた。

 

「す、すまない、ティアっ♡」

「ダメ。朝までは許さない♡」

 

 そのまま唇も塞がれ。

 快楽の坩堝に突き落とされてしまう。

 

(ああ……けれど、私はアルベドを……信頼していただろうか……)

 

 独りよがりで求めるばかりだったのでは。

 と、思いながら。

 女忍者の指によがり鳴かされていくのだった。

 

 朝。

 地下なのでわからないが、ぶくぶく茶釜さんのロリ声が朝を知らせる。

 朝食で仲間と顔を合わせる前に、と。

 二人は浴室で身を清め(当然、そこでもいろいろしたが)。

 モモンガは転移で姿を消し、ティアの部屋を去った。

 

 

 

 パンドラズ・アクターは言った。

 

「おお、我が偉大なる母上! なんと、斯様な次第で私に声をかけてくださるとはッ!」

 

 深々と礼をする。

 

「ハイ、もォ~ちろんでございますッ! 彼の場所に納められたる、すぅべぇてッ! 母上のものッ! ご随意にお使いくださいッ!」

 

 くるくると回ると、手に持ったそれはブンブンと振り回される。

 うめき声をあげているが、生きているなら問題ない。

 

「ハッ、帝国にも数は少なくともゴミを見つけましてッ! ハイ、保護した子らは、デミウルゴス様の元にッ! あァ~りがとうございますっ! その言葉だけで、私、天にも昇る心地ッ!」

 

 彼が回り、踊るごと、手の中のそれは、ゴッゴッと周囲にぶつかる。

 〈伝言(メッセージ)〉が切れ、優雅に弧を描いて踊りが止まる。

 

「――はぁ。なんと素敵な朝でしょう。母上直々の激励、何よりも私如きに守護領域だからと立ち入りの断りをくださるとは。本当に、慈悲深いッ! ありがたいッ! こォーんなゴミを見て、私の心も荒んでいたと思い知らされますねェ~」

 

 理性の強い彼は、首を折ってやりたい気持ちを抑え。

 腕と脚を丹念に折るに留めた。

 

「さァ、そちらのエルフのお嬢様方。どうかついて来てください。この人を好きなだけ拷問させてあげますからねェ♪」

 

 片隅で怯え震えていたエルフたちが、その言葉で目に光を取り戻す。

 そして、パンドラズ・アクターはかつての主――死の超越者(オーバーロード)たるモモンガの姿に変わると、〈転移門(ゲート)〉を作りだし。

 三人のエルフと。

 ぴくぴくと動くばかりのそれ――エルヤー・ウズルスなる男と共に。

 上機嫌な足取りで、デミウルゴスの施設へと向かう。

 

 

 

 ナーベラル・ガンマは言った。

 

「わ、私がですか! いえっ、承知いたしました! すぐ向かいます!」

 

 廊下で一人、突然の大声である。

 

「どうなさいました、ナーベラル様」

 

 偶然、側で作業していた一般メイドのインクリメントが問う。

 

「御方からの〈伝言(メッセージ)〉による呼び出しです。最優先で向かいますから、何かあったらエクレアに聞いてください。他の一般メイドにも通達を」

「了解いたしました。いってらっしゃいませ」

 

 答えつつも、既にナーベラルは足早にその場を離れつつあった。

 

 先日、皆の前で罪を晒されて以来、ナーベラルへの風当たりはよくない。

 御方が言及を禁じても、隔意は残る。

 最も親しいプレアデスも大半は外での仕事を任され。

 連携訓練でも、当番の優先順位は最も低い。

 ペストーニャに代わってのメイド長代理という仕事も、いてもいなくとも問題ないような内容であった。

 それだけに、彼女は追い詰められたような、期待と不安の混じった顔で。

 モモンガの呼び出した場所に向かう。

 

 領域守護者、守護者統率すら、許可なく近づくは許されぬ場所。

 

 ナザリック地下第十層、宝物殿の入り口へと――。

 





 次回、ナーベラルを待ち受ける運命とは!?
 堂々たるヒロインとしてついに、彼女が(やっと)活躍!

 そして、セリフすらなくマゾ豚経験値ATMとして消えたエルヤーさん。
 エルフたちは、エルフの国について事情聴取後、サキュバス化させてもらえます。

 ティアは、リング・オブ・サステナンスをもらいました。
 翌朝、朝ごはんにて蒼の薔薇の中、一人だけツヤツヤしてます。
 (全員、初ナザリックで眠れなかったり警戒しまくったりだったので)

 ようやく着地点が見えてきました。
 あと10話以内に終わるはず……。

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