［バスケットボール］３ポイントが魅力の谷村里佳　女子日本代表　五輪も決める

　４連覇を目指すバスケットボールの女子アジア・カップ（２４日開幕・ベンガルール＝インド）日本代表１２人の中に、高校、大学時代は代表に選ばれることをほとんど想像していなかった選手がいる。茨城県守谷市出身、筑波大卒の谷村里佳（２６）＝シャンソン化粧品＝だ。チームメート、指導者、そして弟のけがにも影響を受け２０歳を過ぎてから急成長。今年初めて代表候補に召集され、２０２０年東京五輪を目指している。　（藤本敏和）

　身長１８５センチの谷村が放った３ポイントシュートが、美しい弧を描いて何度もネットを揺らした。８月２５日、さいたまスーパーアリーナで行われた日本－台湾戦。谷村は１５分３３秒間で３ポイントを２本成功、さらに４リバウンドの活躍でアジア・カップの最終メンバー入りを決定的にした。

　「代表で私に求められているのは３ポイント。高校や大学ではまったくやっていなかった。シャンソンでも２点シュートが中心。求められていることをしっかりやりきりたいです」

　競技人口が多いバスケットではまれな遅咲きだ。「バスケは大学でやめると思っていました」。

　それが変わりはじめたのは、筑波大で同期のポイントガード藤岡麻菜美（ＪＸ－ＥＮＥＯＳ）と出会ってからだ。藤岡はＵ－１６から各世代の代表を経験。大学入学時から「日本代表で五輪へ」とはっきり目標を持つ選手だった。

　「あんなにバスケに真剣なチームメートは初めて。どんどん引っ張ってくれるから支えたいという気持ちになるし、バスケが楽しくなりました。『いつか日本代表で一緒にやろう』と言い合っていたけど、私は同じチームで、という方が大きくて代表はあまり真剣じゃなかったです」と、谷村は明かした。

　さらに上のステージに目を向かせてくれたのは、卒業後に所属したシャンソン化粧品を率いる丁海鎰（チョン・ヘイル）監督だった。「入団２年目に選手がたくさん引退や移籍して、私がやらなきゃという気持ちになったら、丁さんが次々といろんなプレーを教えてくれた。それが試合でも目に見えて出るようになった。初めて『早く練習に行きたい』と思いました。代表を意識したのもこのころ。丁さんがいなければ代表はなかったと１００％言えます」。３ポイントを本格的に学んだのもこの時期。試合ではゴール下に位置取りすることが多く放つ回数は決して多くないが、きれいなフォームと成功率の高さが日本代表のホーバス監督の目に留まり現在につながった。

　谷村が変わっていった理由は、コート外にもあった。２０１３年の春。当時高校２年の弟・優一さんが留学先のニュージーランドで頸椎（けいつい）を損傷。半身不随となったのだ。

　柔道の試合中のアクシデントだった。現地で半年間、帰国してからさらに半年間も入院。今も両腕は頭まで上がるが指先は動かせず、車いすもリング部分を握れないため専用の装具で操作する生活を送っている。

　「首から上は今までの優一のままなのに、体が動かせなくて。どう声をかけたらいいかわからない時もあって…」と、谷村は振り返った。

　だが、優一さんは一歩ずつ前へ進んでいった。動かない指に筆記具を握って通信制高校を卒業。補助装置付きの運転免許も取得して自ら運転して独協大へ通学。今ではパソコンのタイピングも習得し、来春の外資系企業への就職が内定。来年１月から一人暮らしにチャレンジする。優一さんは恵まれない子どもたちの施設で働く活動も続けている。「不安はいつもあります。でも、やってみて、ダメなら元に戻ればいい。（主に介助を担ってきた）母も楽観的な人なので、その影響もあるかも」と、優一さんは笑った。

　その姿は、谷村の力になった。「自分も絶対つらいのに、ほかの人を助けてあげられるって、すごくないですか。私、前は甘えん坊ですぐお母さんに電話してたけど、そういうのはもうなくなりました。弱音は絶対に吐かないです」

　優一さんがけがをしてから、家族が試合に来る回数は減ったが、谷村は「しょうがないです。自分のやるべきことは変わっていないし。でも、東京五輪に出られたら、絶対に家族全員で来てほしい」と力を込めた。優一さんも「オリンピックに出ているところを見たい。必ず応援に行きたいです」と約束する。家族、仲間の思いとともに、谷村は２０２０年を目指す。

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