174話 リムルvs暴風竜&灼熱竜
ヴェルグリンドは悠然と構えつつ、眼前の魔王リムルを睥睨する。
ルドラはヴェルドラを支配出来た事で、ギィとの勝負に勝てると浮かれているようだ。
その慢心が、今の状況に繋がったと言える。
さっさと始末していれば、魔王に悪魔達を召喚される事もなく、それこそ後はギィとの勝負を考えるだけで良かったのだから。
現状は良くはない。
あの悪魔達の中には、ヴェルグリンドでさえも簡単には勝てぬ者が混ざっているようである。
であるので、勝負は一気に終わらせなければならないのだ。
ヴェルドラと一緒に、眼前の魔王を始末する。
決意すると、ヴェルグリンドの行動は早い。
深く考えるより、直感に従い行動するのが彼女のスタイルなのだから。
「ルドラ、ヴェルドラに全力戦闘の指示を出して! コイツは早めに始末しないと危険よ!」
「ふむん。そこまで警戒が必要とも思えぬが……
まあよい。貴様がそう言うのなら、先に悪魔共の主を始末するとしよう。
ヴェルグリンドはルドラと思念での遣り取りを行い、ヴェルドラへの強制支配の実行を求めた。
未だ余裕の消えぬルドラだったが、幸いにもヴェルドラへの命令を受諾する。
ルドラの慢心を感じ取り一抹の不安を覚えないでもないが、ヴェルグリンドにしても自分とヴェルドラを同時に相手取り、魔王に勝機があるとは思えなかった。
何しろ、自分達は最強たる"竜種"なのだ。
一声咆哮をあげると同時に、ヴェルドラが動く。
ヴェルグリンドも自身の感じた不安を吹き払うように咆哮すると、魔王を消滅させるべく攻撃を開始するのだった。
"竜種"二体を同時に相手すると宣言したリムルに対し、ヴェルドラが動いた。
初撃から、全力での"
《告。"
(馬鹿やろう! 回避するんだよ!!)
直後、
回避行動が遅れていれば、直撃は免れなかったであろう。
――演算失敗? 不測事態? 理解不能――
《乱。予測では100%防御可能な―― 》
(呆けてる場合じゃねーぞ! ヴェルドラには
お前の完璧な演算結果すら凌駕するんだろうよ。いや、操作可能と言うべきか?
ヴェルドラに予測は通じない。
考えるな、直感を信じるんだ! お前も悩む必要はねーぞ!
アイツの相手は俺がするから、お前はヴェルグリンドの相手をしろ!)
《――了。理解しました 》
(頼むぞ? アイツ等も二人だが、こっちも俺とお前、二人だ。
お前は、
俺がヴェルドラを開放するまで、何としても持ち堪えてくれよ?
何なら先に、
その言葉が、
頼りにしている?
間違ったのに?
ああ……この方は、単なる演算能力に過ぎないハズの
それは、歓喜。
それは、至福。
それは――、感情の発露。
だが、同時に感じるハズのない、満たされた想いを確かに味わい――
――ああ、ワタシは今、永遠の至福の中にいる――
――そう、確かに思考したのだ。
怖れるものは最早ない。
この危機的状況にも関わらず、危険を一切感知出来ないのだ。
リムルに命じられるまま、ヴェルグリンドの
《御命令のままに、
ヴェルグリンドは、自身のブレス攻撃をアッサリと防がれた事に不快に思う。
油断せず放った攻撃であった為に、普通に攻撃したのでは相手に通用しない事を悟ったからだ。
面白くないが、熱に対する絶対防御を備えているようなのだ。
試す意味を込め、多段攻撃に数十条の
しかし多重同時攻撃でも意味が無いとばかりに、出現した
(ッチ! 忌々しい。計算されつくしたように完璧に、盾で防いでのけるとは!)
面白くない。
魔王リムルはヴェルドラに対しては盾を使用せず、回避と同種攻撃による相殺で相手をしているのだ。
それなのに、自分に対しては完全に防げるとばかりに、目も向けようとはしていないのである。
いくら『魔力感知』により全周囲を認識出来るとは言え、明らかに此方を無視したような態度が、ヴェルグリンドの逆鱗に触れた。
(私を舐めた事、後悔させてあげましょう!!)
誇り高きヴェルグリンドは、彼女の持つ最大威力の攻撃を放つ事を決意した。
強大な魔力がうねりを上げ、ヴェルグリンドから放出される。
運動量を強制的に増加させる能力を自分に使用したならば、この世界で最も速いのは自分であると考えている。
では、対象を自分以外にしたらどうなるのか?
強制的に加速を加えられ続けたら、どのような生命体であれ、肉体が加速に耐えられずにいずれは熱崩壊に至るのだ。
「死ね! 一欠片の肉片すらも残さずに、崩壊するがいい!
自分の持つ
真紅の竜の咆哮に乗せ、破滅の波動がリムルへ解き放たれる。
それは、"灼熱竜"ヴェルグリンドの放つ究極の一撃。
能力の波動振動は、回避速度を軽く凌駕し、最速たるヴェルグリンドの矜持を示す。
故に、回避は不可能。
ヴェルドラとの技の応酬を行う魔王に、回避も防御も行う余裕など無いのだ。
今までの攻撃と同じに考えているならば、多重に重なる防御結界を全て飲み込み、後悔する暇も与えられずに死ぬ事になる。
ヴェルグリンドは絶対の自信を持ち、攻撃の結果を確かめる。
そこに立つ無傷のリムルを見て、ヴェルグリンドは驚愕した。
(馬鹿な! 有り得ない!!)
回避不可能の、絶対的な一撃を、無傷で耐える事の可能な者など存在する筈がないのだ。
例え、魔王ギィ・クリムゾンであろうが、姉である"白氷竜"ヴェルザードであろうが。
何らかの攻撃や能力による相殺ならばまだしも、結界等での受動的能力による防御では防げるものではない筈だった。
「馬鹿な! 今の攻撃は結界や防御系の能力など貫く筈……。貴様、何をした!!」
「ふん。確かに危なかったけどな……直情的な攻撃過ぎて、喰うのは簡単だったぜ?」
(まあ、
そう、リムルがヴェルドラに集中しやすいように、全ては
そして、防御不可能と思われる攻撃のタイミングで、リムルに一瞬だけ動いて貰ったのである。
今の攻撃は確かにリムルへと致命傷を与えうる攻撃であり、防御は不可能であった。
しかし、
後は胃袋の中に納まったエネルギーを解析し、無効化すればよい。
いまや
そして、
「自慢の攻撃が不発に終わってショックの所悪いけど、お前は今、戦闘中ってのを忘れてないよな?」
リムルの声を認識し、その言葉の意味に気付いた時は既に手遅れであった。
《告。攻撃解析終了。
演算にて、数十秒間の封印効果を確認。『断熱牢獄』を発動します! 》
それは、
無詠唱で周囲に張り巡らされた空間支配により、ヴェルグリンドは気付かぬ間に積層型魔法陣に誘い込まれていた。
敢えて必殺技を発動させ、その直後の
「お前は暫く大人しくしてろ! ヴェルドラを開放したら、遊んでやるよ」
リムルはヴェルドラに対応しつつ、ヴェルグリンドに対しラファエルの仕込んだ檻を発動させた。
対象の特性に対応した束縛効果を、能力の組み合わせにより実現する。
言うなれば、
完全なる
リムルはヴェルグリンドが動きを封じられた事を確認し、自分の命じた任務を確実に遂行した
《告。『断熱牢獄』を発動を確認。約3分間、対象の行動を阻害します 》
(了解! じゃあ、その間に全力でヴェルドラを対処する。
手を貸せ、ラファエル!!)
《望みのままに!》
リムルは、いや、"灼熱竜"ヴェルグリンドを一瞬とは言え封じた
ラファエルの稼いだ3分間で、勝負を決める為に。
その無限とも呼べる短い時間を有効に使うべく、リムルはヴェルドラへと突撃したのである。
流石は
俺の期待に、完璧に、いやそれ以上に見事に応えてくれた。
ヴェルグリンドという最強の"竜種"が一体を、数十秒とはいえ束縛してみせたのだ。
ふん。
俺も負けてはいられない。
さっさとヴェルドラを開放して、帝国の頭である皇帝を始末する。
これ以上、クロエのように自分の意思によらずに囚われる者を増やしてはならないのだ。
さっさと帝国を潰し、ユウキを追い詰める。
やるべき事、為すべき行為は山ほどあるのだ。
躓いてはいられないのである。
(待たせたな、ヴェルドラ。ここからが本番だ!)
さっさと終わらせるとしよう。
暴風系の能力が残っていたので、ヴェルドラの攻撃を相殺は可能であった。しかし、桁外れの威力で放たれるそれらの攻撃を相殺するには、それだけで魔素を奪われるようなものだったのだ。
直接的なダメージはないが、どんどんと体力を奪われるようなものだったのである。
配下の進化の影響か、『食物連鎖』でエネルギーが補充されるから助かっているようなものだったのだ。
此方の攻撃は、直接的に通じるものは少ない。
刀による攻撃は無意味。
暴風系の能力も無意味。
頼れるとしたら、
本来の種族固有スキル『捕食』を、突き詰めるだけ進化させたような能力。
今は完全に自分の力と化した
そう、全身全て、でも。
決定であった。
暴風攻撃を
「世話かけやがって、ヴェルドラ! 勝手な事ばかりしてるんじゃねーよ!」
――クアハハハハ! ちょっとした失敗だ。許せ!――
ヴェルドラに喰いついた瞬間、暢気な声が聞こえた気がした。
(おい……意識あるのか?)
――うむ。実は、
(何だよ、じゃあさっさと身体を奪い返せよ!)
――それが出来るなら、とっくにやっているのだ。お、"黒き稲妻"を放つぞ!――
そうヴェルドラの声を感じた瞬間、"死を呼ぶ風"による強制切断能力がリムルを襲った。
慌てて回避し、自分の周囲は
(てめえ、嘘じゃねーか! 何が雷だ、風刃じゃねーか!?)
――むむ!? スマンな。どうも技を発動する感覚は判るようになったのだが――
(判った……。いい加減な事を言うのはやめろ。ミスったらアウトなんだぞ。
信用して失敗したら、笑えないんだからな?)
――了解だ。少しは役立てるかと思ったのだが、な――
(いや、無事ならそれでいいよ)
――クアハハハハ! 無事に決まっておるわ。我は最強竜だぞ!?――
(ああ、そうだな。さっさと開放してやるから、待ってろよ?)
――うむ。何も心配はしておらぬ。その為に、最悪を防いだのだ――
(最悪?)
――ああ。魔力回路を破壊する"神呪"が撃ち込まれてな。慌てて"魂の回廊"を切断したのだ。何しろ、あの因子は魔力回路を伝わり、お前にまで影響を及ぼしただろう故に――
(何? じゃあ、敵の能力で壊されたのではなかったのか?)
――うむ。強力な能力で、防御が遅れてしまった以上、被害を少なくするにはあの手段しかなかったのだ。お陰で、"支配効果"に
(威張るなよ。何やってるんだよ、全く。
だから油断するなよって常日頃から言っているだろ!?)
――クアハハハハ! この状況で説教されるとは思わなかったぞ!――
(もういいよ、無事なら。無事なんだろ?)
――無事と言えば、無事だな。"魂の回廊"を壊す際、
成る程、ね。
だが、
(
《告。
じゃあ、問題解決である。
要するに、目の前のヴェルドラを倒し、ヴェルドラの
(待ってろ。直ぐに自由にしてやる)
――クアハハハハ! 頼もしいな。信用しているとも、
ああ、直ぐに解き放ってやるよ。
問題は解決した。
ヴェルドラを開放する方策も判ったのだから。
後は実行するだけ、簡単なのだ。
さて、倒すとするか。
最強である、"暴風竜"ヴェルドラを!!
感想を貰えるのが大好きなので、大量の感想嬉しいです。
しかし、返事がなかなか出来そうもありません。
全て目を通しておりますので、ご了承下さい。