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【社会】

米国への追従、高まる危険 安保法成立4年 中東関係者に聞く

 集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法の成立から19日で4年。米トランプ政権は緊張が続く中東・ホルムズ海峡付近での安全確保を目指す有志連合構想への参加を日本にも求め、自衛隊派遣の可能性も浮上している。元外航船員や中東に駐在した元商社マンは「米国の戦争に巻き込まれるおそれが、より現実味を増してきた」と危ぶむ。 (小倉貞俊)

中東諸国との関係を懸念する本望隆司さん=さいたま市で

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 「安保法制は、これまで友好的だった中東諸国との信頼関係を破壊し、石油の供給も危うくする」。こう話すのは、外航船の元一等航海士、本望(ほんもう)隆司さん(77)=さいたま市西区=だ。約四十年、海運会社で石油を運ぶ大型タンカーを操船。一九八〇年に起きたイラン・イラク戦争中も、ホルムズ海峡を通って日本とペルシャ湾を往復していた。

 当時、イラン、イラク両国は湾内のタンカーを攻撃したが、「日本は戦争を放棄した憲法のおかげもあり、両国と『日本の船は攻撃しない』との約束を取り付けていた。ペンキで甲板と船体横に大きく日の丸を描き、他社の船と船団を組み航行した」と本望さん。攻撃はされなかったという。

 本望さんら乗組員は「行きたくなければ船を下りてもいい」と会社から告げられたが、「自分一人、下船できる雰囲気じゃなかった。『命を狙われる戦地に行くんだな』と実感した。偵察機が上空に飛来するたび緊張した」と振り返る。

 今年六月、ホルムズ海峡付近で日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃されるなどし、米国は海峡付近の安全確保を目指す有志連合構想への参加を各国に要請。日本側は回答を留保している。

 本望さんは「自衛隊を派遣すれば、余計な紛争に巻き込まれるし、中東諸国との関係悪化が石油危機にもつながる。外交交渉を重ね、平和を守っていくしかない」と訴えた。

日本の米国追従を危ぶむ浜地道雄さん=東京都千代田区で

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 また、総合商社の駐在員として中東赴任経験がある国際ビジネスコンサルタント浜地道雄さん(75)=東京都港区=は「安保法の成立以降、現地の日本人の安全が突然おびやかされても、おかしくない状況になっている」と指摘する。

 浜地さんはニチメン(現・双日)の石油部の駐在員として約五年間、イランとサウジアラビアに滞在し、七〇年代の石油危機の時期には買い付けに尽力。その後もたびたび長期出張で現地を訪れた。イラクの首都バグダッド滞在中にイラン・イラク戦争が勃発(ぼっぱつ)。駐在員の家族らの安全確保のため、ヨルダンに出国できるバスの手配に奔走した。

 「バグダッドで空襲警報が響きわたり、市街地に装甲車両が走って緊張感が高まった。爆音で低空飛行する敵機や逃げ惑う群衆の混乱など、恐ろしい光景に直面したが、中東の人は親日的で敵対した態度を取られることはなかった」と浜地さん。「安倍晋三首相がトランプ大統領に追従している今は、不安が多い。日本人が米国側だと敵視されれば、標的にされるなど一層の危険にさらされかねない」と語気を強めた。

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<安全保障関連法> 2015年9月成立、16年3月施行。自衛隊法や国連平和維持活動(PKO)協力法など10の法改正を一括した「平和安全法制整備法」と、他国軍の後方支援目的で自衛隊を随時派遣可能にする「国際平和支援法」からなる。密接な関係の他国が攻撃を受けて日本の存立が脅かされる場合を「存立危機事態」とし、他に適当な手段がないなどの「武力行使の新3要件」を満たせば、集団的自衛権を行使できるとした。法案審議で政府は集団的自衛権を行使するケースについて、米とイランが戦争状態になり、イランがホルムズ海峡を機雷封鎖した結果、日本への原油供給が断たれ「存立危機事態」と判断する状況を例示。その後、現実的でないとして事実上撤回された。

 

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