女性クリエイターが活躍するメリット
CGW:帰国後、CGスタジオのStudioGOONEYSに移られましたが、どういった理由からでしょうか? また、ゲームと映像の仕事で何かちがいを感じられたことがあれば教えてください。
西谷:ニュージーランドで働いていた頃、一時帰国した際にデジハリの同級生と飲み会で近況報告をしたり、作品を見せ合ったりする機会がありました。StudioGOONEYS代表の斎藤瑞季さんも同級生の1人でした。
その後、Weta Digitalでの契約が終わったころ、StudioGOONEYSで映画『東京喰種トーキョーグール』(2017)のアニメーションの仕事を受けていたきっかけで、半年間だけ制作のお手伝いをさせていただきました。
西谷氏ショーリールより、映画『東京喰種トーキョーグール』の1コマ(西谷氏担当分)
西谷:映像系のアニメーションの仕事は初めての経験でした。ゲームのアニメーションが360度どこから見ても破綻しないようにつくらなければならない一方で、映像系のアニメーションでは最終的に見た目が良ければいい、という考え方が新鮮でした。そこでつくりこみに関する考え方のちがいを学びながら、とても楽しくやらせていただきました。
CGW:その後、NHKアートを経て現在はDeNAで働かれていますが、モバイルゲーム開発の魅力について、個人的に感じられていることがあれば、教えてください。
西谷:映像作品はレンダリングしてしまえば良いので、UV展開なども割といい加減ですし、ポリゴン数やテクスチャサイズにあまり制約がありません。これに対してモバイルゲームでは、ポリゴン数やテクスチャサイズなどに制約があります。制約の中でどれだけ良いものをつくれるかというのが、モバイルゲームの開発の醍醐味ではないかと思います。
CGW:これまでのキャリアをふり返られて、いかがでしたか? また、今後の抱負などがあれば教えてください。
西谷:人生100年時代といわれる時代で、ちょうど折り返し地点に来ましたので、ふり返るには良いタイミングだったと思います。近道もあったと思いますし、失敗もしてきましたが、人生の目標の1つであるWeta Digitalに入るという夢は達成できたし、満足しています。
今後は、自分の今まで積み上げてきた知恵や経験を次の世代に共有できたらと考えています。ニュージーランドの永住権も保持していますし、またチャンスがあれば、海外で働くこともチャレンジしていきたいです。
CGW:ゲーム業界では、世界的にも女性のクリエイターが約2割となっています。映像業界でも男性中心社会であることに変わりはありません。この原因はどこにあると思われますか?
西谷:女性は結婚や出産などのライフステージの変化があるため、クリエイティブな仕事がしたいと思いながら、途中でキャリアチェンジを考える方も少なくないように感じます。世の中、特にエンタメやITの業界はどんどん進化していきますし、常に最新の知識を学ばなくては、時代に取り残されてしまいます。
子育てなどで、自分の勉強の時間をなかなか取れないことは、クリエイターにとってはマイナスです。そういう意味で女性クリエイターが少ないのかなと感じます。
CGW:女性のクリエイターが増えることで、業界にどのようなメリットがあると思われますか? そのために改善点があるとしたら、それは何でしょうか?
西谷:女性目線の提案が、物事を良い方向にもっていくこともあると思います。
例えば、全世界に大ヒットを飛ばした『アナと雪の女王』(2013)では、長編映画としては初めて女性監督が起用されています(クリス・バック&ジェニファー・リーのダブル監督)。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ自体も、男性と女性のバランスがとても良いスタジオだとお聞きしました。
クリス・バック監督もジェニファー・リー監督について、「ジェニファーが参加してくれたことで、自分だけだったら典型的な動きや味付けをしたところを、女性ならではのアイデアでアナやエルサをよりリアルに感じられるキャラクターにしてくれたと思います。世界中の方に気に入られているキャラクターを生み出せたのは、実に彼女の貢献が大きいです」と、来日された際の記者会見でコメントされていました。
身近なところで言うとゲーム制作では、女性ウケの良いかわいい動物やキャラクターの制作などが得意な女性も多いですし、女性目線のアイデアや提案がゲーム全体のイメージアップにつながることもあるかと思います。そういうところがメリットかなと思います。
もっと多くの女性が活躍してほしいですね。女性の社会復帰を支援する制度が充実した会社が増えれば、女性クリエイターも増えるのではと思います。