「国債発行額が増えれば増税につながる」というウソ

平成29年度の政府のBSを見ると、確かに政府は「公債/966兆8986億2800万円」「政府短期証券/76兆9877億9300万円」「借入金/31兆4434億4900万円」といった借金をしている。これをもって、「借金がたくさんあってけしからん」という声をよく聞く。

すでに述べてきたように、BSの右側のお金は左側へと流れている。つまり変化している。政府の「負債」は、多くの場合「資産」に変わっているのである。

お金をどのように使ったかは、企業の場合にはPLに明らかにされる。政府の場合、PLに相当するものが「予算書」だ。予算書は一般会計だけで1000ページ、特別会計まで含めると2000ページにもなる。在職の官僚ですら読みきれるものではないから詳細は放っておいてよい。基本的なところをおさえておこう。

政府の場合、税収ではまかないきれない支出を補うための「建設国債」と「特例国債」というものがある。インフラ整備など「建設」に関わる費用をまかなうのが建設国債で、それ以外が特例国債だ。

この特例国債が一般的に「赤字国債」などと呼ばれてイメージを悪くしている。国債にはもうひとつ、「財政債」と呼ばれるものがあるが、財政債はBS上で資産に変わる公債だからまったく問題ない。

「建設国債」と「特例国債」は、国家運営に必要な「費用」を得るために発行されるものである。「政府は借金をするな」つまり「国債を発行するな」とした場合、どうなるだろうか。政府の収入は税金だけになる。「足りなければ増税する以外になくなる」ということは明らかだろう。

増税は天下りを助長する可能性すらある

借金がダメならば、政府は増税をしてBSの右側を増やさずに、左側の資産を維持することになる。政府のBSをみれば明らかだが、政府の資産の多くは「有価証券」だ。「有価証券」は相手先法人への天下りの源泉になる。つまり、国民の税負担によって、「お金と権力の関係」を維持することになる。

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「借金をするな。費用を支払うのも資産を得るのも税収だけを財源とせよ」と言うのは、「足りなければ好きなだけ増税せよ」と言うのと似たようなものである。政府にとって借金はあって当然で、なくては国家運営が成り立たない。もちろん、どの程度までの借金が許容範囲なのかという問題はあるが、それは、すでに政府のBSと日銀のBSで見た通り、今の日本政府の財務状況に問題はない。

もちろん国債は借金だから、期日までに必ず利息と元本を支払わなくてはいけない。「償還費には税金が使われるから、国債発行額が増えれば増税につながる」という批判をよく聞くが、これはミスリーディングである。国債の償還は、借り換え債で対応することが原則だ。

たとえば100万円の国債が償還期日を迎えたら、あらたに100万円の国債を発行して償還する。これを繰り返す。結果的に借金の残高は変わらないことになる。

政府の借金が一向に減っていかないのは、償還期日が来るたびに借り換えているからである。実質的に政府は借金を返していない。返していないところで税金が使われるはずはない。それでも、経済成長していけば、経済規模との関係でみれば実質的な借金残高は減少するので問題ない。

会計的な思考が身につくと、こういったことが数字で明確に確認できるようになるし、進んで数字で確認するようになる。

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