「わたしは教えることができない。無理。」
「あの子はあの子の道があるでしょ。」
「あの子がやる気を出せば済む話でしょ。」
私の兄は、
神童だった。
聞いた話によれば、3歳の時点で英会話ができ、アルファベットを判別したらしい。
小学中学、成績表は5段階評価で、
学問と言われるものには、きれいに「5」が並んだ。
中学、高校では生徒会長になったらしいが、わたしにはまったく興味はなかった。
わたしとの思い出は、
小学校に上がる前までさかのぼる。
兄が遊ぼうと、百科事典をもちだしてきた。
「この中でいちばんつよい動物が勝ちだ」
兄はひらいて3歳年下のわたしから勝利を得ていった。
本当にそれくらいしか思い出せない。
人の手による操作がある運命ならば、わたしは戸籍上兄はいるが、
ひとりっこだった。
天才の兄。
まわりからはうらやましがられた。
「仲がいいわねー うらやましいわ」
彼らは何を見てそう言うのだろう。どこをみたら?
一度だけ母親が頼んだことがある。弟も一緒に遊びに連れていけと。
「いやだ、こいつがいると邪魔。」
自分が機嫌のいい時だけ、自慢話をきかせ、
ひとりで遊んでいるときにそのおもちゃを横取りし、
いじめられていたときに、見ている。
そのときわかった。
そういうものなのだと。
頼れない兄。