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 高校と大学の双方がこれだけの不安を感じている。強行すれば、不信と混迷を引き起こすおそれが極めて高い。今が立ち止まる最後の機会だ。

 大学入学共通テストに英語の民間試験を使うことについて、「問題がある」と考える大学が全体の約3分の2、高校では約9割に及ぶことが、朝日新聞と河合塾の共同調査でわかった。

 全国高校長協会は今月10日、文部科学省に実施の延期を申し入れている。7月に「不安の解消」を求めたが改善されないため、さらに踏み込んだ。同協会の調査に7割近い校長が「延期すべきだ」と答えたという。

 計画では、民間試験は今の高校2年生から導入される。来年4月から12月の間に2回まで受験することができ、結果が大学の合否判定に使われる。

 内閣改造で文科相に就任した萩生田光一氏は「やめることによる混乱」に言及した。たしかに高2生は、「読む・聞く」に「話す・書く」を加えた4技能試験を前提に、勉強に取り組んできた。民間試験の活用方針を公表した多くの大学も、見直しを迫られることになる。

 だが、そうした混乱を上回るほどの混乱が心配されている。とりわけ問題視されるのは、家庭の経済力や住んでいる地域がもたらす格差だ。

 民間試験は全国で均等に行われるわけではなく、都市部ほど有利となる。受験料もばかにならない。文科省は所得の低い世帯への受験料の減免や、離島の受験生に対する試験会場までの旅費の支援を打ち出すが、対象は限られ、十分とはいえない。

 加えて、試験日程や会場など現時点で定まっていない事項が多く、結果を合否判定にどう活用するのか、方針を決めていない大学も少なからずある。「本番は刻々と近づいているのに、一向に全体像が見えない」という受験生や教育現場の不安は、ふくらむばかりだ。

 文科省は期限を切って、抜本的な対策を早急に示す必要がある。それが見込めないのであれば延期は避けられまい。

 懸念は以前から指摘されていたのに、文科省は「2020年度実施ありき」で突っ走ってきた。4技能を学ぶ大切さを否定する人はまずいない。だが、数十万人規模の受験生に公平に受験機会を与えられるのか、公平公正な合否判定がなされるのかという根源的な疑問への答えは、いまだ示されていない。

 今回の改革には入試をてこに英語教育のあり方を変える狙いもあるだろう。ならばなおのこと、受験生、保護者、高校、大学の声をくみ、大方が納得できる試験制度に仕上げなくては、その実現はおぼつかない。

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