実際、明治の製菓部門の営業に携わる現役社員からは、こんな不満が漏れる。
「数年前から『スナック菓子から撤退する』という話は出ていました。スナック菓子はかさばって、運送コストがかさむため、『空気を運ぶ』ようなものなんです。
『R-1』をはじめ、利益率の高い機能性ヨーグルトがヒットしている旧明治乳業側からすれば、利益幅の薄いスナック菓子について『なんで儲からないのに続けているんだ』と歯がゆい思いを持っていたのでしょう。
とはいえ、旧明治製菓の人間にとって、カールは発売半世紀を迎えるシンボル的な存在です。明治乳業側の中止要請について、激しく抵抗してきました。
しかし、現在の明治の社長は明治乳業出身ですし、社内でも利益率の高い商品の多い旧明治乳業のほうが力を持っている。ついに押し切られたというわけです。
カールと同時に、'70年から販売してきた『ピックアップ』というスナック菓子も製造中止を発表しました。これからは利益率の高いチョコレートやガムに力を入れていくというのが、会社の方針なのです」
儲からないロングセラーより、儲かる新商品に注力するのは当然だ。いや、誰もが知るブランドに育った商品を一度、捨ててしまえば、取り返しがつかない――。
カール撤退派と存続派が意見を戦わせる「経営会議」は、紛糾を続けた。
ただし、佐藤氏はこう説明する。
「明治製菓と明治乳業が同じ会社になって、もう10年近く経つわけです。組織と組織の軋轢で、カール(の東日本での販売)が止めになったなんてことは絶対にない。
もちろん、昔からやってきた人の思い入れと、合併後からやっている人の思い入れは違うこともあるでしょう。ただ、軋轢なんてことは一切ない。
カールのようなロングセラーを積極的に止めたいなんて人は、社内にほとんどいないんですよ。それは乳業出身であろうが、関係のないことです。ゴルフ場に行っても、キャディに『カール、どうしたんですか?』と聞かれるんだから」