元会長が激白!明治が泣く泣く「カール」から撤退するまで

「経営会議」は大紛糾した
週刊現代 プロフィール

なぜ西日本では続けるのか

明治の歴史は、スクラップ&ビルドの繰り返しでもある。長い間愛された商品であっても、熟慮の末に時代にそぐわないと判断すれば、大胆に「捨てる」という決断を下してきた。

佐藤氏が続ける。

「一番古いのは、(1921年に発売され、'15年に販売終了となった清涼菓子の)『カルミン』です。これも、ブランドを存続させるため、原価を安くすることができるシンガポールにまで生産工場を持っていったりした。ただ結局、原価を下げても売れなかった。

我々だって、みなさんが思う以上に、商品への気持ちの入れ方は強い。それはどの商品だって同じで、とくに長いブランド商品はなおのこと。ちょっと売り上げが落ちたから止めたというのは、今まで一つだってない。

たとえば、『マーブル(チョコレート)』だって、昭和30年代に比べたら売り上げが落ちている。だけど、いまだに続けている。これが、何かの拍子にまた好調になることだってあるかもしれない」

Photo by iStock

ロングセラー商品への愛着と会社としての利益の追求――。この二つのせめぎあいの中で、明治が下した決断が、東日本での販売中止だったというわけだ。

今後、カールは明治の子会社、四国明治が愛媛県に持っている松山工場で、西日本向けにだけ生産される。その背景を、佐藤氏はこう話す。

「やはり全部止めるのは忍びなかった。なおかつ、松山の工場なら生産ラインが空いているという条件もあった。空いているんだったら、長く続いたブランドなので、生産を続けていこうということです。

ただ、それによって状況がどうなるかはわかりません。今は『閉店セール』のようなもので、一時的に売れてはいるみたいですが。

他の工場は、どんどんチョコレートの設備に変更していく。残念なことです。とはいえ、うちは明治製菓の頃からチョコレートが主力であることは間違いないんです。そのチョコレートだって販売を止めてきた商品があるわけです。

今回の東日本地区でのカール撤退は、総生産力の問題とカール自体の売り上げが落ちてきていることから決まりました。カールは一ヵ所で生産して、全国に配るのが難しい商品なんですよ。かさがはるので、物流費が高くついてしまう。チョコレートより遥かに物流費がかかるんです。これまでも非常にジリ貧だった。

現在、会社が菓子で力を入れているのが、一にチョコレート、二にグミです」

 

とはいえ、カールの販売を西日本では続ける、という玉虫色の決断に疑問の声も上がる。全国紙経済部デスクの話。

「まず、あれだけブランド力のある商品を手放すことに疑問を感じます。新しい味の開発やデザインの変更など、やれることはまだあったのではないか。一度なくなったブランドが復活することはありませんから。

一方で、止めるのであれば、西日本での販売をダラダラ続けるのではなく、全国でスパッと止めるべきだったでしょう。

たとえば、カルビーが典型的ですが、彼らが経営を立て直したのは、コストダウンを行って、商品価格を下げ、商品の市場シェアを上げて売り上げを伸ばし、工場の稼働率を上げたからです。

儲からない商品は作らないという、ある意味、単純な方法で成功を収めた。これに倣うなら、カールを中途半端に残すという選択は失策でしょう。経営的にはありえない選択だと思います」