政治色が薄くなった二・二六映画
その後、先鋭化の一途をたどった新左翼運動は、1970年代に入り、連合赤軍事件や各セクトによる内ゲバなど凄惨な事件があいつぐなかで退潮していく。1980年に公開された『動乱』(森谷司郎監督)が、二・二六事件を描きながらも、政治色の薄い作品となったのは、そうした時代の変化も影響しているのだろう。
『動乱』では、高倉健と吉永小百合という日本映画のトップスターが初めて共演をはたした。物語は、高倉演じる宮城大尉と、貧しい農家から身売りに出されてからというもの数奇な運命をたどった薫(吉永)という女性の関係を軸に展開し、最後には二・二六事件のあと宮城が処刑される。ただし、宮城も薫はいずれも架空の人物であり、決起する青年将校の名前もすべて別の名前に変えられている。本作でも二・二六事件はあくまで背景でしかない。
農村から身売りされた娘が、国を憂う青年将校と互いに惹かれあっていくという構図は、二・二六事件をとりあげた作品の一つの定型になっている。1991年に公開された『斬殺せよ』(須藤久監督)でも、貧しい農家に生まれ、娼婦に零落した女性と青年将校の悲恋が描かれた。
脚本家が不満を訴えた大作『226』
昭和から平成に改元された直後に公開された