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二・二六事件は映画・ドラマでどう描かれてきたか。大河ドラマでは「いだてん」で35年ぶり2度目の登場

出演するのは三島と鶴岡淑子の二人だけ。あらすじは墨書による英文)を示され、セリフは一切なし。能舞台という現実離れした空間で演じられる一方、三島扮する武山中尉が切腹する様子は凄惨なほどリアルに描かれた。まさかその4年後、三島がまったく同じ形で死んでしまうとは、このとき誰も(ひょっとすると本人でさえも)予想しなかったのではないか。

余談ながら、三島はこのころタクシーに乗った際、運転手が映画『宴』の看板を指しながら「先生の『宴』という小説は大当たりですね」と話しかけてきて閉口したというエピソードがある(『二・二六事件の幻影』)。運転手はたぶん三島の小説『宴のあと』と混同したのだろう。いずれにせよ、『宴』と『憂国』はまったく色合いは異なるとはいえ、舞台背景として二・二六事件をとりあげた点で共通する。

学生運動の隆盛のなかで


映画『憂国』の公開と前後して、政治活動にのめり込んでいった三島由紀夫は、1968年には私設防衛組織「楯の会」を結成する。三島が行動を過激化させていく動機には、若い世代による新左翼運動が激化していたことへの懸念もあった。ただし、当時、学生運動に参加していた若者たちには、三島の小説や任侠映画を好んだりと、どこか右翼的な心情にも共感する者も少なくなかった。

東映が製作した『日本暗殺秘録』(1969年)はそうした時代背景から生まれた作品だ。高倉健や藤純子、菅原文太など当時の東映のオールスターキャストで撮られた同作は、幕末の桜田門外の変に始まり、明治・大正・昭和と各時代の暗殺者の群像を描いたもので、最後は二・二六事件で締めくくられる。監督の中島貞夫は公開当時、《戦前の若いテロリストと七〇年[引用者注:日米安全保障条約の延長が予定された1970年]を前にした学生たちの心情を比べてみたい》と、その企図を説明していた(『二・二六事件の幻影』)。二・二六事件編の主人公ともいうべき磯部浅一に扮したのは、任侠映画で高倉健と並んで絶大な人気を集めていた鶴田浩二である。

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