Raspberry Pi 4 modelBは通称「ラズパイ4」と呼ばれ、イギリス発祥のシングルボードコンピューター(SBC)です。当初は教育用として開発されました。これまで2013年からいくつも異なったモデルが発売され、ボードの性能は進化し、2019年6月にモデルB(長方形)のナンバリングタイトル最新「4」がリリースされました。
(※記事執筆時点で日本での販売は未定のままです。最新のラズパイ4も日本で手に入る見込み)
ラズパイ4は、現在までに手に入るこれまでのラズパイより、一線を画す程に性能がアップしました。
そのため、性能を見ただけでPCの代替と考えられる向きもあります。
しかし、あくまでもシングルボードコンピューター(SBC)の発展系という点は忘れてはなりません。PCが小さくなった訳ではないのです。
こういったSBCが一般的ではないためか誤解も多く、よく解らないというのがほとんどの人の感想でしょう。
そこで異なる点を中心にラズパイとラズパイ4の特徴からタイトルのようにPCではない点をご紹介します。
Raspberry Pi 財団の主なこだわり
日本の職人のように、Raspberry Pi をリリースしているRaspberry Pi 財団にもある種のこだわりがあります。
正確には、前提条件、または理念というのでしょうか。
これが根底にあるため、商業的なPCとは異なっています。開発にあたり制約があるということです。
ラズベリーパイ財団という団体からも想像できるでしょう。完全な営利目的の組織ではありません。
シンプルに、以下3点が基本にあります。
- 教育用途
- 価格は$35
- 幼児から大人までプログラミングを体験できる(格差なし)
実際、2013年に最初Raspberry Pi が発売されてから世界に注目されました。私はその価格に驚きましたね。
これまでの購入者や利用者は、教育用とは別に産業用途に使う人が半分を占めていました。(※2016年に来日した開発者Eben Upton氏のインタビューより)
ですから教育用ではあっても実際にはデジタルサイネージのSTBであったり、工場の生産管理の一部機能とした役割、家庭用ならファイルサーバー、エンターテイメントとしての利用が盛んなのが実態です。
2番目の価格もすべての人に対して「手に入りやすい」環境のためと思われます。
教育用という意味でも、経済的な格差という意味でも、プログラミングのチャンスの敷居を低くするということです。
正直なところ、日本はだいぶ遅れています。世界ではそろそろRaspberry Pi を使った小学生が、高等教育を卒業し、GAFAなどの最先端企業へ就職、または自ら起業するような時代がやってくるでしょう。
ラズパイは電子工作も含めてプログラミングコードを学ぶには適しています。
セットアップも簡単ですし、本体一式の金額だけでプログラミングを学ぶ環境が整います。Appleも教育にチカラを入れていますが、やはりMac本体やiPadはかなり高価な部類に入ります。
イニシャルコストが35ドルで、他は無償となり、Webで検索すれば先駆者達が多いという環境は大きいと思います。
・・・ちなみに、オヤジ世代も同じか? 金ない、知識ない、覇気も無い・・・?
おいおい!同じように取り組んで、子供に教えてもらえばいいのでは?!
ラズパイ4はPCライクであってもPCではない
ラズパイは教育用という前提で開発されていますから、スペックだけを追求するわけにはいきません。
少し乱暴ですが、簡潔にいえば、$35で収めるのに最新チップばかりを設計できないと言えます。
現代のPCはかなりハイスペックです。
性能をフルに使う必要はありませんが、ほとんどの人には必要が無い性能です。IT企業でなければ、職場で高性能なマシンなんて要りませんよ。むしろ高速インターネット回線の方が重要だと思っています。
そんな中、今回のラズパイ4は、これまでのラズパイよりもかなりハイスペックになりました。
特にメモリーが最大4GBまで選べるようになったことは大きいです。複数の処理をこなすには、これまでの1GBでは足りませんでした。
モニターを2枚同時に使用出来る「デュアルモニター」にも対応しました。しかも4KまでOKです。これが標準ですから、とても35ドルのボードに思えません。
地味ではありますが、USBもやっと3.0に対応しています。これまでのようにUSB2.0がネックで、microSDカードという速度の遅さと相まって、ファイルのやり取りに苦労してきました。
比較してはいけないと思う
たった価格35ドルのボードを、Windows10が載るようなマザーボードと比較することは間違いだと思います。
そもそもの設計思想も異なります。
スペックが高くなったと言っても歴代のラズパイと比べた場合の話です。PCという括りでは驚くような性能ではありません。
かといって、デスクトップ環境として代替できないのかということもありません。
使ってみれば分かりますが、家庭用であれば全く支障もありませんし、企業活動でもメインPCでなければ用途限定とはいえバリバリ使えます。恐らくシンクライアントとして重宝するでしょう。
同じ動物でも犬と猫を比べても意味が無いように、逆にラズパイ4が本体ボードだけで1万円以上するなら、ハッキリいって低スペック過ぎますから、単純な比較は意味がありませんね。
時計機能はない
相変わらず時計機能であるリアルタイムクロック(RTC)はありません。
ただの時計と思うなかれ、アプリケーションやOSの機能によっては常に時刻を確認する必要があります。
分かり易いのは、ログであったりサーバーにおける更新日時であるタイムスタンプは、RTCがないので電源を切る度にズレますから意味を持ちません。バグる以前の問題です。プログラミング的にしか対応できないので、永続の利用には適しません。
もちろん、RTCのチップを別途で載せれば時計は所持できますが、アプリケーションとして連携しないとなりませんから、初めからの設計に含まれていないという意味でPCとは異なります。
OSの基本はLinux
ラズパイ公式のOSはLinux系のDebianを元に開発した「Raspbian」です。
これは進化しており、現在ではデスクトップ環境としてかなり使い勝手も向上しています。
しかし、やはりLinux系ということで、初心者やこれまでWindowsに慣れてきた人には敷居はだいぶ高いでしょう。
子供の頃にはじめて触るマシンがLinux系ならば、逆に支障はあまりありませんから、Windowsより先に触らせたいですね。
特にWindows系では当たり前のソフトウェアは動きません。大手の商品を購入するという概念がそもそもありません。
かといってWindows系と同じようなことができない訳ではありませんから、使い慣れないだけで大差はないと思います。むしろLinux系が得意な分野もあるので用途に寄るでしょう。
単にこれまでのマシンと同様に使いたいと考えてラズパイ4を購入しても、多くの人が不満を持つことは明白です。
但し、異なるという点を理解していれば代替機として重宝するでしょう。
個人的にラズパイ4は、格安にPCの代替として利用できるスペックと思っています。
※ARMプロセッサを搭載したラズパイではWindows10はインストールできません。動きません。IotコアというWindowsはなんとかすれば動きますが実用に耐えないうえ、ソフトはほぼまともに入れられないのでWindows10として使えないため意味はありません。
そもそもラズパイにWindows10を入れる意味がありません。
具体的にどう使う?
このようにラズパイ4はPCライクな性能になったものの一般的なPCではないので、同じように考えても仕方ありません。
では、性能が上がったラズパイ4はどういった場面なら活用できるのか考えてみました。
これまで通りのプログラミング学習用
これまで通り、GPIO端子を使った電子工作も、メモリーの増量とCPUの性能アップも含めてトータルで処理能力が上がりましたから、より高度なことができるでしょう。
単にLEDの電子工作学習であればラズパイ4は必要ありません。しかし、それもできます。
グラフィカルなプログラミング言語のScratchを利用して、表現力は格段に上がるでしょう。音や映像を使ったよりリッチな環境を組み込むことも可能になります。
大は小を兼ねるので、複数台を持つよりも、ラズパイ4でアレコレと試すことが可能になります。
快適な環境で学習
仮に4Kではなくても、デュアルディスプレイの環境なら、単純に作業効率は格段に上がります。
これまでマルチコアを装備していても肝心のメモリーが足りずに処理オチが多かったことが減ります。速度の面でも使用していて遅いという感覚もだいぶマシになったと感じると思います。
デスクトップ環境として
有名なWord、Excelといったソフトは使えないにしても、オフィスソフトは入っていますから、互換性の意味でビジネス用途として使わないならば、使えるアプリケーションはたくさんあります。
インターネットを利用した作業に関しては、PCと同じように使え、全く見劣りしません。
マイナーなデスクトップマシンとして
日本語環境であるIMEもibus-mozcというGoogle 日本語入力のオープンソース版がインストール可能です。だから、現在はあまり困ることは少ないと思います。
音楽や映像も問題無く再生され、テキストも気持ちよく打て、インターネットのブラウザも大半の人が利用しているChromeのオープンソース版Chromiumブラウザが標準で利用可能です。
公式OSのRaspbian自身が使いやすくなってきているので、ハードウェアの性能も含めトータルで快適になってきています。
- デュアルディスプレイで広いデスクトップで作業
- USB3.0で繋いだ外付けHDDなら、ストレスなくファイルのやり取りも可能に
- 高速5G帯に対応したWi-Fiと高速なギガビットイーサネット
- 音楽、動画をストレスなく視聴可能
これってまるで自宅のデスクトップですよね。
ラズパイはマニア受けする物ですが、セットアップ済みのラズパイをデスクトップとして使うには、逆に初心者の人は必要充分と思えるのではないでしょうか。
ロボット・AI開発
これまでもラズパイはロボットやAIの開発に使われてきました。しかし、性能が上がったことで、より複雑なことが処理できると思います。
やはりメモリーが4GBというのは大きいと個人的には思います。色々な処理を動かす場合、どうしてもメモリー不足に悩まされます。
サイズはそのまま
何よりもボードのサイズがあの小さい名刺サイズのままほとんど変わらずに、ラズパイ4は性能がアップしています。サイズは重要で、組み込むのに最適であり安価なのでそこまで取り扱いに気を遣わなくても大丈夫です。
放熱に注意!
実は放熱に関してまだ初心者には知られていませんが、今回のラズパイ4は電源周りに問題を抱えていて、残念ながらCPUなどが発する熱に関してもPCライクになってしまっています。
PCライクに寄せてきた結果、PC同様な冷却ファンや、通気性の確保されたケースというのが必須になります。
これまでのようにヒートシンク程度で密閉されたケースで問題無いことはありません。
かといって、それで壊れるということではなく、かなりパフォーマンスが落ちます。
通常に使用する分には感じないかも知れませんが、CPUに負荷が掛かる処理をすれば、あっという間に80度に達し、ヒートスロットリング機能が動作します。
その意味では、ケースを中心に自作PCライクに対応する必要が出てきましたので、注意してください。
最後に
今回のラズパイ4は、その拡張された機能からも、デスクトップ環境として使うことに特化してきました。
だから、これまでと違い何かに組み込んだり、電子工作よりも、常にディスプレイとキーボードとマウス、そして外付けHDDなどを繋げて、デスクトップ環境で作業するのに適しています。
4GBモデルは少し高価になりましたが、それでも通常のデスクトップマシンを用意すると考えれば10分の1の費用で済みます。
お子さん用はもちろん、大人でもセカンドマシン、サードマシンとして家庭内や職場でも活用できると思います。
2020年からの小学校のプログラミング教育で、ラズパイが今より注目を集めて、もっと使い勝手が向上するといいですね。
今回の記事のように(偶然)ラズパイのオフィシャルマガジン「The MagPi マガジン」でも同じように取り上げています。そちらもどうぞ。
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