目深に被った、トレードマークの白い帽子の下は丸刈り。クールで知られる男が、髪を切っていた。だが、右脇腹を何度も抑えるしぐさが、大迫傑の苦闘を隠せなかった。
日本記録保持者の意地で、最終盤には一度、勝者・中村匠吾に並びかけたが突き放され、後ろから来た2位・服部勇馬にも逆転を許した。
「最低限でも2位を狙っていたが、中途半端な3位。悔しい」。オリンピックなら銅メダル。だが、日本が編み出したMGCは非情である。プレスルームに作られた会見場のひな壇に、3位の選手は呼ばれない。2位の服部との差は、わずかに5秒。
この5秒が、新たな悩みとなる。日本陸連は、この冬から来春にかけて「MGCファイナルチャレンジ」と呼ばれる福岡国際、東京、びわ湖の3大会のいずれかで、2時間5分49秒以内で走ったトップの選手1名に、残り1枚の切符を与える。該当する選手が現れなかったら、この日3位の大迫に切符が渡る。
大迫の持つ日本記録は、ハイレベルな2時間5分50秒。首の皮は確かにつながったかに見える。だがこの日、マラソンは何があってもおかしくないことを証明した。「ファイナルを走るかどうかはコーチと相談して…。待つしかないのか、自己ベストを狙うのか…」。クールな男がうめいた。(満薗文博・スポーツジャーナリスト)