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どうぞ どうぞ こちらです。
(孝蔵)<昭和36年 秋>
(五りん)ごめんください。
前は こっちが店だったそうですが手狭になっちゃって…。
(五りん)金栗足袋…。
おっ… えっ? あっ あっ 金栗!
店舗は大通りに移転したんです。
あの… 2階は?
倉庫ですね 今は。昔は 人に貸してたみたいですけど。
すいませんね 社長がいりゃ分かるんでしょうが あいにく…。
先代も 近頃 足があれで。ねえ 辛作さん?
(ミシンの音)
あっ…。
ひもだけど ゴム底がない。ということは ストックホルム以降かな?
東海道駅伝から ゴムですもんね?
箱根で 滑り止めの溝が出来たんですよ。あ~ これこれ これこれ!
(知恵)詳しいでしょ? 「オリムピック噺」っていうの やってるの。あっ ご存じありません?「てれび寄席」 はい。
あっ すいません…。すいません…。
あっ…。
昔の写真だ…。(知恵)えっ?あっ… お母さん 写ってない?
(五りん)う~ん 写ってないね…。
(知恵)えっ お父さんは?
(五りん)親父の顔 覚えてないからな~。
♪~(出囃子)
あっ 志ん生さんだ。(拍手)
(志ん生)「え~ 昭和11年 春に話を戻します。韋駄天が5年ぶりに東京へ帰ってきました。『ごめんください!』」。
(四三)ごめんください。
あれ? おかしかね。
8時には職人の方が見えてミシンの音で起こされよったばってん…。
辛作さ~ん?(勝)こん2階に先生は住んどったとですか?
17年間 お世話になったつばい。
…にしても 不用心ばい。辛作さ~ん? ちょうさ~ん?
遅くなりました。 あっ…。どうも。 勝蔵さん お客様です。
♪~
(勝)お留守のごたるですよ。あっ 本当ですか?
シマちゃん…。
はい?
シマちゃん… 生きとった…!えっ? ちょっと…。
ああ… よかった!
生きとったとね~! よかった~!えっ えっ… ああ…。
心配しとったとばい! 方々… 方々捜したとばい!いやいや 違います…。
第二高女のシマちゃん。震災でな 行方不明になっとった…。
シマちゃ~ん!あっ… 違うんです 違うんです!
あっ 違うて言うとりますよ?何が違うか!
はあ~ よかった…シマちゃん まだ走っとると?
母です!
金栗さんですよね?うん。
娘の りくです。 増野りくです。
えっ!?
(増野)りくっていう名前シマが付けたんです。
陸上の… 陸上の… 「りく」。
なっ。
あの… あの あの りくちゃん?
(笑い声)
びっくりしたば~い…。
そんなに似てます?
似とるも似とる! うり二つ!ねえ 増野さん?
えっ?まあ 私よりは多少 妻に似てますかね。
いや あんた 1%も入っとらんばい。(笑い声)
(ちょう)私たちは毎日 顔見てるからりくちゃんは りくちゃんよね。(辛作)うん。
家内も生きていたら 40ですからね。
そぎゃんね。あの りくちゃんが お針子さんとは。
何となく 離れづらくて親子で大塚に越してきちゃいました。
あっ 金栗さんは この度は なぜ東京へ?
4年後のオリンピックばい。
おお… 来るのか ついに東京に!(勝蔵)えっ!?はい!
まさか金栗さん 出るんですか?よっ 金栗!
いやいや… いやいや…あっ おるが走っとは聖火リレー。嘉納先生の頼みとあらば断れんけんね。
あ~ 今度のベルリンオリンピックでやるそうですね。
(一同)あ~!
あっ それが一つ。 もう一つは… こん男。(一同)うん?
あっ 小松 勝です。
こぎゃん見えて九州一周ば達成した健脚だけん。
おお~!彼ば 東京オリンピックのマラソン日本代表に育てて…金メダルば取らす!
(拍手と歓声)
こっちの学校に入る手続きばしました!
大丈夫か? 選手の数も レベルも金栗さんの時代とは違うぞ。
(孝蔵)<そのとおり! 韓国併合から26年朝鮮出身のランナーがマラソン界を席けんしておりました。その代表格が孫基禎と南昇竜。なんと 2人とも金栗足袋を履いてベルリンオリンピックに出場します。つまり この店に来て作ったわけですな>
(辛作)ほれ…。
うわ~。 これが孫さんの足型か…。
速かもんね~。
おう 負けられんな 小松君。
はい! あの~ 俺も…足に合った足袋ば作ってもらえませんか?
当たり前だ。 うちの足袋で走る以上勝ってもらわねえと営業妨害になるからな。
(笑い声)
よろしくお願いします!お父ちゃん ビール。
りくちゃん お代わり!はい。
「ちゃん」?あっ…。
す… すいまっせん。
皆さん 記念写真 撮りませんか?お~ いいな!
私 押します。はい 金栗さん 真ん中。
皆さん ギュギュッと。 いきますよ。
はい にっこり笑顔で。(写真を撮る音)
(知恵)お母さん 写ってない?(五りん)う~ん 写ってないね…。
お父さんは?親父の顔 覚えてないからな~。
♪~
「よ~うっ!」(鼓の音)
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
「よ~うっ!」(拍子木の音)
<1936年7月31日。ベルリンオリンピック開幕の前日。ついに 1940年のオリンピック開催都市が決まります>
<ローマが辞退しヘルシンキと東京の一騎打ち>
(山本 照)いよいよですね~。
(治五郎)今更 じたばたしても しかたない。
(副島)「人事を尽くして天命を待つ」ですな。
(田畑)ちょっと ごめんなさい。ごめんなさいよ ごめんなさい…。
いや~ シベリア鉄道の旅は地獄でしたわ! 失礼 失礼…。
(せきこみ)何が? ケツが バカになっちゃって。
田畑。食堂は高い しかも まずい。
また 便所が混むんだわ~。田畑。
外人は肉食だから クソが硬いんだろうね。
黙れ 田畑! 黙るか どっか行ってろ。
怒られた。・ミスター カノー。
お~ ミスター ガーランド。
<IOC アメリカ代表のガーランドと ブランデージです>
ハロー ソエジマ。
サンキュー… サンキュー ベリー マッチ。
うん?今 スイミングって聞こえましたけど?
ミスター カノー…
サンキュー。
シー ユー レイター。オーケー シー ユー。
ガーランド サンキュー。
アメリカは ツーね。ツー ツー。
(副島)これで 22票です。
ここに出席してる48名の半分つまり 24票取ればヘルシンキに勝てます。あと2票か…。
わっ! 王正廷。
<IOC 中国代表の王正廷。あの満州事変の交渉担当者です>
ヘイ ハロー。
中国は入れんだろう。
<中国の出方が勝敗を左右します>
万が一 取り損ねたら私としては ある覚悟を持ってる。
覚悟?脱退だよ 脱退。
日本は IOCから脱退する。黙れ… 黙れ 嘉納…。
何?後ろ 後ろ…。
(治五郎)おお…。
ミスター カノー…
オーケー オーケー。
(拍手)
♪~
(笑い声)
(どよめき)
(拍手)
よしよし よしよし…。
♪~
サンキュー。
♪~
サンキュー ソー マッチ。
♪~
(秒針の音)
ヘルシンキ。
トウキョウ。
ヘルシンキ… トウキョウ…。
<そして 3時間後>
トウキョウ!(歓声)
<1940年 東京!>
田畑 やったな!
<ここに アジア初のオリンピック開催が決定したのです>
王さん! 王さん…。
同じアジア人として 私東京を支持するしかなかった。
スポーツと政治 関係ない。
王さん… ありがとう。
ありがとう 本当に。
シエシエ シエシエシエシエ シエシエ!
ヘイ ミスター ラトゥール ラトゥール!
サンキュー サンキュー。
アイ シンクヤポン シュッド サンク ヒトラー。
えっ 何? えっ えっ…?
えっ…? 何か 大事なこと言ったよね 今。
日本を代表してヒトラーにお礼を言いなさいと。
えっ えっ えっ?ヒトラーにお礼を言いなさいと。
お… 俺が? ヒトラーに? 何で!?
田畑 持って帰るぞ オリンピックを!東京に!
は… はい…。(治五郎)ハハハハ!
何で…?
(ラジオ・河西)「東京36票 ヘルシンキ27票」。(一同)ばんざ~い ばんざ~い!
(拍手と歓声)
(ラジオ)「第12回オリンピック大会が東京市で開催される…」。
(りく)決まったんですか?決まった? 決まった? えっ?
金栗さん よかった よかった!
東京 決まったんですか!?あ~ りくちゃん 決まった 決まった!
決まったばい。いいとこ来たよ りくちゃん。
勝の足型 とってみるか?お~!
いいんですか?はい お願いします!
わ~ お願いします! では…。
(ラジオ・治五郎)「36票の重みをかみしめ…」。
世界に手本を示す覚悟でやらなければならない!
24年前… 僅か2人の選手をストックホルムに連れていってその時は まるで勝 海舟が渡米した時のような気持ちだった。
金栗君 三島君 ありがとう。
治五郎先生 ありがとうございます。
(りく)失礼します。
(ラジオ・治五郎)「前回のロサンゼルスには大軍を送り 好成績をあげた」。
中でも水泳は 世界を圧倒する強さを誇った。
田畑君 ありがとう!(副島のすすり泣き)
しかし 我々の力など ごく僅かです。
全て国民の皆さんの…。
(副島)国民の皆さん~!(泣き声)
日本は… 世界の この信頼に背かず…1940年の大会を意義あらしめねばなりません~!
そこだよ そこ!
(河西)では総務主事の田畑政治さんからもひと言 お願いします。
え~…。
あ~ やはり アレでしょうな米国のアレや ドイツのナニに負けない日本のソレを目指すべきでしょうな。やはり 選手村でしょうな。
こいつ 何言ってるか 分かんねえな。…はい。
(りく)我慢して下さいね あと少しですよ。あと少し…。
はい ありがとうございます。
出来ました!じゃあ生地持って こっち来な。 教えるから。
そぎゃんなら 俺たちは 走ろうかね。
はい。 東京まで4年しかなかですもんね。
お~ そぎゃんたい。
よし! よし行こう!うっし!
行ってきます!行ってらっしゃい!
行ってこい 行ってこい!よっしゃ~!
♪~
よっしゃ~!
よっしゃ~!お~い!
<東京は3日間 お祭り騒ぎ。二・二六も戒厳令も すっかり忘れ…>(花火の音)
<花火を打ち上げ提灯行列で祝ったそうです>
(五りん)<翌8月1日 聖火ランナーがブランデンブルク門に到着>
<熱狂とともにベルリンオリンピックが開幕します!しかし 田畑さんの目にそれは異様な光景として映りました>
<街じゅうに 五輪の旗とナチスの旗が並んで はためいていたのです>
♪~
(河野)ヒトラーだよ。ヒトラーが ラトゥールに圧力をかけ東京支持を要求し日本に恩を売ったんじゃないかね?
<かつて オリンピックをユダヤの汚れた芝居と揶揄した総統 アドルフ・ヒトラー。側近 ゲッペルスの助言によって態度を急変。総力を挙げてオリンピックの準備に取り組みました。自然石を使った 10万人収容のスタジアムそして 平和の鐘事務総長 カール・ディーム発案による聖火リレー。記録映画を著名な監督に撮らせたのもベルリンからだそうです>
レニ・リーフェンシュタールいやいや いやいや… 美人ですな~。
ヒトラーが その才能にほれ込み莫大な予算を投じて作らせた不朽の名作 それが映画「オリンピア」。
そんな いいもんじゃねえや。(今松)師匠 映画 見たんですか?
みんな だまされちゃってな。
日本も ドイツみたいに強くならなきゃいけねえってあれだよ あの… フロ…フロっての あんだろ?
風呂釜?プロパガンダ!
ナチスの大宣伝です。
そう それ。
いや ちょっと… 今 師匠…。えっ?何? 今…。
曲がってたから直してやろうと思っただけだよ。あっ そうですか。
そりゃ どうも…。曲がってるよ…。
これ ちゃんと伸ばさないと。
<選手たちは 日本軍の戦闘帽をかぶり開会式に臨もうとしていました>
はい ご苦労さん ご苦労さん…。
支度はいいかい?(松澤)いやいや…。冗談は よしとくれよ まーちゃん。それ ロサンゼルスの帽子じゃない。
何をかぶって歩こうが俺の勝手だ。
貴様らこそ何だ その戦闘帽は。ドブネズミじゃあるまいし。
(小池)かっこいいでしょ こっちの方が。
(宮崎)何か 田畑さん一人だけ浮かれてるみたいですよ。
浮かれて何が悪い!俺は スポーツをやりに来たんだよ。
歩くのは戦場じゃない 競技場だ。
ナチスに こびてんのか日本軍に気遣ってんのか知らねえがこんなものはオリンピック精神に反する!
<いよいよ開会式!>
♪~
♪~
<何もかも絢爛豪華。そのスケールと完成度ドイツ人らしい統制のとれた演出に嘉納さんはじめ 日本人はただただ圧倒された>
♪~
すごかったね~。
ええ… すごい。
ハハハハ… ラトゥール。
マイ フレンズ…。
オーケー?
…とはいえ 責任は重い。
私はね 副島君中国の委員が支持してくれたことを重く受け止めておるんだ。
ありえんだろう昨今の日中関係の悪化を考えたら。
恐らく 彼は 祖国で非難の的になるでしょうな。
そこだよ そこ。 スポーツに政治を介入させないという強い意志だ。
東京オリンピックはアジア共通の悲願なんだよ。
まずい…。
あ~ 何かな… 息が詰まるじゃんね~。
(宮崎)ハイル ヒトラー!うわっ。
<若い選手の間では「ハイル ヒトラー」がちょっとした流行語になっていました>
あ~ 小池 しょうゆ取ってくれ。ハイル ヒトラー。
ハイル ヒトラー。(笑い声)
カクさん それ一人で全部食べるんですか?
まだまだハイル ヒトラー!(笑い声)
いい加減にしたまえ!朝から 飯がまずくなる。
ほんの冗談だよ。冗談でも やめてくれ。
あんな独裁者をもてはやすのは。えっ?
大体 何で日本人しかいないの?選手村なのに。
特別待遇だそうだよ。西洋人に囲まれて気疲れしないように。
いやいやいや あれがよかったじゃんね~ロスは。
白人も黒人も一緒になって大騒ぎしてさねっ?
ヘイ ヤーコプ! カム カム カム カム…。
(ヤーコプ)オハヨウゴザイマス。コックに言っとけ。
薄いんだよ 味が ミソスープの。
しょうゆとソースは分かるように目印をつけろ。
ついでに 検閲か何か知らんが郵便物を開封するな。 気分が悪い!
分かったか!ハイル ヒトラー!
お前か! お前が はやらせたのかヤーコプ!(笑い声)
行け! 早く ほら… ほら。スイマセン。
ミソスープの味が薄いって言ってこいほら ほら。
すぐ言えよ。 仕事しろ お前は。
彼は ユダヤ人でしょう。えっ? あっ そうなの?
ヒトラーは大会期間中に限り差別を緩和しわざと ユダヤ人を各所に配置してるようです。期限付きの平等です。
はあ… あっ 出発ですか?
早いですね 陸上ですか?ええ。 吉岡君の100の予選。
あっ 新聞社は競技場に電話を引いてるそうですね~。
ラジオの実況生中継には負けられませんからな。
田畑さん 次の東京はテレビジョンの時代です。
えっ?
<ベルリン大会のテレビジョンはまだ試験段階でした>
(一同)おお~!
うん? んっ んっ? どれが吉岡君だね?えっ?
あっ… これかね? これ?
え~っと… それは…清掃員ですね。(一同)あ~。
<その吉岡選手が出た100m走で金メダルを取ったのがアメリカのジェシー・オーエンス。世界が注目する陸上競技最大のスターです。10秒03という世界記録で 100を制すと200m 400mリレー 走幅跳4つの金メダルを獲得します。これじゃあ 白人至上主義のヒトラーは面白くない。だからでしょうか ヒトラーはオーエンスと握手しなかったそうです>
気持ちの問題だからさ…。ハイル ヒトラー。
何かな~…。
(拍手と歓声)
<フィールドでは 走幅跳 銅メダルの田島直人選手が三段跳で 見事日本最初の金メダルを獲得します!>
<棒高跳では西田修平選手と大江季雄選手が5時間を超える死闘の末それぞれ 銀と銅を獲得!そして いよいよ孫さん 南さんたちが走るマラソンです>
(辛作)お~い 金栗さ~ん始まっちゃうよ~!は~い!
(ラジオ・山本)「夜11時になりました…」。りくちゃん ミシンちょっとやかましいよ。
すいません。「お待ちかね マラソン競技です」。
よ~し 始まるよ~!
第11回オリンピック大会陸上競技の最後を飾る マラソン競走は祖国の名誉を賭しての一戦であります。
「日本からは 孫君 南君 塩飽君…」。
よし いけ!(拍手と歓声)
9日 午後3時。
(号砲)
号砲一発折からのベルリンとしては珍しく暑い天候の下 スタートしました!足取りも軽く 大トラックを2周し前回 ロサンゼルス大会優勝のアルゼンチンのザバラを先頭にたった今 マラソン門を通過。42.195kmの難コースへと 脱兎のごとく姿を消したのであります。
「ベルリンにある日本人は 今日こそ苦節二十数年の実を結ばんものと総動員いたしましてコース中 最も難関とされているビスマルク坂付近に たむろし必死の応援に努めております。コースは 坂また坂の前代未聞といわれる難コースであります」。
(あくび)
(緒方)ママ 混んでるね~。 ハハッ。
ウイスキー。
(マリー)オリンピックで 毎晩 寝不足よ。
ハハハ… アルゼンチンのザバラっていうのが優勝候補だってね。
日本は孫選手よね。
孫基禎 世界記録出してメダルも期待されてるんだ。
「我らが孫選手 南選手胸の日章旗も 一段と鮮やかに必勝を期して 参加しております」。
それでは 放送を終了いたします。
(一同)えっ!?えっ どうなってるんだ…?
(一同)ええ~!?
午前0時になりました。 放送はここで一旦 終了いたします。結果は 明朝6時半にお伝えします。日本の皆さん おやすみなさい。
お~い!何で?
朝まで起きてろってか?いやいや…。
やっぱり 待ってるしかないんだよね。
ええ…。
<当時の実況は ここまでなんですがそれじゃあ あんまりなんで…私が…。アルゼンチンのザバラが1位で折り返す頃孫選手は3位! 力走です>
<この日のベルリンは異例の猛暑。暑さにやられ途中棄権する選手が続出します>
う~ん…。
どうなってんだよ!…ったくよ~。
よ~し! 走っぞ 小松 勝! 伴走ばい。
そぎゃんですね! 孫さん 南さんにエールば送りましょう!おう!
届かねえよ。ちょうど出来ました!
あっ…。ばっ! 軽か!
これ全部 りくちゃんが?はい! 生まれて初めて 型から全部。
お~ 大したもんだよ! ほれ!
履いてみて。
よっしゃ~。
(一同)おお~。
おお~… ハハハハ!
(りく)どうですか?りくちゃん ありがとう!
あ~ よかった~。
(勝)しゃっ しゃっ しゃっ しゃっ…。
よ~っしゃ~! うお~!
♪~
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ…。
♪~
(勝)孫さ~ん 南さ~ん!
負けんな~!
♪~
えっ?
アディオス ヤマモト!どうした? 山本君。
あの… これを。
(治五郎)あっ ザバラ棄権?(山本)はい。
(ラジオ・山本)「午前6時30分です。おはようございます。マラソンは その後2時間20分を経過いたしました」。
(緒方)えっ うそだろ 6時間たってる。えっ?
「スタジアムはマラソンの1着を待ち構えております」。
辛作さん… 辛作さん…。「ついに 拍手が起こっております。満場に拍手が起こっております」。ちょうさん はよ起きて。
辛作さん… 辛作さん 起きて。
(拍手と歓声)
(山本)スタジアムはマラソンの1着を待ち構えております。あっ 今 スタジアムの中に現れました!孫君です! 孫君です!マラソン堂々孫君は やがて テープを切ります!」。
やった~!おい! えっ!?
勝った? 勝った?「孫君 ついに1着!」。
勝ちました! ついに金メダルばい!
(拍手と歓声)
(山本)孫君です! 孫君です!孫君 1着! 孫君 1着!あと50mで テープを切ります。やったぞ~!
「40m 30m 20m…」。いけ!
10m!(歓声)
(山本)ついに テープを切りました!(拍手と歓声)
やったぞ~ 金栗君!
(歓声)
(辛作)やった~!
♪~
ついにやったぞ 金栗君!わ~ 金栗君! 金栗君 やったぞ!
やった やった やった やった!
(山本)「続いて 2着のハーパー。そして 3着の南昇竜!我が日本は 苦節二十数年にして堂々 今 孫君によりましてマラソンのテープは切って落とされたのであります」。
♪~
ありがとう~。(拍手)
♪~
<しかし 表彰式で優勝した選手の出身国の国旗が掲げられ国歌が演奏されることを孫選手と南選手は知らされていませんでした>
♪~(「君が代」)
(山本)「日章旗よメインマストに高々に揚がれ。日章旗よメインマストに高々に揚がれ。ついに 我がマラソン 孫君によりまして堂々 優勝いたしました」。
どんな気持ちだろうね…。
2人とも 朝鮮の人ですもんね。
「今 メインマストに高々と日章旗が翻りました」。
俺は うれしいよ。
日本人だろうが 朝鮮人だろうがアメリカ人だろうが ドイツ人だろうが俺の作った足袋履いて走った選手はちゃんと応援するし勝ったら うれしい。それじゃ駄目かね? 金栗さん。
「この十数万の観衆の拍手をお聞き願います」。
(スタジアムでの拍手と歓声)
よかです。 そっでよかです。
ハリマヤの金メダルたい!
ありがとうございます!
(辛作)おい… よしてくれよ おい…。
胴上げしましょう! 皆さん胴上げしますよ~! 胴上げですよ!胴上げしますよ。よっしゃ~!胴上げだ!
やめてくれ やめてくれ…。せ~の!
わっしょい! わっしょい!ああ~! やめろ~!
下ろしてくれ… やめてくれ…。
ばんざ~い!(辛作)もう やめてくれ…。
♪~
さて え~ 陸上の大勝利に続きたい水泳チームですが肝心の総監督が どうも本調子じゃない…。
(ため息)
(山本)日本を代表してヒトラーにお礼を言いなさいと。
何で 俺が… 冗談じゃない。
あんな野郎に礼など言わん…。(水をかく音)
うん? えっ? えっ?
えっ えっ? ちょっ…あっ ごめんなさい ごめんなさい…。
うん? 前畑君?
あっ… おい 待て 前畑君! 前畑君!
おい! 駄目じゃないか こんな時間に。
就寝時間 とっくに過ぎてんだぞ。
(秀子)眠れません。
前畑君…。
俺もだ。
何だか…好きじゃない このオリンピック。
私は好きになる このオリンピック。
今は嫌いやけど… 金メダル取ったらこのオリンピックのこと好きになれると思う。
前畑… 前畑~。
そうだよ 前畑! うん!
頑張れ 頑張れ! 前畑 頑張れ!
えっ? それ言っちゃう?
前畑 頑張れ! 前畑 頑張れ!いけ~!
<いよいよ 次回 オリンピック史に残る伝説の「前畑がんばれ」>
(一同)頑張れ! 頑張れ!(永田)頑張れ 前畑!
<「頑張れ」の陰でうごめくヒトラーの野望>
頑張れ! 頑張れ!<頑張れ! みんな 頑張れ!届け この叫び>
1912年のストックホルム五輪から本格的に映像化されてきたオリンピック。
時代とともに洗練された作品が作られてきました。
IOCは 毎回記録映画製作を義務づけているのです。
エイドリアン・ウッドさんは 20年かけ過去100年分の記録フィルムを修復してきました。
オリンピック映画は人類の記録でもあるのです。
「オリンピア」はアーリア人の肉体美を強調しナチズムを宣伝するプロパガンダとして非難を浴びています。
しかし芸術的な映像は高い評価も受けました。
映像美を追求するため こんな撮影手法も。
戦後の東京オリンピックは市川 崑さんが手がけることとなります。