アトミックモンキー/声優・演技研究所の卒業生たちによる座談会
略して、《アト研座談会》
今回このアト研座談会に参加していただいたのは、
榎木 淳弥(3期卒業生)
高橋 信(5期卒業生)
三浦 勝之(5期卒業生)
小市 眞琴(7期卒業生)
以上のメンバーです。
[この座談会は2015年夏に実施しました]
(写真左より三浦勝之・小市眞琴・榎木淳弥・高橋信)
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―収録の現場で悔しい思いをされた事は?
高橋 他の人が演じているのを聞くたびに、ああ、そういう表現があるのか~、と。
僕は、台本を頂いたときに、他の人の台詞を演じてみる事があるんですが…
三浦 ああ、やりますね。
高橋 実際現場でその役の方の演技を聞いてみると、場面場面のつなぎ方の説得力、表現力が全然違うんですよね。
また、ディレクターさんからダメ出しを受けて、ああ、自分未熟だな、と思い知って。
その度に涙が出ることがありますね。
小市 自分がこうだ!と思って作って持っていった演技プランを、
音響監督さんが「こういうやり方もあるんじゃない?」とやってみて下さった事があって、
それが凄く面白くて、悔しくて。自分では探せなかった道もあるんだな、と。
榎木 わかる!発見できた感謝もあるけど、悔しさもある。
小市 これからも、日々勉強です。
一同 うん。(同意)
三浦 僕はゲームの仕事が多いので、一人での収録が多いんですが、
自分の得意とする部分と苦手とする部分の差みたいなものが顕著にあって。
やってみてOKをいただくんですけど、出来上がったのを聞いてみると、
苦手なんだなっていうのが自分でわかって、悔しい思いをしてますね。
― 研究所で学んだ事でこれは大切、という事は何ですか。
また、現場で活かせた事って何ですか。
高橋 さっきも出ましたが、瞬発力、ですね。自分の中でプランを立てて演じてみても、
音響監督さんに「他のにして」と言われた時、瞬発的に変えなきゃいけない時があります。
瞬発力と同時に必要なのが、客観的に見ることができるかどうか。
さっき自分がどんな演技をしたんだっけ?と客観視できないと、瞬間的にかえられないんですよね。
役に入り込むのは良い事だと思うんですが、どこかで自分を客観的に見つめている方がいいというのは、
研究所で教わって活かせている事ですね。
三浦 具体的には、どういう風に指導してもらったんですか?
高橋 「高橋君がそうやりたいのはわかるけど、私が芝居をつけるとしたらこうやる、
こういう方法もやってみたら?」っていう、別の方法、別の道を提示して下さいました。
そうして、自分の中の頭の中だけの固い意見や、プランだけじゃダメなんだな、と知ることができたんです。
小市 私は、愛河里花子さんに、プロになったら先輩が絶対現場にいるから、
先輩に対する姿勢や、立ち居振る舞いみたいなことも細かく教えていただいて。
これとこれとこれは大事〜、みたいな。
一同 (羨ましそうに)ほう~。
小市 それをメモに残しておいたんですが、おかげで、おどおどしないで現場にいられたのは良かったですね。
テンパって忘れちゃいそうなことを教えて下さったのは大きかったです。
三浦 それは具体的に役立ちますね。
高橋 現場での気遣い、大事ですものね。
三浦 僕の一番の課題は瞬発力だったので、研究所の仲間の芝居を見て引き出しが増えたかな、って。
一同 なるほど〜。(納得)
三浦 様々な演技プランを持っていないと、求められるものに反応出来ないのかなって。
まだまだ引き出しは少ないんですけど、様々な演技プランは絶対持ってた方がいいな、って。
榎木 研究所のレッスンって、マイク前に立つことは比較的少ないと思うんですけど、
その分お互いの身体を使って、立ち稽古、舞台形式での稽古をやる事が多かったんですよね。
それが今思うとすごく貴重な体験だったなって思うようになりました。
絵に台詞を合わせることは、積み重ねて行けば技術的な向上もあってクリアできるのかもしれないけど、
いかに二次元の世界を視聴者に三次元の世界に感じてもらえるかという所では、
距離感だったり、相手に台詞をかけたり、表情を見て自分の感情を動かすとか、そういう事が大切で、
じゃあ、研究所を出た後にそれが勉強できるのかというと、なかなか機会をつくるのが難しいと思うので、
そういう経験ができて学べたことが、今、現場で活かされているんだと思います。
三浦 舞台の稽古で獲得出来るスキルとして、
実際に体を動かすことによって生じる肉体の変化や姿勢・呼吸・発声の変化などを感じることとかありますよね。
榎木 そうだよね。今でもアフレコの現場で緊張感からか、意識して「距離感を出さなきゃ」ってなってしまう時があって。
高橋 (驚き)今でもあるんですね。
榎木 今でもあります。そういう時は原点に立ち戻って舞台をやりたいな、と思いますね。
やっぱりベテランの人たちが今でも舞台をやってらっしゃるのはそういう部分もあるのかな、と。
一同 はい。(納得)
―普段やっているトレーニングって、プロになってから変わりましたか?
小市 筋トレは以前から欠かさずやっています。腹筋、インナーマッスルを鍛えるトレーニングを毎日。
高橋 共鳴のトレーニングは絶対必ずやっています。20分はやらないと声が起きない。
何かやりながらでも出来るので、欠かせないですね。
榎木 僕は映画をレンタルしてきてお芝居を盗んでいますね。
上手だなと思う方のお芝居を観ることで気づくこともあると思うので、続けています。
三浦 テレビで聞こえてくるナレーションを一緒に言ったりしていますね。
どんなテクニックを持ってるのか、とか。どんな工夫があるのかなどを考えながらやってます。
―現場での失敗談はありますか?
高橋 失敗は沢山あります。
一同 (笑い)
高橋 お腹の音が一切やまなかったことがある。
本当に止まらなくて、喋れば喋るほど余計にお腹が空いて音が出て。
出来るだけマイクに音が入らないように体の向きを変えたりしてました。あれは恥ずかしかったなあ。
榎木 そういえば、本線別線、って用語がわからなくて困った事がありました。
混乱しそうな専門用語はしっかり覚えていけば良かったなと。
小市 私もお腹の音はありましたね。食べ物持ってくれば良かったなって…。
三浦 僕はペーパーノイズですかね。ある時台本を落としちゃった事があって。
特に自分の出番じゃない時に大きな音を鳴らしちゃった、あの時の絶望感。
一同 (笑い)
三浦 (バサッ)、大丈夫かな?・・・ああ、案の定リテイクだ(泣)、みたいな。
榎木 それって、居眠りしちゃってたと疑われそうになるよね。
小市 あ~。(納得)
三浦 くれぐれも気をつけましょう。(笑)
―現場で出会った役者の皆さんから受けたいい影響はありますか?
高橋 演技が上手くいかなくて、何度もリテイクを重ねてしまって、
落ち込んじゃいけないと思いつつやっぱり落ち込んじゃって、
その時の先輩のお一人がガヤ録りの時にガヤに紛れて
「しょうがねえよ、そういう失敗乗り越えて頑張って行かなきゃいけねえからさ」と
励まして下さって…それは泣いちゃいましたね。
一同 (笑い)
高橋 将来現場に後輩が出来たら、自分もそういう事が出来る人間になりたいですね。
本当に感謝でいっぱいです。
榎木 お芝居のキャリアはある方ですが、若手といわれる方で、でも年齢も近い方なので、
現場で一緒になった時に、盗めることがあればと注目していたんですが、
いわゆる「アニメにはまる喋り方」じゃなく、
もし自分がやったら、下手に聞こえてしまうんじゃないかと怖くて出来ないやりかたで、
演技されていて、しかもそれが、芝居として成立していて凄く上手くて、さすがだなと思いました。
一同 あ~、なるほど。
三浦 僕の行った現場では、ベテランの声優さんなのに、凄くフレンドリーに接して下さる方がいらして、
アフレコを聞いてみると、小さい声でもちゃんと芯のある芝居をされいて。凄いなと思いました。
普段の立ち居振る舞いも本当に格好良くて、スタッフさんに冗談を言ったり、
現場の雰囲気を盛り上げて下さっていたので、やっぱり凄い人なんだな、と。
小市 小野友樹さんに私の振付したダンスを踊っていただく機会があって、
ちょっと難しい振付で、苦労させてしまう部分があったので、私が少し簡単にしましょうか?と提案したら
「これでいただいたのでこれをやります!」と、プロ根性が凄かったんです。
私も何でも諦めずに取り組んでいく姿勢を大切にしようと思いました。
―皆さんが思うプロの声優とは?
榎木 僕の場合、ありがたいことに凄く上手い人ばっかりが周りにいらっしゃって、
皆さんとお仕事させて頂いて感じたことは一見簡単にこなしてるように見えるけど、
そういう人ほど表には見せずに裏で物凄く足掻いて努力しているってことです。
もっと良くなる、もっと上に行ける、と。もう一回台本読んだら何か変わるんじゃないか、とか、
そういう向上心をもった人がプロなんじゃないかなと思います。
高橋 どの仕事もそうかもしれないんですが、仕事を続けていることですね。
DVDなど、未来にも自分の演技が残る仕事なので、過去にならないことがプロとして大事じゃないかと。。
もちろんこの道で食べいけるっていうのもプロだし、それに必要な向上心と、努力・工夫の持続力、
その三つがそろって初めてプロなのかなと思います。
小市 責任をもってやるっていうのが大事だな、と。あと、向上心。
お二人が仰ってるのを聞いて改めてなるほどな~って思ったんですけど、
声優以外でも、芸人さんとかでも大御所の方たちがまだまだ自分は若手だと言って、
向上心を持っているじゃないですか。そういう姿勢を、見習いたいと思います。
・・・プロの声優か~、これからもっと深く考えて行きます!
三浦 こいつになら喜んで金を払うぞ、と思っていただけること。
お客様からも、スタッフさんからもそう思われるのがプロなんじゃないかな。
榎木 あ、それ凄くストンと来た。
一同 (笑い)
―後輩である現研究生に一言!
高橋 型にはまらず、その時感じた感情を忘れないこと、
その時感じた喜怒哀楽を大事にして、自分の中に落として、引き出しの中に蓄えておくことが、
芝居をするときに役に立ちます。積み重ねてください!
榎木 自分の可能性を信じて、精一杯頑張ってほしいと思います。
小市 ここ(声優演技研究所)でやることって、役者として、声優としてやっていく基盤になるものだと思います。
そこをおろそかにすると、プロになった時に「あの時ちゃんとやっておけばよかった」と
後悔する時が来ると思うので、今教えてもらっていることをしっかり吸収してほしいと思います。
三浦 復習、反芻すること。メモに頼らず、その時その場で頭の中で消化すること。
頭の中でやってみること。そうすれば忘れないと思うんですよね。
高橋 現場ではメモをとってる暇なんてないですからね。
小市 確かに。
―これから声優になりたい、これから研究生になるかもしれない人たちに
メッセージ、お言葉をいただけますでしょうか。
高橋 さっき言ったことと重なりますが、その時感じた感情を大事に、忘れないように。
引き出しの中に落として、入れて、求められた時、いざという時に引き出して使えるようにして頂けたらと。
榎木 急ぐ必要はないんじゃないかなとおもいます。年齢は関係ない。何歳だろうがなれる人はなれるし、
焦らず自分のやりたいことをやってから役者になってもいいんじゃないかって思います。
きっとその様々な経験がお芝居の役に立つので。
三浦 漠然と声優になりたい人って沢山いると思うんですが、
この道はナレーターとか舞台とか吹き替えとかいろんな道にも派生する道で、
そういういろんな視点があった方が、
自分に向いている新しい可能性を見つけ出せると思います。
小市 人の話を聞く、ってすごく大事だなと。「自分はこれがやりたい」と思っていても、
人からこっちをやってみな、こっちの方が向いている…と言われたときに、
自分のやりたいことと求められてることが違っているからといって、その意見を取り入れないと世界が狭くなって、
魅力的な表現をすることができなくなってしまうと思うので、人の意見も大切にした方がいいと思います。
今日は先輩たちのお話を聞けて、なるほどなって思うことが沢山あって、勉強になりました!
―今後の目標や抱負など、教えて下さい!
高橋 求められる人になりたいです!
榎木 少しでも良い役者になって、死ぬまでに一つでも多く良い作品に関わっていきたいです。
三浦 レギュラーが一本欲しいです!当面の目標はそれですね。
小市 実力をもっともっとつけていきたくて、一つの役を突き詰めるのも大事なんですけど、いろんな役を演じてみたいです。
その為にも基盤になる実力、お芝居を身につけて、いろいろな作品、役と出会えていけたらいいなと思っています!