島根県の公式ホームページに「相撲発祥の地島根」とある。タケミカヅチとタケミナカタが、出雲大社の西にある稲佐の浜で力比べをした。『古事記』にそう記されているからだ。
隠岐の海は今、いまだ優勝力士を輩出していない伝説の地、島根に初の天皇賜杯をもたらそうとしている。
34歳のベテランが前に出た。志摩ノ海を真っすぐ押し切る。「今日は気持ちが強かった」。3年前の秋場所に並ぶ、自己タイとなる初日から6連勝。並走していた貴景勝に土がついたことで、単独トップに躍り出た。
6日目終了時点の平幕単独トップは2008年秋場所の豪栄道以来。7人が1敗で追ってくる大混戦の中で、隠岐の海は熱い思いを口にした。
「勝っていく人しかチャンスはないから。勝ってる人しか(優勝と)言えないっすから。チャンスですから。しっかりやりたい」
松江藩は雷電ら強豪力士を抱えていたことで知られている。第12代横綱陣幕が1867年(慶応3年)に優勝相当の成績を残したのが、島根県出身力士として最後の記録としてあるが、優勝制度ができた1909年夏場所以降に優勝力士は存在しない。
名古屋場所後恒例の隠岐の島合宿は今年で9回目を数えた。地元の期待を一身に背負う隠岐の海は、34歳まで続けてきたからこそ周囲へ「恩返しをしたい」という思いにあふれる。
まだ6日目。「気持ちで負けたらずるずるいくんで。気持ちだけ。乗り越えたいですね」とぶれもない。若い力士にはない地に足がついた経験で新たな伝説をつくる。(岸本隆)