日韓関係の悪化による影響が、各方面に広がっている。両国は市民レベルでは助け合い、学び合ってきた。交流を断つのではなく、成熟、拡大させたい。それが関係改善の糸口にもつながるはずだ。
日韓の自治体間交流は活発だ。姉妹(友好)都市提携をしている日本の自治体は、都道県が延べ十九、市区町村は百四十三もある。米国や中国に続く数字だ。
日韓関係は近年、多様さも増してきた。日本では、女性の心理を丁寧に描いた韓国人作家の小説がベストセラーになった。
韓国が進める外国人労働者などの受け入れ策を、日本の多くの自治体が視察し、参考にしている。
また、就職難の自国を避けて、日本企業で働き口を探す韓国の若者が増え、注目を浴びている。
海外に目を向ければ、日韓の企業が、インフラや資源開発事業で協力しているのが現実だ。
日韓間の往来者数が昨年一千万人を超えたのは、こういった時代を反映したものといえる。
ところが今年に入り、自治体が主体となった交流の中断が相次いでいる。政治レベルの対立が影響した結果だ。
特に韓国では、日本への旅行を自粛するムードが広がっている。関係が困難な時にこそ幅広い世代による交流を続けるべきだが、韓国からの観光客の減少で、地方都市をつなぐ航空便が縮小を余儀なくされている。
東京と大阪で今月七日、差別反対を訴える集会「日韓連帯アクション」が開かれた。
若者らが日本語や韓国語で、「差別や憎悪よりも友好を」と書かれた紙やプラカードを掲げた。日韓関係への危機感の表れだ。
こういった動きを受け、菅義偉(すがよしひで)官房長官は記者会見で、「両国の将来のため、相互理解の基盤となる国民間の交流はこれからも継続していくべきだ」と述べた。
交流の重要性を認めながらも、政府レベルでは、相手側に責任を押し付けるだけで、打開の動きが見えない。残念な事態だ。
そもそも対立の原点には、元徴用工問題を巡る韓国大法院(最高裁に相当)の判決がある。
両国の歴史認識に端を発した問題で、経済、安全保障にも波及し、出口が見えなくなっている。
今後、国連総会や天皇陛下の「即位の礼」、日中韓首脳会談など首脳クラスが顔を合わす機会が続く。市民の交流に水を差さないためにも、関係修復に向け、知恵を出し合ってほしい。
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